雑誌を起点に物販・イベント…客を次々と巻き込む「ハルメク」強さの秘密に迫る:読んで分かる「カンブリア宮殿」
更新日:
イチオシスト:イチオシ編集部 旬ニュース担当
注目の旬ニュースを編集部員が発信!「イチオシ」は株式会社オールアバウトが株式会社NTTドコモと共同で開設したレコメンドサイト。毎日トレンド情報をお届けしています。
百貨店でもトップ級の集客~売上高300億円超の「ハルメク経済圏」
熊本市の「鶴屋百貨店」に開店前から人だかりができていた。この日オープンしたハルメクの店内には、アパレルを中心に幅広いラインナップの商品がずらりと並ぶ。
杏の種から抽出した「薬用杏仁オイル」(9680円)は、年齢肌からくる乾燥を潤してくれる累計44万本を売り上げた大ヒット商品だ。トリートメントしながら髪の毛が染まる年間9万本売れた「ヘアマニキュアトリートメント」(3300円)も人気。理学療法士が監修した足が痛くなりにくいという「シープレザー撥水スニーカー」(2万900円)は、紐付きだが、横にファスナーがあり、履くのも脱ぐのも楽にできる。
【動画】雑誌を起点に物販・イベント…客を次々と巻き込む「ハルメク」強さの秘密に迫る
客のほとんどは女性向け雑誌ハルメクの読者だ。ハルメクは書店には置いていない年7800円の定期購読誌。女性誌で日本一の販売部数47万部を誇る(2024年1月~6月)。しかも、出版不況の中でも部数が伸びている。
人気の秘密は50代以上の女性が本当に知りたい情報が載っていること。例えば、他の雑誌で定番の節約術も、ハルメクなら「セールは年中あるが、狙うべきは春と夏の決算期」と具体的に教えてくれる。
雑誌に同封されているのが通販カタログ。ハルメクは雑誌を入り口にして、物販にも繋げるビジネスモデルで成長している。熊本の店も物販事業の一つ。現在、こういった実店舗を、全国各地に18カ所展開している。
ハルメクが手がける商品は幅広い。東京・新宿区にあるハルメクで最大規模の店舗「ハルメク おみせ 神楽坂本店」では、マグロの缶詰や甘納豆、干し柿ゼリーなど、さまざまな食品も取り扱っている。その数約100種類に及ぶ。
特に人気の人参ジュースは発売19年で累計販売5000万杯を突破したロングセラー商品。1缶に人参が1本分、リンゴが半分入っていて、野菜と果物が手軽に取れると評判だ。
ハルメクの勢いは東京・新宿区の「京王百貨店」新宿店でも。4階はシニア向けのショップを集めたフロアになっているが、その中でハルメクは常にトップクラスの売り上げを誇っている。
来店した読者に聞くと、通販でも買えるのにわざわざ店に来たのには理由があるという。
「通販だとわからない微妙な生地の質感やサイズもあるので、見たほうが安心して買える」と言うのだ。店舗を置くことで、「直接商品を見てから買いたい」という客のニーズに対応。その結果、購入する可能性がより高まる。
中には購読者以外の客も訪れる。百貨店のブランド力と集客力を利用し、雑誌の読者以外の新たな顧客も開拓している。
「4階は50代以上の女性が対象のフロアになっていて、真ん中にハルメクに入ってもらうことで、フロア全体が集客できている。2024年3月にハルメクの売り場を拡大、売り上げも順調に伸びていて、130%以上の伸びがありました」(「京王百貨店」新宿店・窪田朗子さん)
ハルメクは2023年度、売上高314億円と過去最高に。狙うは、雑誌を起点にさまざまな関連商品やサービスを使ってもらおうという「ハルメク経済圏」の構築だ。
雑誌、オリジナル商品、レア旅~客をつかんで離さない秘訣
〇ハルメク絶好調の秘密1~レアな体験旅でファンの熱量アップ
神奈川・鎌倉市の建長寺で行われていたハルメク主催の観光ツアー(参加料1人1万1000円)。ハルメクがいま力を入れているのが、体験による「コト消費」だ。雑誌で取り上げた特集内容などを元に、さまざまなイベントを企画。記事に興味を持った読者が参加してくれる、という仕組み。レアな体験を提供し、よりハルメクを好きになってもらい、熱量を高めるのが狙いだ。
こうしたイベントを2023年は200ほど開催し、4万人が参加した。「雑誌をめくって電話するだけで行ける」と、気軽に参加して非日常が体験できる。
ハルメクホールディングス社長・宮澤孝夫(68)は、「我々は自分たちを雑誌社だとは思っていない。お客様の役に立ち、プラスのポジティブな楽しい機会を提供するのがハルメク」と語る。
