"ムエタイ最強"日本人王者が「ONE」初参戦! 吉成名高「『こんなアメージングな選手がいたのか!』と世界を驚かせたい」
吉成名高選手。前人未到の3階級制覇、破竹の35連勝中!
3月23日開催の格闘技「ONE172」に、日本の立ち技オールスターが集結!「いつか武尊選手と同じ舞台で......」という夢がついに現実に。ムエタイPFP1位・吉成名高24歳がONEのリングへ。"最強"の男がこれから挑む新たな戦いと、そこで見せたいもの、そして未来について語った。
■ムエタイ王者・吉成名高「ONE」初陣ムエタイ界のPFP(パウンド・フォー・パウンド=階級差がないとした場合、誰が最強かを示す称号)1位に君臨する吉成名高が、ついにONEの舞台に立つ。3月23日、さいたまスーパーアリーナで開催される「ONE Championship『ONE172:武尊(たける)vs ロッタン』」において、元ルンピニースタジアム王者ラック・エラワンと対戦する。
タイ人以外では初のラジャダムナンスタジアム3階級制覇という偉業を成し遂げ、現在35連勝中と破竹の勢いを見せる彼が、新たな舞台でどんな戦いを見せるのか。
ONE独自のルールやオープンフィンガーグローブ(OFG)への適応、さらには、吉成の階級に王座が新設される可能性も注目されている。
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吉成の格闘技人生は4歳の頃、兄の影響で始めた空手から始まった。小学3年生でキックボクシングを習い始め、アマチュアの大会で活躍。やがて「もっと本格的にやりたい」という思いから、現在のエイワスポーツジムへ。
そこではタイ人コーチによる本場仕込みのムエタイを学ぶことができた。そして小学6年生のとき、彼の人生を決定づける転機が訪れる。
「タイで生のムエタイに触れたことが自分の格闘技人生、そして人生のターニングポイントになりました」
ジムの中川夏生会長がタイで試合をするチャンスを与えた。日本ではすでにキックボクシングのジュニアチャンピオンになり、自信を持って臨んだ初めてのムエタイの試合。しかし、「いざ始まってみると、前蹴り、ミドル、組んでからのヒザや崩しで何もさせてもらえませんでした」。
初めてのムエタイの試合は黒星スタート。そこで芽生えたのは敗北の悔しさよりも、本場ムエタイの奥深さへの強烈な憧れだった。
「ラジャダムナンで試合を見たときに、あの会場の雰囲気が本当に衝撃的で、ここに立ちたいと思ったんです」
この経験を境に、試合のたびに現地へ赴くようになった吉成。彼の挑戦はここから始まった。
タイのジムで練習を積む中で、吉成はムエタイの技術だけでなく、その文化にも触れた。
「同い年や年下の選手がジムで練習を終えた後、当たり前のように掃除をして帰っていくんです。彼らにとってジムは、使わせてもらっている場所だったり、住まわせてもらう場所。だからこそ、試合で結果を出して恩返ししたり、掃除をして感謝を示したりするんです」
そうした姿勢を目の当たりにして「人間的に成長することの大切さ」を学んだという。
そして、2018年にラジャダムナンスタジアムのミニフライ級王座を獲得。翌年にはルンピニースタジアムの同階級の王座も獲得し、「2大殿堂」の王座獲得という日本人初の快挙を成し遂げた。
その後さらに階級を上げ、2023年にはラジャダムナン・スーパーフライ級暫定王座を獲得し3階級制覇を達成。2024年には、同階級の正規王者となった。吉成は「ムエタイの歴史を塗り替えた男」として、誰もが認める存在になった。
昨年2月、スーパーフライ級正規王者から1Rでダウンを奪い判定勝ち。ラジャダムナンスタジアム3階級制覇を達成 ©RWS
昨年12月、ラジャダムナン・ワールドシリーズでは大差の判定勝利でスーパーフライ級3度目の防衛に成功 ©RWS
数々の偉業を達成し、ムエタイ界で唯一無二の存在となった吉成にとって、次のステップはどこにあるのか。
「ONEを主戦場にしている選手とは、防衛戦などでも交わることがなかったので、戦ってみたいという気持ちは強いです」
次なる舞台はアジア最大の団体「ONE Championship」。吉成は、以前からONEという舞台を意識していたという。
「ロッタン選手やタワンチャイ選手ら純ムエタイで活躍していた選手たちがONEで活躍してスーパースターになっていく姿を見て、本当に華やかな舞台だなと。自分もいつかこの舞台に立ちたいという思いはずっとありました」
実際にONEからオファーも届いていたが、その前に達成したい目標があった。
「ラジャダムナンスタジアムの3階級制覇。まずはそれを成し遂げてからONEに挑戦したいと思っていたんです。ちょうどその夢をかなえたタイミングで、武尊選手とロッタン選手が戦う注目の大会に出場できる機会をいただいたので、まさに運命だと感じました」
また、武尊からは、ONE参戦の後押しとなる言葉をかけられていた。
