捕獲開始から約30年。奄美大島「マングース根絶」ドキュメント!!
ハブ対策として持ち込まれたが、特別天然記念物などをエサにする有害鳥獣として増殖したマングース
今年9月、奄美大島でマングースの根絶宣言が出された。なぜ増えたのか? なぜ駆除されることになったのか? 対策チームはどのような苦労をしたのか? マングース根絶までを追ったドキュメント!
■ハブは夜行性、マングースは昼行性環境省は9月3日、鹿児島県の奄美大島で特定外来種のマングースを根絶したことを宣言した。
「奄美大島のように大きな島で、長期間定着したマングースの根絶は世界初の事例」と伊藤信太郎前環境大臣は、同日の記者会見で語っている。
では、そもそも奄美大島にマングースが定着するようになったのはなぜなのか? 環境省沖縄奄美自然環境事務所の阿部愼太郎(あべ・しんたろう)氏に聞いた。
「1910年に毒ヘビのハブ対策として持ち込まれたという記録があります。そして、79年に沖縄本島で増えたマングースが奄美大島に連れてこられたようです」
ハブ対策として持ち込まれたマングースは、どれくらいの効果があったのか?
「効果はなかったと思います。沖縄でマングースの生息域が広がって行く中で、ハブがいなくなるという状況は起きていませんでした。ハブは夜行性なので日中は穴などに隠れておとなしくしています。
一方のマングースは昼行性です。マングースはバッタやコオロギ、ゲジゲジなどの虫からカエルやウサギなどの小型の動物までなんでも食べます。
自動カメラにリュウキュウアオヘビをくわえている画像が写っていたので、昼間行動するヘビも食べていたでしょう。しかし、ハブは夜行性なので、出合うことはあまりなかったと思います」
79年に奄美大島に連れてこられたマングースは、その後、生息地域をどんどん広げていった。
阿部さんが危機を感じたのは88年のことだった。
「私は大学を卒業して、88年に奄美大島の民間企業に就職しました。そのときに本来いるべきではないマングースが島にいるのは問題だと思い、『奄美哺乳類研究会』という団体を設立して、マングースの分布や食性、繁殖期などの調査を始めたんです。
するとマングースの生息域で、絶滅危惧種で国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギなどの固有種がどんどんいなくなっている状況が確認できました。そこで、国や県に『マングース対策をしないと大変なことになる』と訴え続けてきたんです」
そんな阿部さんの努力が実って、5年後の93年に市町村がマングースを有害鳥獣に指定。捕獲すると1頭2200円の報奨金が出るようになった。また、96年からは環境省が駆除モデル事業調査を始め、マングースの分布を調べている。
「でも、調査ばかりしていてもしょうがないので、2000年から国が報奨金を出して駆除事業を始めることになりました」
しかし、駆除作業をするにあたって、マングースを捕獲するための「わな猟」の免許を持っている人だけだとどうしてもわなの数が少なすぎるので、一般の人に講習を受けてもらい、年間100人くらいの駆除作業者を確保した。
駆除の報奨金は93年度から99年度が1頭2200円。2000年度が2900円。01年度、02年度が4000円。03年度から05年度が5000円。しかし、ここで問題が発生する。
「マングースは行動圏がとても狭いんです。ですから、山奥にたくさん生息していました。しかし、そんな山奥にわなを仕掛けに行く人はほとんどいません。多くの人は自分の家の近くや車で回れるような便利な場所にかけます。
すると、市街地周辺の人が簡単に行ける所ではマングースの数は減るけれども、山奥など人がほとんど行かない場所での捕獲は進まず、マングースの分布はさらに広がっていきました」
そこで、報奨金での駆除には限界があると感じた阿部さんらは、05年に外来生物による生態系の被害を防止する外来生物法が施行されたことをきっかけに、環境省から予算をもらい山奥まで入ってマングースを捕獲する「奄美マングースバスターズ」を発足させた。
バスターズは報奨金ではなく毎月給料をもらい、月曜日から金曜日まで山に入り、マングースを捕らえる専門チームだ。
■わなに探索犬の投入。駆除は命がけ!奄美マングースバスターズのメンバー、後藤義仁氏が活動の様子を語る。
「私は06年に奄美大島に移住してきて、07年からバスターズで仕事を始めました。当時は奄美大島全域にわなが設置され始めている段階で、私はわなの点検を毎日していました。
朝の9時頃に事務所に集まって、10時くらいから山に入り、ひとりで50個から80個くらいのわなを点検します。そして、15時から16時くらいになると山を下りる。それよりも遅くなると、ひとりで点検しているので『あいつは大丈夫か』と探されることになるんです。
