あの『悪魔のいけにえ』に人生を狂わされた?5人が語る名作ホラーの真実 『チェイン・リアクションズ』
飯塚克味のホラー道 第107回『チェイン・リアクションズ』
いつもは、公開されたり、ソフトを買えば普通に観ることができる作品をチョイスしているこの連載だが、今回は東京国際映画祭で上映され、まだ日本公開が決まっていない作品を敢えて取り上げさせてもらいたい。この連載をご覧になっている方で、トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』(1974)を知らない人はいないだろう。人の顔面の皮を被ったレザーフェイスが、チェーンソーを手に追ってくる姿は、ホラーファンなら一度は目にしたことがあるはずだ。田舎にやってきた若者たちが、殺人鬼一家に遭遇してしまい、仲間は殺され、生き残ったヒロインが脱出しようとする。今では王道とも言うべき基本路線をデビュー作で築いたのがトビー・フーパー監督だった。
トビー・フーパー監督の演出は、一見、乱暴で感覚的なものだが、繰り返し見ていると、綿密に計算され、狙い澄まして作られたことがよく分かってくる。だが、初見でそれを見抜くことは厳しく、圧倒的な地獄絵図に放り込まれたような描写の連続に、84分という短い上映時間以上の苦痛を感じずにはいられない。
本作はそんな『悪魔のいけにえ』に出会い、人生において大きな影響を受けたという5人が『悪魔のいけにえ』について語り尽くすドキュメンタリーとなっている。登場するのはコメディアンのパットン・オズワルト、映画監督の三池崇史、ホラー映画についての著作で知られる映画評論家アレクサンドラ・ヘラー=ニコラス、作家のスティーヴン・キング、そして『ガールファイト』(00)等で知られる映画監督カリン・クサマだ。
驚きなのが、彼らの話は、『悪魔のいけにえ』のみならず、同時期に見た作品や、映画的につながりのある話題にどんどん広がっていくのだが、話に出てくる映画はほぼ全部、映像が挿入され、我々が見ていなくても、どんな映画の話なのか、とても分かりやすく編集されていることだ。三池崇史監督の場合だと、見た映画館の思い出も語られるのだが、その劇場の資料まで出てくる。また『悪魔のいけにえ』本編の映像も基本は最新の4Kレストアされた映像なのだが、カリン・クサマ監督が「黄色っぽくなった画質の悪いビデオで最初に見た」と言ったら、まさしくVHSから起こしたと思しき、ボヤボヤした画質の映像が出てくるこだわりようだ。
自分も最初に『悪魔のいけにえ』を見たのは、大学入学直後、友人宅にあった海賊版ビデオで、字幕はワープロで打ち込んだ明朝体だった。その後、ホラーブームが巻き起こり、夏には渋谷にあった巨大映画館、渋谷パンテオンで開催された「第1回スプラッタームービーフェスティバル」のオールナイト上映で、満員の観衆と共に大スクリーンで見ることができた。
本作は、5人が思いを語る以上でも以下でもなく、本当にそれだけのものだ。だが、『悪魔のいけにえ』を観ていれば、フムフムとうなずき、時には大笑いするところも多々あり、あっという間の時間が過ごせる。もし未見であれば、帰宅後、何とか『悪魔のいけにえ』を観ようと、自分が登録しているサブスクに映画がないか、チェックすることになるだろう。
こんなドキュメンタリーを監督したのは、スイス出身で、これまでにも映画ドキュメンタリーを作ってきたアレクサンドル・O・フィリップ。『エクソシスト』(1973)の舞台裏に迫った『Leap of Faith: William Friedkin on The Exorcist』(2019)や、『オズの魔法使』(1939)とデヴィッド・リンチの関係性を描く『Lynch/Oz』(2022)などを発表してきた。残念なことに、どれも興味深い題材なのに、日本では観られない。本作も、傑作ドキュメンタリーなのに、このままだとお蔵入りになりかねない。是非、興味を持った人はSNSなどでつぶやくだけでもいいので「観てみたい」と声を上げてもらいたい。
関連記事:最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】
飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
記事提供元:映画スクエア
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。