フィリピン人船員7千人が足止め ホルムズ海峡の封鎖で 【水谷竹秀✕リアルワールド】
イチオシスト
フィリピンは世界の船員の約4分の1を供給する船員大国である。英語に堪能(たんのう)で、労働人口が豊富なことから、総勢で30万人以上の船員がタンカーやコンテナなどの貨物船に乗り、海外就労者として働いている。
今から10年以上前のことになるが、日本の海運業界の関係者が語った言葉が、そんな実情を物語っていた。
「日本の船会社はフィリピン人の船員たちがいなかったら、もうやっていけません」
国連貿易開発会議の報告書によると、2025年1月時点で、日本の海運会社が運行する外航船は約3100隻で、ギリシャ、中国に続いて世界第3位の規模を誇る。乗船する船員は推計約5万5千人だが、このうちフィリピン人船員は全体の7割も占め、約4万人に上っているという。対する日本人船員はわずか3・5%と、約2千人にとどまっている。日本の海上輸送は、フィリピン人船員によって支えられていると言っても過言ではないのだ。
イランが事実上封鎖しているホルムズ海峡の西側のペルシャ湾で、現地時間今年3月11日未明、商船三井が保有するコンテナ船に損傷が見つかった。東側にあるオマーン湾に停泊していた同社のタンカーも、日本時間4日に損傷した。いずれも船員は無事というが、フィリピン移民労働省の発表とすり合わせてみると、その多くはフィリピン人船員とみられる。同省の12日発表によると、ペルシャ湾内で飛翔体などによって損傷した船舶3隻のうち、2隻には合わせて38人のフィリピン人船員が乗り組んでおり、全員無事だった。
ペルシャ湾には13日現在、日本関係の船舶45隻が閉じ込められ、日本人船員24人を含む約千人が乗船している。日本人以外の残りの多くは言わずもがな、フィリピン人だろう。
移民労働省によると、ホルムズ海峡周辺には13日現在、フィリピン人船員約7300人が足止めされるなどの影響を受けている。同省と連携し、船員たちの安全確保に努めるフィリピン人船員組合のドミンゴ組合長は、私の取材にこう説明した。
「船員たちからは食料不足に陥るのではと懸念する声がオンラインを通じて多数届いている。彼らは早急にフィリピンへの帰還を望んでいるが、そんなに簡単に船から出られるわけでもない。政府機関とともに状況を注視しながら、対応している」
今のところ、負傷者や死亡者はいないが、船員1人が行方不明と報告されているため、確認を急いでいる。足止めされたフィリピン人船員の1人は、海外メディアの取材にこう語った。
「日本に原油を運ぶタンカーに乗船している。もう9日間も足止めされており、退屈になってきたが、いつ攻撃されるのかと思うと怖い。狙われているのは原油のタンカーばかりだから。早く母国に帰りたい」
一部の船舶は16日、ホルムズ海峡での航行を再開したと報じられているが、その可否はイラン当局の判断によるところが大きく、現場は依然として予断を許さない状況が続いている。
みずたに・たけひで ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。
【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No.13からの転載】
記事提供元:オーヴォ(OvO)
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