〇ハルメク絶好調の秘密2~4800人の熱烈ファンと商品作り
ハルメクは全国に4カ所のコールセンターを持つ。鹿児島市の拠点には180人以上のスタッフがおり、毎月約2万5000件もの客の声を聞いているという。
「電話の中にいろいろなヒントがあると思っています。やはり厳しい意見もあります。だけどその厳しい意見があって、お客様に育てていただいていると思う」(ハルメク・ビジネスソリューションズお客様センター・矢野義人)
商品作りのヒントはコールセンターの声だけではない。東京・千代田区の神保町オフィスでこの日行われていたのは、下着のリニューアル会議だ。
開発担当の通販本部インナー課・住井愛は「骨盤を一周、囲うようなサポートにしていきたい」と言う。腰やおなかまわりの形を整える、補正機能付きの「ガードル」。累計販売52万枚の大ヒット商品だが、常に改良し続けているという。
こうしたリニューアルのきっかけになるのが客へのアンケート。寄せられたのは、「歩いていると、骨盤周りが痛くなってくる」「サポート力のある下着がほしい」という声だった。
ハルメクでは一つの自社開発商品につき300人にアンケートを依頼。その数は年間3万人分になる。それらのアンケートを元に従来品から変更したのは、腰回りに追加された部分で、サポート生地で骨盤を支える力をアップさせた。
さらに、完成した商品はすぐに販売するのではなく、全国に4800人いる「ハルトモ」と呼ばれる読者モニターに試してもらう。
物販事業は今や会社全体の売り上げの8割以上。読者と一緒に本当にほしいものだけを作り込んでいるのだ。
「ご自身が気に入った、だからお友達に勧める。お友達が今度は娘さんに勧めるというふうに、波及的にファンが増えていってくれているというのは実感としてあります」(住井)
宮澤はその目指すものを「『自分たちのことをよく分かっているいい雑誌』『ハルメクって好き』となっていただき、きちんといい商品を作ってそこで利益を上げる。よりよく生きるお手伝いをするのが我々の目標なので、ビジネス的にもお客様にとってもプラスだと思う」と語る。
熱烈ファンを生む「日本一」の雑誌~経営破綻から驚きの復活劇
東京・江東区の小平恵子さん(64)は昔から趣味だった裁縫の腕を生かして子ども服を作り、インターネットで販売している。
小平さんは2019年にスマートフォンを購入したが、初めは使い方が全くわからなかった。そんな時に頼ったのが、ハルメクのスマホの使い方特集。例えば「タップの強さがわからない」という悩みには、「ゴマを指で拾う程度の力加減」と、イメージしやすい言葉で教えてくれた。初歩から全てをハルメクの記事で学んだという。
「普通の人が見たら『こんなこと?』と思うかもしれないですが、私にとっては本当に助かる。毎日の生活を豊かにしてくれるヒントがたくさん出ていて、もっとアクティブに生きたいという人たちの背中を押してくれる」(小平さん)
ハルメクの前身は1996年に創刊された雑誌「いきいき」。
シニア世代への認知度は高かったものの、広告費への過剰な投資などがかさみ、業績は次第に悪化。2009年には65億円の負債を抱え、民事再生法の適用を申請した。
そこで再建を託されたのが、ボストンコンサルティング出身の宮澤だった。コールセンター事業で確かな実績を上げた経営者としての手腕が買われたのだ。
就任当時の社内の様子を「自分たちであまり考えない。私が経営会議を最初に作って開催した1回目か2回目に、前からいる幹部が言ったのは、『これは何のためにやるんですか』。『社長がお決めになって結構ですから』と。いやいや、という感じでした」と、振り返る。
染みついていたのは「指示待ち体質」。そんな社員の意識を変えようと、宮澤は時間をかけ一人一人と対話を重ねた。
民事再生時の副社長で、現在はハルメクのイベントで案内役を務める上村治は語る。
「日常の仕事の中でそれを生かしていくのは、時間がかかったけど、何をやるべきなのかということは、社員には分かりやすかったのではないかと思います」
徐々に社員の意識を変えていった宮澤だが、会社の屋台骨である雑誌「いきいき」の販売部数は伸び悩んだ。
原因を探るべく、雑誌の顔と言える特集記事の決め方を社員に尋ねると、決まって「ある言葉」が返ってきた。
