5カ月の長旅…南極観測船「しらせ」取材Dが明かす“密着の舞台裏”
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イチオシスト:イチオシ編集部 旬ニュース担当
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7月21日(日)夜6時30分からは、テレビ東京開局60周年特別企画「日本⇔南極35000㎞!南極観測船“しらせ”に乗せてもらいました!」を放送。
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2018年から「日曜ビッグバラエティ」枠で放送している「巨大船に乗せてもらいました」シリーズの第5弾。去年11月に横須賀港を離れ、南極の昭和基地までの往復151日間、35,000km――。海上自衛隊員とともに日本で唯一の砕氷艦「しらせ」に乗艦し、第65次南極観測隊の任務に密着した水野潤ディレクターが、その舞台裏をざっくばらんに語ります。

隊員の皆さん同様、事前に歯の治療もすべて済ませて臨みました
――2023年11月10日から5カ月にわたる長旅。取材後の率直な感想はいかがですか?
「さすがに疲れました(笑)。過去、シリーズ第3弾となる超巨大コンテナ船(2020年6月21日放送)にも密着しましたが、それとは全く別もので、ディレクター人生の中でも、こんなに長い取材は初めてでした」
――2018年10月7日放送のシリーズ第1弾が日本→欧州20,000km。第4弾(2023年3月5放送)では、日本→インド洋27,000km。今回は、なんと35,000kmもの長旅です。
「第1弾の頃から、プロデューサーが『いつか“しらせ”を取り上げたい』と言っていましたが、ようやくその念願がかなって、報道として同行できることになりました。南極に行く機会はなかなかありませんし、2つ返事で同行することを決めました」
――密着した巨大船は、全長138m、海上自衛隊が保有する日本で唯一の砕氷艦「しらせ」。過去に紹介した民間船とは特徴が異なります。
「『しらせ』には、自衛隊員以外だと南極観測隊にならないと乗艦できないんです。しかも、観測隊の報道同行枠は少なくて、そうした中、さまざまな交渉を重ねて乗艦できることになったので、これはもう行くしかないだろうと。私の周りの同業者でも南極に行った人はそういませんし、ディレクターとしての興味もありました。
ただ、いざ行くとなると、簡単なことではありませんでした。5カ月にも及ぶ長い期間取材しなければなりませんし、観測隊としての準備期間は去年2月から始まっていて、5日間にわたって雪山での冬季訓練もありました。夏季も3日間の集中訓練があり、合間には幾度も打ち合わせが必要で、予想以上にやることが多かったです」
――宇宙飛行士ほどではないと思いますが、事前にトレーニングや体のメンテナンスもしなければならない。
「体力作りのために体を絞り、人間ドックを2回受けました。観測隊に同行するには、厳しい健康診査があるんです。1つの病院だけではチェック項目が満たされなかったので、2回目でやっとクリアしたんです。
もちろん『しらせ』には医師が乗っていますが、心臓系の病気などを発症したら、船艦内では手の施しようがないこともあるそうなんですよ。南極から一番近いオーストラリアの港まで船で1カ月近くかかることもあるそうなので、体に悪いところがないか、事前に調べなければなりません。放送でも触れていますが、隊員の皆さん同様、私も事前に歯の治療をすべて済ませて臨みました」
――番組前半では、艦内における海自隊員の仕事や生活に密着しています。乗船して、驚いたことはありますか?
「とにかく人が多いことでしょうか。艦長をはじめ、航海士、機関士ら、全国から集結した約180人の隊員と、途中オーストラリアで合流する75人の南極観測隊。第3弾で密着したコンテナ船の乗員は20数人でしたから“こんなにも人がいるんだ”ということに驚きました」

――海自隊員の皆さんの印象は?
「想像していた以上に気さくでしたね。自衛隊には規律や階級があるので、場合によっては難しい取材になるかなと思っていたんですけど、いろいろなことを教えてくださいましたし、聞けばプライベートについてもたくさん話してくれて…。もちろん、昭和基地に観測隊と物資を送り届けるという任務がありますから、厳しいところは厳しく、自分を律してお仕事をされていましたが」
――若い隊員も多いと聞きました。
「南極に憧れて自衛隊に入った人、子どもの頃、地元にやって来た『しらせ』を見て……という人など、ほとんどの若い隊員が志願しています。乗りたい人がこんなにも多い船は、『しらせ』以外、あまりないそうです」

