世界が認めた早熟の異才 ナンニ・モレッティ入門 「チネチッタで会いましょう」11月22日公開
「ローマ法王の休日」などのナンニ・モレッティ監督最新作「チネチッタで会いましょう」が、2024年11月22日より劇場公開される。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの三大映画祭を制し、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に8作品連続選出されているナンニ・モレッティ監督。本記事では、「ナンニ・モレッティ入門」題して、そんなナンニ・モレッティ監督について掘り下げてみたい。
●独学で映画を学ぶ
映画の専門教育を受けたわけではないモレッティ監督だが、学生の頃から映画に熱中し、1973年には、20歳の頃に切手のコレクションを売って手に入れたカメラ(スーパー8)で短編「La sconfitta」を撮影。76年には友人たちを役者に起用し、最初の長編映画「Io sono un autarchico(自立人間)」を撮り上げた。ローマのシネクラブに持ち込まれた「Io sono un autarchico(自立人間)」は、週に数日の上映であったが若者の圧倒的な支持を得て、16ミリフィルムにブローアップされ、ベルリンやパリのシネクラブなどでも拡大上映された。
●若くして世界に認められた異才
78年には、デビュー2作目「青春のくずや~おはらい」でカンヌ国際映画祭のコンペディション部門での上映を果たす。弱冠25歳だった。続く81年のヴェネツィア国際映画祭では「監督ミケーレの黄金の夢」が特別金獅子賞(審査員特別賞)受賞、86年「ジュリオの当惑」がベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員特別賞)受賞、94年「親愛なる日記」がカンヌ国際映画祭監督賞を受賞し、三大映画祭を40歳という若さで制した。
●マルチな才能(水球選手、役者、映画館館主…etc)
若い頃は優秀な水球選手でスポーツマンだったナンニ・モレッティ監督。77年にはカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したタヴィアーニ兄弟が監督した「父 パードレ・パドローネ」に俳優として出演した。自身の監督作品でもたびたび主演を演じ、役者としても活躍している。さらに、ローマで「Nuovo Sacher」という映画館を共同経営し、映画館館主も務めている。その他、若手のために製作資金集めを行い映画賞を設置するなど、脚本家、プロデューサーといった顔も持っている。
●映画界の予言者
「ローマ法王の休日」では、当時はありえないとされていた教皇の地位放棄を描き、2年後にベネディクト16世が辞任を表明したり、「赤いシュート」では共産主義の行き詰まりを描き、その後実際にイタリアの共産党が消滅したりと、映画の内容がいくつも現実になっていることでも知られる。過去、現在、未来の状況を正確に読み取り、映画として創造する能力の高さを伺わせる。
●音楽との結びつき
モレッティの映画と音楽はとても深く結びついている。「息子の部屋」の“By this river”(ブライアン・イーノ)、「ローマ法王の休日」の“Todo cambia”(メルセデス・ソーサ)、「親愛なる日記」の“ザ・ケルン・コンサート”(キース・ジャレット)など、音楽を聞くとシーンが目に浮かぶものも多い。本作では“シンク”(アレサ・フランクリン)や、“Voglio vederti danzare(君の踊るところがみたい)”(フランコ・バッティアート)、“Et si tu n’existais pas(もし君がいなかったら)”(ジョー・ダッサン)といったポップミュージックが印象的に使われている。
最新作の「チネチッタで会いましょう」は、時代の変化についていけずに痛い目にあった映画監督が、失意の後に大切なことに気づくヒューマンドラマ。イタリアの映画監督ジャンニは、チネチッタ撮影所での新作撮影を目前に控えている。だが、女優はカサヴェテスを持ち出して演出に口出しし、政治映画をラブストーリーだと言い出す始末。若い俳優はトンチンカンな発言をし、娘が紹介してくれたボーイフレンドは自分と同じくらいの年齢の男性だという。さらには、妻から別れを告げられ、プロデューサーは詐欺師とわかり、撮影はストップしてしまう。
フェリーニやキシェロフスキ、スコセッシなど、映画へのオマージュを交えながら、ところどころに自身の過去作品を引用し、変化の激しい世界に適応することの難しさをユーモラスに描きながらも、より良い未来を夢見ることを忘れないという温かなメッセージが込められた作品となっている。
【作品情報】
チネチッタで会いましょう
2024年11月22日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:チャイルド・フィルム
© 2023 Sacher Film–Fandango–Le Pacte–France 3Cinéma
記事提供元:映画スクエア
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