「『いきいきらしい』。最初その言葉を聞いたときは、『何か深いな、俺にはなかなか入れないな』と思ったんです。でも聞いていると、『自分たちの想像で言っているだけ』ということが分かってきた。そこで間違えているという気づきが大きかったですね。思い込みを捨てなきゃいけない」(宮澤)
そこで2014年に開設したのが「生きかた上手研究所」。編集者の思い込みが入らぬよう、客観的に読者の消費行動をリサーチする独立した社内シンクタンクだ。
さらに宮澤は思いきった決断を下す。社員を会議室に集めて「雑誌と会社の名前を『いきいき』から変えようと思う」と伝えた。社員たちは猛反発。涙ながらに「変えないでください」と訴える女性社員もいた。
それでも宮澤は「前に進むためには変えなきゃならない」と、2016年、雑誌と会社の名前を「ハルメク」に変更。前向きな印象になるよう、春の到来を予感させる「春めく」という言葉から名付けた。
その翌年には新たな編集長をヘッドハンティングする。他社で数多くの雑誌の編集長を務め、マーケティングにも精通していた現編集長の山岡朝子は、当時のハルメクの弱点をすぐに見抜いた。
「もともとデータも収集して、みんなでそれを見ていたと思うんです。でもデータはあくまでデータ。読者が自分でも分かっていないようなニーズを我々が探り当てて特集にするという、そこの深掘りができていなかったと思います」
編集部に保管されていたのは大量のアンケートハガキ。当時はなんとなく目を通すだけで済ませていたという。山岡はこれを徹底的に分析し、読者の潜在的なニーズを掘り起こして、次々と記事に反映させていった。
「読者からも評価が上がり、定期購読の申し込みが増えたりしていく中で、イマジネーションでこういう解釈をしてこういう特集を組むというプロセスで、期待に応えるもの、あるいは期待を超えるものが作れるという実績がたまって、今はみんな自信を持ってやっています」(山岡)
読者が本当に読みたい雑誌作りを進めた結果、ハルメクの販売部数は5年で3倍にアップ。日本一の雑誌へと生まれ変わった。
企業とのコラボ続々!~画期的な眼鏡も開発
ハルメクが集めたシニア世代の本音には多くの企業が注目している。全国に1000店舗以上ある「眼鏡市場」もその一つだ。
「眼鏡市場」渋谷店で女性客が手に取っていたのは、50代以上のさまざまな要望を落とし込んだメガネ。ハルメクと共同で開発したオリジナル商品だ。
「ハルメクの読者の声を生で聞かせていただき商品開発ができました」(「眼鏡市場」を展開する「メガネトップ」・冨澤美奈さん)
そのメガネは、シワが出やすい目元の部分がちょうど隠れるような形のフレームになっていた。さらに、「気持ちが盛り上がるメガネが欲しい」という声を受け、顔色が明るく見えるよう、ポップな色やデザインを取り入れたメガネも。
こうしたライバル店と差別化した商品には予想以上の反響があったという。
「ターゲットのシニア世代はシンプルなものを好まれる。宝飾をつけたり、サイドが明るい印象になるように盛りがちになりますが、意外と本当の声はそこにはなかったと知ることができました」(冨澤さん)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
宮澤さんは中学生のころ、模型飛行機を飛ばした。操縦失敗して落とすと壊れる。もう一回上手に作り直す。歪まないように、重くならないように、作り直すのは嫌いじゃなかった。うまくいかなくなったものを立て直すとき、真の力を問われる。雑誌名を変える会議では、泣きながら「変えないで」と訴える社員がいた。でも変えた。「ハルメク」成功した。定期購読者数が約47万人、コミック誌を除く全雑誌で1位だ。読者は自分のことをシニアだと思っていない「すてきになりたいけどやり方がわからない」ギャップをコミュニティで埋めていく。
<出演者略歴>
宮澤孝夫(みやざわ・たかお)1956年、神奈川県生まれ。1992年、ボストンコンサルティンググループ入社。1996年、テレマーケティングジャパン入社。2009年、いきいき(株)社長就任。
見逃した方は、テレ東BIZへ!
記事提供元:テレ東プラス
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。