オダギリジョー×髙石あかり×松たか子。乾いた心に希望が芽生える「夏の砂の上」
愛を失った男、愛を見限った女、愛を知らない少女。夏の砂のように心の乾いた3人が、それぞれの痛みと向き合いながら希望を見出していく──。読売文学賞の戯曲・シナリオ賞を受賞した松田正隆の戯曲を、「僕の好きな女の子」「そばかす」の玉田真也監督が映画化した「夏の砂の上」が、7月4日(金)より全国公開される。
雨が降らずに乾いた長崎の夏。5歳の息子を亡くして立ち直れない小浦治は、妻の恵子に別居され、勤め先の造船所が潰れても新たな職を探さず、ふらふらしていた。そこへ妹の阿佐子が娘の優子を連れて現れ、「福岡の男の元へ行くのでしばらく優子を預かってほしい」と頼んでくる。こうして治と姪との同居が始まるが……。
治を演じるとともに共同プロデューサーを担うのはオダギリジョー。優子役には「ベイビーわるきゅーれ」で注目され、2025年度後期NHK連続テレビ小説のヒロインに抜擢された髙石あかり。そして恵子役は「ファーストキス 1ST KISS」が公開中の松たか子。
さらに阿佐子役を満島ひかり、バイト先の後輩である優子に好意を寄せる立山役を高橋文哉、治の同僚だった陣野役と持田役をそれぞれ森山直太朗と光石研が務める。
玉田監督は原作の戯曲を2022年に自身の劇団〈玉田企画〉で上演しており、このたび念願叶っての映画化となる。注目したい。
〈コメント〉
オダギリジョー(共同プロデューサー、小浦治役)
脚本を読んだ瞬間『これは良い作品になる!』と感じた僕は、すぐにプロデューサーを買って出ることにしました。俳優としては勿論、様々な面で役に立てれば、という思いからでした。
松さんや満島さんを始め、信頼できるキャスト、最高のスタッフが共鳴してくれ、真夏の長崎にこの上ない土俵が用意されました。あくまで玉田監督の補佐的な立場を守りつつ、隠し味程度に自分の経験値を注ぎ込めたと思います。
昨今の日本映画には珍しい『何か』を感じて頂ける作品になったと信じています。
髙石あかり(優子役)
長崎での撮影は、優子が過ごしたあの時間のように、自分にとってとてもかけがえの無いものとなりました。
優子は、儚さと強さ、大人っぽさと少女らしさ、一人の人間の中で全く違う性質が混ざり合う独特な空気を持っています。そんな繊細な彼女をどう演じたらいいのか、長崎に入る前に玉田監督とお話しをさせていただき、“ありのままの自分”で精一杯役と向き合うことにしました。
そんな撮影期間は、カメラの存在を忘れ、作品と現実の境目が曖昧だった気がします。
こんな経験は初めてで、これ程までに熱中出来る環境を作ってくださった、監督をはじめ、キャスト、スタッフの皆様には感謝しかありません。改めて、この作品に携わらせていただけたこと、心から光栄に思います。
松たか子(小浦恵子役)
暑い夏の長崎での撮影を懐かしく思い出します。
小浦家への道のりは、特に機材を運ぶスタッフの皆さんは本当に大変だったと思います。
でも、全員が汗だくになりながら、この映画の世界に向かって歩いていたように思います。
初めて読んだ脚本は、元々戯曲であったことに驚くほど、様々な風景が浮かぶ「映画」のホンでした。
他者に共感や理解を求めない、なんともいえない、滑稽で愛すべき人たちが出てくるお話のような気がします。
恵子が愛すべき人間かというと、それはわかりませんが…。
オダギリさんとのお芝居はとても楽しかったです。
玉田真也(脚本・監督)
今まで読んできた戯曲は数多くありますが、この「夏の砂の上」は僕にとって特別な作品であり続けました。僕たちが生きる上で避けられない痛みや、それを諦めて受け入れていくしかないという虚無、そして、それでも生はただ続いていくという、この世界の一つの本質のようなものがセリフの流れの中で、どんどん立体的に浮かび上がってくる素晴らしい作品です。その作品を映画にするということは僕にとって念願であったとともに、挑戦でした。演劇としての完成度があまりにも高いと思ったからです。そして、その挑戦は間違っていなかったと長崎での撮影を始めて確信していきました。長崎の街の中に入っていくと、この街自体を主人公として捉えることができる、これはきっと映画でしかなし得ない体験だと感じていったからです。僕の頭の中だけにあった固定された小さな世界が、長崎という街と徐々に融合してより豊かに大きく膨らんでいく感覚でした。この映画を皆さんに観ていただけるのを楽しみにしています。
そして今回、素晴らしい俳優たちに集まっていただきました。演出するにあたり、皆さんとても協力的にアイデアを出してくださり、何一つストレスなく撮影をすることができただけでなく、何度見ても芝居が面白く、最前列で観るお客さんのように彼ら彼女らの芝居をただ楽しんでいる瞬間もたくさんありました。皆さんの芝居に、この映画を想定の何倍も上に引っ張ってもらえたと思います。とても贅沢な時間でした。
松田正隆(原作)
部屋を見つめる演劇から、街を感じ取る映画へ。映画には長崎の光景がいくつも映し出されている。坂道をのぼりつめた果てにある家からの眺めだけで、言葉にならない感覚をこの映画は私たちに与える。戯曲に書かれた台詞が生み出す感情は、坂を上り下りする俳優の身体の運動に変換されている。キャリーバッグを引く優子が母とともに坂を上るとき、坂の上で指をなくした小浦が息を吐くとき、人々が言い知れぬ人生を抱えながらも、繁華街で仕事をし飲食をするために坂をおりるとき、カメラはそれらの特別な感情を映画の場面に映し出す。私は、戯曲が消え去り映画に生まれ変わることを望んでいた。この映画を観て、何よりも映画らしい経験を得たことがとても嬉しかった。
「夏の砂の上」
出演:オダギリジョー、髙石あかり、松たか子、森山直太朗、高橋文哉、篠原ゆき子、満島ひかり、光石研
監督・脚本:玉田真也
原作:松田正隆(戯曲「夏の砂の上」)
音楽:原摩利彦
製作:映画『夏の砂の上』製作委員会
製作幹事・制作プロダクション:スタイルジャム
配給:アスミック・エース
© 2025映画『夏の砂の上』製作委員会
公式サイト:natsunosunanoue-movie.asmik-ace.co.jp
記事提供元:キネマ旬報WEB
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