第98回キネマ旬報主演女優賞・河合優実が主演。 ある一つの新聞記事から生まれた、コロナ禍を生きた少女の記録「あんのこと」
第98回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞を受賞した河合優実が主演を務める映画「あんのこと」のBlu-ray&DVDが、3月5日にリリースされた。本作は、コロナ禍に起きた実在の事件を基に、「22年目の告白―私が殺人犯です―」(17)、「ギャングース」(18)、「室町無頼」(25)などで知られる入江悠監督が、デビュー以来、数多の賞に輝き、第77回カンヌ国際映画祭・国際映画批評家連盟賞受賞作「ナミビアの砂漠」や、『不適切にもほどがある!』(TBS)、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK)といったTVドラマでも演技力が高く評価される最注目俳優・河合優実を筆頭に、佐藤二朗や稲垣吾郎、河井青葉など実力派俳優やスタッフと、かつて、確かに私たちの傍にいた「杏(あん)」という女性の人生を生き直し、それを記録した物語だ。
ある1本の新聞記事から生まれた、コロナ禍の日本社会を映し出す衝撃作
入江監督が本作のプロデューサーである國實瑞惠氏から、「これを映画にしてみませんか?」と、コロナ禍に自ら命を絶った若い女性にまつわる一つの新聞記事を手渡されたことが、本作の企画の立ち上げのきっかけだという。幼い頃から母親の虐待を受け、家族を養うために10代前半にして売春を強いられた挙句、薬物中毒に陥った少女が、更生に力を注ぐ熱血ベテラン刑事と出会ったことで、再起に向けて歩み出すも、新型コロナウィルスの感染拡大によって居場所を失い、絶望して自死を遂げたのだ。
記事を読み、「自分は絶対にこれを描かなければ」と直感した入江監督は、担当記者への取材を通し、「社会的弱者」といった先入観をすべて捨て去った上で、モデルとなった女性・ハナさん(仮名)の人生に想いを馳せ、寄り添いながら脚本を綴り、真摯に映画に落とし込んだ。そこに魂を吹き込んだのが、主人公・杏を演じた河合優実と、ベテラン刑事・多々羅役の佐藤二朗。そして、二人を見守る週刊誌記者・桐野役の稲垣吾郎や杏の母親役の河井青葉といった面々だ。
河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎らが全身全霊で体現する、多面的でリアルな人間像
杏を託された河合は、入江監督のシナリオを一読するなり、「私が杏とモデルになったハナさんを守らなきゃ」「とにかくハナさんと手をつなごう」と決意。クランクイン前に監督と芝居のアプローチや作品への臨み方をしっかり話し合った上で、担当記者に何度もハナさんに関する話を聞いたり、薬物更生や介護の専門家にみずから取材を行ったりしながら、ヘアメイクや衣裳といった部分も含めて、杏という女性に肉薄していったのだという。
一方、杏の更生に尽力しながらも裏の顔も持つ多々羅役を演じた佐藤は、「限りなく黒に近いグレーな人物ではあるものの、『杏を本気で更生させたい』という点だけは終始ブレないように心がけていた」といい、とある重要なシーンの撮影直前に、杏役の河合から「お願いします」と手を握られたことで、「『なんとしてもいいシーンにしなければ!』と思わされた」と語っている。
さらに、取材を通じて多々羅と杏と距離を縮めながらも、裏では多々羅に疑いの目を向け、傍観者的な立場をならざるを得ない週刊誌記者の桐野を演じた稲垣は、ポーカーフェイスを装いつつも情にほだされ、自らの職務を果すべきなのか葛藤する人物を繊細に表現。ある意味、観客の視線にもっとも近い立ち位置を担い、「手を差し伸べられる場所に居たにも関わらず、結果的に杏を救えなかった」という辛い現実を、観る者へと突きつける。
Blu-rayには「予告編」に加え、「メイキング映像」や「舞台挨拶イベント集」を収録
「あんのこと」Blu-rayには、撮影現場の裏側に密着した「メイキング映像」に加え、特報・劇場予告編・TVスポットなどを含めた「予告編集」と、完成披露上映会、公開記念舞台挨拶、大ヒット御礼舞台挨拶、共立女子大学トークイベントの模様を記録した「舞台挨拶イベント集」が収録される。主要キャストへのインタビュー映像や、オールアップの様子も収めた「メイキング映像」はもちろんのこと、ティーチインを含む「舞台挨拶イベント集」に、思いがけずハッとさせられる瞬間が何度もあった。
監督と主要キャストたちが絶妙なタイミングで互いに鋭いツッコミを入れながらも、舞台挨拶の壇上でこれほどまでに熱く、真剣に語り合う姿というのは目にしたことがないし、「スクリーンの中には、河合優実も、佐藤二朗も、稲垣吾郎もいません」と、出演者の一人である稲垣自ら観客に向けて話していたことも、非常に印象的だった。
入江監督と河合がふたりで登壇したシネマロサでの大ヒット御礼舞台挨拶と、共立女子大学で行われたトークイベントの密度の濃さにも、思わず目を見張らずにいられなかった。入江監督とは、自主制作映画「SRサイタマノラッパー」以来、20年以上の付き合いがあるシネマロサの舞台挨拶では、「あんのこと」上映時のQ&Aやプロモーション時に取材陣から掛けられた言葉とその具体的なやりとりを、入江監督と河合がそれぞれ紹介し合う場面もあり、本作品ならではの熱のこもった反応に驚くと共に、「試行錯誤しながらも真摯に作り上げた甲斐があった」と喜ぶ様子が伝わってきた。
共立女子大学のトークイベントでは、試写鑑賞直後の学生たちから、「なぜ保護者である杏の母親は、娘である杏のことを“ママ”と呼ぶのか?」といった鋭い問いが入江監督と河合に投げ掛けられ、監督が「すごくいい質問です」と唸りながら答える一幕も。また、「映画オリジナルのフィクションの要素」として、監督が本作に加えたという劇中のとあるエピソードによって、「世代間で虐待が連鎖することも多いと言われるが、暴力の連鎖を断ち切る人を描けたことは一つの希望」だと河合が学生たちに語っていたことにも、大いに胸を打たれた。コロナ禍の日本社会を記録した1本の映画を巡って、様々な場所で交わされた多種多様な言葉に、ぜひBlu-rayで触れて欲しい。
文=渡邊玲子 制作=キネマ旬報社
『あんのこと』
●3月5日(水)Blu-ray&DVDリリース(レンタル同時)
Blu-ray&DVDの詳細情報はこちら
●Blu-ray 価格:5,500円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編114分+映像特典
★映像特典★
・舞台挨拶、イベント映像集
・メイキング
・予告編集
●DVD 価格:4,400円(税込)
【ディスク】<1枚>※本編114分+映像特典
★映像特典★
・特報+予告編
●2023年/日本/本編113分
●監督・脚本:入江悠
●出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり
●発売元:キノフィルムズ/木下グループ 販売元:ハピネット・メディアマーケティング
© 2023『あんのこと』製作委員会
記事提供元:キネマ旬報WEB
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