「4年前、武尊選手と食事をした際に『いつか同じ大会に出られたらいいね』という話をしてもらえて、それがずっと頭に残っていました。今回、それが実現することになったのはとてもうれしいです」
■ONEムエタイのルールと吉成の自信ONEのムエタイは、従来のものとは異なる点が多い。OFGの使用、5ラウンドではなく3ラウンド制、インターバルは1分、さらに「KOボーナス」の設定と、よりアグレッシブな試合展開を促す環境となっている。
「ラジャダムナンではインターバルが2分ですが、日本の大会では1分が多いのでそこは特に問題ありません。ただ、OFGの影響は大きいですね」
OFGに関しては、昨年12月にシュートボクシングの大会(OFGムエタイルール)で初めて使用し、その感触を確かめた。
「パンチがガードの隙間を抜けてきます。でも、こちらもピンポイントで狙える感覚が強いです。また、ONEのOFGは特に硬いので、自分の得意な左のパンチがより活きると思っています」
と前向きにとらえている。日頃からボクシングの練習で磨いた精度の高いパンチが、より威力を増すことになりそうだ。
ついにONE初参戦を果たす吉成名高。会見では「美しいムエタイを貫いて世界を驚かせたい」と力強く宣言 ©ONE Championship
また「KOボーナス」に関しては、
「タイの選手はKOボーナスを狙ってガンガン前に出ることもありますが、僕は特に意識していません。今までどおりのスタイルを貫けば、自然とKOもボーナスもついてくると思っています。実際、これまでのスタイルでKO率は6割を超えています。だからこそ無理に狙うのではなく、いつもどおりの戦い方をすれば結果はついてくる」
と自信をのぞかせた。
吉成のムエタイは、伝統的なスタイルとは一線を画す。
「今自分がやっているのはムエタイですし、ベースは間違いなくムエタイだと思います。でも、それだけにとらわれるのはもったいないとも思っていて、ボクシングの練習をしたり、いろいろと試行錯誤しながら、自分のスタイルをつくり上げてきました」
この言葉のとおり、ボクシングのフットワークやパンチのコンビネーションを駆使しながらも、ムエタイならではのヒジや膝蹴り、首相撲を織り交ぜることで、完成度を高めてきた。さらに、"神速"とも思える驚異的なスピードも持っている。
「相手の攻撃はかわして自分の攻撃だけを当てる。どんな戦い方をしてきても、このスタイルを崩さずに戦えば勝てると信じています。今までもずっとそうやってきました」
試合前の儀式で伝統的な「ワイクルー」を踊る吉成。「ムエタイの精神を象徴する大切な時間」だと語る
今回の対戦相手、ラック・エラワンは元ルンピニースタジアム・ライトフライ級王者。吉成は5~6年前からその存在を意識していたという。
「過去に2度、試合が決まりかけて流れてしまったのですが、ついに実現することになって楽しみですね。パンチを思い切り振ってくるし、軌道が独特。
タイミングをずらして打ってくるので、反応して避けたつもりでも、遅れて飛んできたパンチをもらってしまう選手も多い。そこは警戒しています」
インタビュー中も真面目で礼儀正しく、ひとつひとつの質問に丁寧に答える吉成。選手としてだけでなく、日頃から周囲への感謝を忘れない好青年だ。
ONEのチャトリ・シットヨートン代表は、吉成の階級であるアトム級ムエタイ王座の新設を検討している。これが実現すれば、吉成の主戦場もONEにシフトする可能性は十分。
「今回はONE初戦なので、目の前の試合に集中していますが、もし王座が設立されるなら意識はしますね。まずはラック戦に勝利して、今後の展開を考えていきたいです」
吉成はムエタイで数々の偉業を成し遂げてきた。ONE参戦はより多くの人にその存在を知らしめ、ムエタイの魅力を伝える舞台となる。
「ONE参戦が発表されたときSNSのフォロワーが一気に増えたんですが、その多くが海外の方だったんです。それだけONEが世界的に注目されている大会だと改めて実感しました。だからこそ、僕のことを知らない人が見たときに、『こんなアメージングな選手がいたのか!』と驚かせたいですね」
吉成名高がONEの舞台でどのような歴史を刻むのか。世界を驚かせる準備は、整っている。
●吉成名高(よしなり・なだか)
2001年1月8日生まれ、神奈川県横須賀市出身。165㎝、56㎏。エイワスポーツジム所属。2025年3月23日(日)、さいたまスーパーアリーナ「ONE 172」でONE初参戦。タイ人以外で史上初のラジャダムナンスタジアム3階級制覇、日本人初、史上3人目となるWBCムエタイ ダイヤモンド スーパーフライ級王座獲得、WMO(世界ムエタイ機構)PFPランキングでは1位に選ばれるなどムエタイの歴史を次々と塗り替えている
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取材・文/篠﨑貴浩 撮影/安川結子 写真/©RWS ©ONE Championship
記事提供元:週プレNEWS
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