わなは2種類あります。ひとつはエサに食いついたら絶命する捕殺式のもの。もうひとつは生け捕り式のもの。
わなは島中に約3万個設置されています。かなりの数ですから、捕殺式の罠を点検に行くのは月に1度程度です。
生け捕り式のわなはマングースの入っているカゴごと持ち帰り、小屋で飼育して新しいわなやエサの実験などに利用していました。生け捕りわなは毎日点検に行かなくてはいけないのでかなり体力を使いました」
生け捕り式の罠(上)と捕殺式の罠(下)。捕殺式の罠は固有種がかからないように少しずつ改良されたという。こうした罠を島内に約3万個仕掛け、日々点検する
前出の阿部氏がわなについて解説する。
「捕殺式のわなでマングースだけが捕れれば問題ないのですが、天然記念物のルリカケスやケナガネズミ、アマミトゲネズミやほかの固有種などもかかってしまいます。そこでマングース以外の動物がわなにかかった場合、生きたまま逃がさなくてはいけないので、生け捕り式のわなは毎日点検に行く必要があるんです。
基本的にはマングースの多い場所には固有種などが少ないので捕殺式のわな。マングースが減ってきた場所では固有種などの生息が回復してくるので生け捕り式のわなを設置するようにしていました」
07年になると、マングース探索犬も投入される。バスターズの後藤さんが話す。
「探索犬も2種類います。マングース生体の探索犬と、マングースの糞を専門に探す犬です。生体を探す犬はマングースを見つけると追いかけて、マングースは木のうろ(幹に開いた穴)などの隙間に隠れます。犬はその場所で吠えているので、煙幕などでいぶして弱らせて捕獲します。
糞を探すのは、その地域にマングースがいるかいないかを確認するためです。
奄美大島にはハブがいるので、探索犬が山でマングースを追いかけていると、気づかないうちにハブに噛まれていることがあります。脚が腫れていて2本のハブの噛んだ痕がついているので、慌てて犬を担いで山を下りて動物病院に連れていくんです。
ほとんどの犬はハブに噛まれているのではないでしょうか。バスターズにもハブに噛まれた人はいますし、ハチの巣もたくさんあって、ハチに刺されていないバスターズはいないと思います」
探索犬と一緒にマングースを探すバスターズのメンバー。山の中では、犬も人間もハブに噛まれたりハチに刺されたりする危険がある。夏の暑さにも苦労したという
なぜ、命の危険を感じてまでマングースの捕獲をするのか。そのモチベーションはなんなのか。
「もし、われわれが対処をしなかったら、おそらくアマミノクロウサギやケナガネズミなど奄美の貴重な動物は絶滅していたと思います。私が島に来たときは希少なネズミは見ることがないくらい少なかったのに、今は少しずつ復活してきているというのがひとつです。
もうひとつは21年に奄美大島などが世界自然遺産に登録されたことです。17年に世界遺産に推薦されましたが、外来種対策などが不十分だということなどもあって登録延期になっていたんです。それが頑張り続けるモチベーションになりました」
■根絶宣言をするも新たな問題が......こうしたバスターズの活躍もあって、18年4月に最後の一頭を捕獲してから、約6年間の調査期間を経て、今年9月に根絶宣言が出された。阿部氏がそれまでの経緯を語る。
「18年の4月以降、わなを仕掛けてもかからず、自動撮影カメラにも写らず、探索犬も見られないという状態が続きました。
そして、研究者の方々に根絶確率を評価してもらい、マングースが奄美大島に残っていない確率は99%くらいでしょうということで、根絶宣言に至りました」
奄美マングースバスターズのメンバー。2005年の結成時には12人だったが、その後40人を超える大人数となった。彼らの努力によって奄美大島のマングースは根絶した
93年のマングース捕獲開始から約30年。ついにマングースを根絶することができたのだ。しかし、これで安心してはいられない。
「マングースは駆除できたのですが、今はノネコの被害が出てきました。昼間、飼い主と暮らしている飼いネコや集落で残飯をもらっている野良ネコが、夜になると山に行ってネズミやウサギを食べたりするんです。
山の中で繁殖するネコもいて、子ネコに食べさせるために固有種のネズミやウサギをくわえて運んでいる写真などがカメラで撮影されています。これは問題なので、今はノネコの対策に力を入れています」
奄美大島の野生動物保護の闘いは、まだまだ続く。
天然記念物のアマミノクロウサギをくわえるノネコ。マングースがいなくなった今、今度はノネコが天然記念物などの脅威となっている
取材・文/村上隆保 写真提供/環境省奄美野生生物保護センター
記事提供元:週プレNEWS
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