第98回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画第4位にランクインし、助演男優賞、新人男優賞、新人女優賞を受賞した「ぼくのお日さま」
第98回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画第4位にランクインし、助演男優賞(池松壮亮)、新人女優賞(中西希亜良)、新人男優賞(越山敬達)にも輝いた、奥山大史監督の「ぼくのお日さま」が、現在期間限定で先行配信中である。雪国の田舎町を舞台に、スケートを通して触れ合っていく3人の、淡くて切ない恋を描いた作品の見どころを、たっぷりと紹介しよう。
少年は、ひとめぼれした少女のために、フィギュアスケートを始める
冬には雪が積もる北国の田舎町に暮らす、少し吃音がある小学6年生のタクヤ(越山敬達)。雪が降りだすと男子はアイスホッケーの練習に忙しいが、タクヤは運動が苦手。その彼が同じスケートリンクで『月の光』の曲に合わせて、フィギュアスケートの練習をする少女・さくら(中西希亜良)に心を奪われる。彼女の真似をしてフィギュアのスピンを練習し始めたタクヤは、さくらのコーチをしている荒川(池松壮亮)から声をかけられる。荒川からフィギュア用のスケート靴を借りて本格的に練習を始めるタクヤ。その彼にさくらへの想いを感じ取った荒川は、タクヤとさくらのペアでアイスダンスをしてみないかと提案した。二人はアイスダンスのぺアとして練習を始め、心の距離を縮めていくが……。
新人俳優二人の、ピュアな演技が作品の大きな魅力!
野球もアイスホッケーも苦手で、吃音によって何事にも積極的になれないタクヤ。フィギュアスケーターになることを夢見ながら、コーチの荒川のことも気になるちょっとおませなさくら。その二人の間を、元はフィギュアスケートの選手だった荒川が取り持つ。その荒川は、ガソリンスタンドで働く五十嵐(若葉竜也)と同棲している同性愛者で、世間の目を気にしながら生活する彼にとって、タクヤのさくらに対するまっすぐな恋心は、羨ましくも見える。それぞれ恋心を抱いた三人の、ひと冬の物語が描かれていく。
さくらはタクヤより年上の中学一年生の設定で、タクヤにとってはまぶしく見える憧れの存在。その彼女に近付くために彼はフィギュアの練習を始めるが、アイスダンスでペアを組むことになった時、彼女の手を取ってダンスのポーズをするときのドキドキ感や、さくらのレベルに追いつこうと必死に練習するピュアな雰囲気を、タクヤ役の越山敬達がナチュラルに表現している。彼にとってはこれが初主演映画だが、4歳からスケートを習っているというだけに、まったくの素人からアイスダンスの基礎を習得するまでの成長を無理なく見せているのも見事。表現者として、これからが楽しみな逸材だ。
さくら役の中西希亜良も今回が演技は初めてだったというが、徐々にタクヤに気持ちを開いていく少女の変化を、その表情と喜びに満ちたスケーティングによって表現。一方でさくらは、コーチの荒川にもほのかな思いを抱いていて、男性二人に対する距離の取り方もが絶妙だ。フィギュアスケートやダンスを得意とする彼女は、ここから俳優としても才能を伸ばしていくに違いない。
コーチを演じる池松壮亮の、絶妙な好助演ぶりが印象的
そして二人をつなぐ荒川に扮した池松壮亮の存在感は秀逸。彼は奥山監督の才能にほれ込んで、一緒に映画を作りましょうと持ち掛けたというが、ここでは若い二人をサポートするキャラクターに徹して、彼らの伸びやかな個性をうまく引き出している。映画ではスケートの練習シーンがかなりの分量を占めるが、その一つ一つが心地よいものに見えるのは、池松壮亮のコーチとして出しゃばらないポジション取りが効果的だからだ。一方で荒川は、恋人の五十嵐のために彼が住むこの田舎町にやってきた男で、愛によって自分のスケート選手としてのキャリアを捨てた影のある人物を、さりげなく演じているのがうまい。主演も助演もこなす芸達者な彼だが、ここでは作品に奥行きを与える、助演者としての好演が光っている。
光をうまく使った、世界が認める新鋭・奥山大史監督の演出に注目!
監督の奥山大史は大学在学中に制作した長編「僕はイエス様が嫌い」(2019)で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を史上最年少の22歳で受賞。今回が長編第2作目で、商業映画は初めてとなる。その才能は世界から期待されていて、「ぼくのお日さま」は第77回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション『ある視点』部門に正式出品され、現地で絶賛を浴びた。この作品ではドビュッシー作曲による『月の光』がさくらを象徴する曲として使われているが、映像的にも“光”の使い方が印象的。最初にタクヤがさくらのスケーティングを観た時の、逆光に照らされたさくらの幻想的な姿。またアイスダンスの練習をするため、荒川が二人を連れて行く、自然氷のリンクでの二人の滑りを映した場面では、太陽の光が彼らを祝福するように輝いている。10代の初恋に近い感覚とスケートという競技によって結ばれていく心を光によって感じさせる、その演出の妙。奥山監督は撮影・編集も自分でこなしているが、登場人物の揺らめく生理をつかまえようとする瑞々しい映像に、非凡な才能を感じさせる。
これからの日本映画を担う監督、出演者がその持ち味を十分に見せつけた、愛すべき1本。映画は春の訪れとともに終わるが、ひと冬の間に成長、変化した登場人物たちの思いが響く、爽やかな余韻が残る作品だ。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
「ぼくのお日さま」
期間限定で先行配信中⇒詳細はこちら
2024年/日本/90分
監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
主題歌:ハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」
出演:越山敬逹、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也 ほか
© 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS
公式HP:https://bokunoohisama.com/
記事提供元:キネマ旬報WEB
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