――番組では、食事や入浴など艦内での生活も紹介されますが、実際に体験して、どんな感想を持ちましたか?
「海水を沸かしたものになりますが、お風呂にも入れますし、何より食事がおいしくて助かりました。さすがに5カ月ともなると、脂っこいものが食べたい、ジャンクなものが食べたいとなりましたが、おかげさまで健康的に過ごすことができました。取材から戻って13㎏も太ってしまいましたが(笑)」

遠い場所に行く人たちがいて、その人たちを乗せる船があって、そこには大変な努力とさまざまな思いがある
――オーストラリアのフリマントル港に到着後、南極観測隊を乗せると、約1カ月かけて昭和基地へ。隊員には、さまざまな職種の方がいらっしゃるようですね。
「大学院生や研究者、企業の方と、多種多様な人たちが参加しています。夏期間の2カ月半、昭和基地に滞在する夏隊が50人、1年以上滞在する冬隊が25人。皆さん、その期間にすべてを懸けていらっしゃるので、当たり前ですが目的意識が高かったように思います。また、“南極観測隊に参加することが子どもの頃からの夢だった”という研究者の方もたくさんいらっしゃいました。日本に戻り、編集をしながら改めて『しらせ』や昭和基地の偉大さを感じました」

――冬隊の皆さんは1年以上も。目的意識と使命感がなければ務まりません。
「過酷な環境の中、さまざまなことを研究し、よりよい未来につながるために働く。本当に頭が下がる思いでした。温暖化などでどんどん溶けている氷をどう守るのか? 対応策を練るための材料を集める。観測隊の皆さんの思いや仕事ぶりを感じ取っていただけるといいなと思います」
――それを陰で支えるのが、「しらせ」であり、海自隊員であり。
「そうですね。観測隊と物資を届けた後も、今度は1年間で出たごみや、現地で修理できなかった車両などを日本に持ち帰るために積み込む作業など、彼らの任務は終わりません」
――水野さんが、南極の地で感じたことは?
「毎日のように取材をし、ずっと海や氷に囲まれていたので、正直人生が変わるとか、そういうことはなかったんですけど、やはり“人間っていいな”とは思いました。極地、周りに何もない世界では、いくら自分を着飾っても仕方がないということにも気づかされました。実際に1年間暮らしてみないと分かりませんが、きっと純粋に、“人対人”で接することができるようになるのかなと。
子どものように美しい風景に感動したり、別れの際も人目をはばからず抱き合って号泣したり…。映像にも、苦楽をともにした観測隊の姿が映し出されていると思います」
――後半は、昭和基地の秘密や歴史を盛り込みながら、海自隊員の南極での活動や観測隊の生活、ヘリコプターで行く白銀の素晴らしい景色、猛吹雪の中での仕事など、南極での見どころが盛りだくさん。最後に、水野さんからメッセージをお願いします。
「全部見どころなんですけど、映像的な魅力で言うと、オーロラや『しらせ』が自重を使って1.5mという厚い氷を割りながら少しずつ航路を切り開いていくところでしょうか。その時の“音”や、南極海から昭和基地近辺をとらえたドローンの映像にも注目してほしいですね。」

「ドキュメンタリーですから、人間模様も見どころです。遠い場所に行く人たちがいて、その人たちを乗せる船があって、そこには大変な努力とさまざまな思いがある。映像にはない部分からも何か感じていただければ、取材した甲斐があります。そして、巨大船シリーズファンの方にとっては“うれしい出来事”も登場します。そちらも楽しみに放送をお持ちください」
7月21日(日)夜9時54分に公開するインタビュー後編では、水野ディレクターが、オンエア後だから話せるエピソードや取材で感じた本音を明かします。
(取材・文/橋本達典)
記事提供元:テレ東プラス
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