クラウドって何? 【岡嶋教授のデジタル指南】
「クラウド」という言葉を耳にする機会が増えています。そもそもクラウドとは何なのでしょうか?
クラウドコンピューティングのことで、コンピューターの利用形態の一種です。コンピューターを計算能力や記憶能力を生み出す機械と考えたとき、それが手元にあるのがいいのか、どこかに集中させた方がいいのかは永遠の課題です。コンピューターの黎明期はそもそもコンピューターが高価で大きかったので、会社に1台あって必要があればマシンルームにおもむくといった使い方でした。それでは不便なので、小型軽量化をして1人に1台のパーソナルコンピューターへとかじを切ったわけです。個人に適合した使い方ができるという意味ではとても進歩しましたが、個人がコンピューターやその附帯資源(ソフトウェアや周辺機器)を管理するのはなかなか大変です。そこでやっぱりまとめて管理しようとデータセンターにコンピューターを集中させたのがクラウドです。
過去の大型コンピューターとの違いは、利用の手軽さと柔軟性です。クラウドは無数のコンピューターの集合体で、その管理やメンテナンスはデータセンターがまとめて行ってくれます。利用者はそこに接続してネットワーク越しにクラウドを利用します。これによって管理の煩雑さから解放されるばかりか、必要に応じて「午前中はたくさん使わせてもらう。午後は暇になるのでちょっとだけ使うことにして料金を節約する」といった使い方ができます。
自社でこれを行うのはなかなか困難で、ピーク時にあわせて高性能コンピューターや多数のサーバを装備することになり、閑散期は資源を持て余してもったいないのです。クラウドであれば会社Aがあんまり計算能力を使わなくなる時間帯には、こんどは会社Bがたくさん使ってくれるといった経営が可能になり、少なくとも1社で運用している状態よりは資源を有効に活用することができます。
これは発電機と発電所に例えることができるでしょう。自宅に発電機があれば安心ですが、そのかわり定期的な発電機の買い換えやメンテナンス、故障時の対応が必要になります。また、発電機を使っていないもったいない時間も長くなります。これに対して発電所から電気を送ってもらう形態にすると、発電能力や燃料をより効率的に使えます。規模の経済が働きますし、いろいろな利用者がいろいろな時間帯に利用するので発電機を遊ばせておく時間も最小に留められます。「夜間はあまり利用者がいないけれど、発電機を止めるわけにもいかない。じゃあ、夜間に使ってくれる人には電気料金を割引しますよ」といった戦略的な販売方法すら提供可能です。そのため、送電網が信用できるようになり停電が減ってからは、家庭や企業で発電機を備えるようなケースは減りました。クラウドの運用形態、利用形態、歴史的な経緯はこれによく似ています。
クラウドが語られるときのキーワードに「仮想化」「スケーラブル」があります。仮想化は物理的なコンピューターと仮想的なコンピューターを分ける技術です。例えば管理者や利用者からは1台のコンピューターに見えているけれども(仮想)、実際にはその背後で100台のコンピューターが動いている(物理)といった運用をします。これで管理の手間を減らし、また混んでいるときには背後で動いているコンピューターを速やかに200台にするといった柔軟な拡張や縮退(スケーラブル)ができるわけです。
【著者略歴】
岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)など。
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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