騒動から1年…流したうれし涙 笠りつ子が吐露した38歳の“苦悩”“葛藤”「今は宙ぶらりん」
イチオシスト
<Vポイント×SMBCレディス 最終日◇22日◇紫カントリークラブ すみれコース(千葉県)◇6731ヤード・パー72>
「優勝する時はこういうパットが入る」。そんなことを考えながら打った、最終18番の4メートルのバーディパットがカップに消えると、笠りつ子は右手で力強いガッツポーズを繰り出した。2021年6月の「ヨネックスレディス」以来5年ぶりとなる通算7勝目が決まると、すぐに目がしらを押さえる。「初めて涙が出ました」。その理由は、1年前のこの大会にあった。
昨年大会の最終ラウンドを終えた後、笠の第2ラウンド(大会2日目)13番ホール2打目地点のボール処置に誤りがあったことが大会関係者からの指摘で発覚した。レッドペナルティエリアからの救済として2度ドロップを行ったのだが、1回目のドロップでボールがインプレーだった、という裁定。これにより2罰打がくだされ、順位は当初の7位タイから13位タイに下がった。そして、その事実を報じるニュースが一斉に配信されることになる。
「日曜日の夜にニュースのトップになって、またやっちゃったって。なんで“笠りつ子”という名前は、騒がせるんだろうって。他にも世間を騒がせたことがあって、ネットの書き込みにも数年前のことが出ていたり。一生それは言いつづけられる」
2019年の試合中、笠はコース関係者へ暴言を吐いたとして謝罪をし、ツアー出場を自粛する騒動を起こした。この過去をフラッシュバックさせるできごとだった。「それもあって、今年は絶対に間違えないようにと思いながらプレーしました。それで優勝できた。昨年は悲しくて涙を流したけど、今年はうれし涙になりました」。不思議なめぐり合わせだ。
試合は一進一退の締まった展開だった。17番を終え、トータル2アンダーのトップには笠と神谷そらが並んでいた。「プレーオフかなと思いながらも、18番はパー5だし、そらちゃんが有利だと思った。そらちゃんがバンカーからミスをして、気持ちは楽になりました」。
2オンを狙った神谷の2打目は、ピンサイドに待ち構えた左手前のバンカーに落ち、3打目も出すだけで寄せることができなかった。一方、笠はバーディでトータル3アンダーに。最後は2打差をつけた。「そらちゃんがバーディを取って負けると思ったけど、『ゴルフの神様お願い』って祈りました」。願いが通じた。
勝者が喜びを語る優勝会見。だが、この日は少しばかり様子が違った。そこで出てきた言葉は、葛藤とも苦悩とも取れるものが多かった。
「今年、優勝して、ちょっとゴルフをやめる…ではないけど、前向きには考えられなかった。とにかく1勝して考えようと思っていました。そしたら早い段階で勝ったので…うーん、どうしましょう」
この気持ちの揺らぎの原因については「年齢です」とキッパリ答える。そして何度も自問自答を繰り返す。
「練習ラウンドの時に、自分は37歳だと思っていたら38歳なんですよ。もうすぐ40歳になる。どうしていくか。若い時はイケイケで『ゴルフを頑張ろう』と思っていたけど、どうするんだろう。やり続けるかもしれないし。もっと広い視野で考えるかもしれないし…」
「この先どう生きていくのか。何が幸せかは分からない。同年代はみんな結婚して、子供もいる。38歳はちょうど境目。ここを乗り越えれば一皮むけた笠りつ子になれるかもしれない。でも今は宙ぶらりん」
こんな気持ちにしっかりと向き合うため、自分に課した絶対条件が「優勝」だったことも明かす。ここ2年間はシード権も取れず、昨年末にはQTも経験したが、「シードを戻したいという気持ちはなく、とにかく勝って気持ちを楽にしたかった」とも話す。今後の目標について聞かれた時も「まだ分からない。さっき優勝して、きょうは浸りたい。ちゃんと考えてからなので、まだまだ何も言えません」と、最後まで揺れる心境を吐露する時間でもあった。
このオフは、これまでのストイックさを捨て、合宿を楽しむようにもなったという。ハワイ合宿でも、これまで食べなかったパンケーキやアサイーを食べ、景色を眺める時間も作った。プロになって21年目を迎えたベテランが、今の自分との付き合い方を考え導いたひとつの形と言える。
開幕から2試合連続で予選落ちという結果に終わったが、「気持ちを強く持とう。気合と気楽。“気”を持っていこう」と自らを鼓舞し、3戦目で優勝というハードルをクリアした。引退は強く否定。最後も「試合には出ますよ!」と念押しをしたが、この日の勝利は笠の気持ちにどんな変化を起こさせるのだろうか。(文・間宮輝憲)
<ゴルフ情報ALBA Net>
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