第99回 2025年 キネマ旬報ベスト・テン≪外国映画作品賞≫≪外国映画監督賞≫ほか受賞、映画「ワン・バトル・アフター・アナザー」
イチオシスト

「第99回 2025年キネマ旬報ベスト・テン」をはじめとして、本年度の賞レースを席巻している「ワン・バトル・アフター・アナザー」の4K UHD&ブルーレイ&DVDが2月4日に発売(レンタルBlu-ray&DVDも同時リリース)された。鬼才ポール・トーマス・アンダーソン監督の傑作を自宅でも楽しめる。
どこまで続く戦いぞ 革命戦士復活か

かつては革命を夢見ていた活動家パットは、ボブと名を変えて当局の追求から身を潜め、同志であったペルフィディアとの間に設けた一人娘ウィラと二人きりで暮らしていた。だがかつてペルフィディアと関係を持ったことのあるロックジョー大佐がある理由からウィラを執拗に狙うようになったことで、次から次へと続く果てしない戦いの場に身を投じていくことに。味方となるのはウィラの空手の師匠であり、不法移民たちの守護者でもあるセンセイ。ロックジョー大佐の背後にいる白人至上秘密結社からウィラを'処分'すべく暗殺者が送り込まれたことで、事態はさらに複雑化していく。
世界三大映画祭すべてで監督賞受賞経験のある名匠ポール・トーマス・アンダーソン監督は、「ワン・バトル・アフター・アナザー」によって今シーズンの各映画賞でも結果を残しつつある。ロバート・アルトマンへの敬愛を度々口にするアンダーソンは、出世作「ブギーナイツ」(97)、「マグノリア」(99)ほかの作品で群像劇に独特の冴えを見せてきた。「ワン・バトル・アフター・アナザー」でも主人公ボブ、父の過去を知らず溝ができているウィラ、ウィラの母ペルフィディアへの妄念と自らの権力欲のために暴走していくロックジョー、飄々としていながら実はとても頼りになるセンセイほか多彩な人々が縦横に物語を彩り、これまでのアンダーソン作品の集大成とも言えるような見事な群像劇に仕上がっている。
名優たちと新星たちが織りなすタペストリー

主人公を演じているのはレオナルド・ディカプリオ、ロックジョー役のショーン・ペン、センセイ役のベニチオ・デル・トロがアカデミー賞受賞経験者にふさわしい演技を披露しているほか、ウィラ役のチェイス・インフィニティ、ペルフィディア役のテヤナ・テイラーが注目を集めることとなった。名優、新鋭がユニークな人物たちを演じて、分断の進む現代アメリカを痛烈に風刺するタペストリーを華麗に彩っているのだ。レオナルド・ディカプリオはかつて「ブギーナイツ」の主人公役のオファーを断った(マーク・ウォールバーグが演じることとなった)ことを「俳優人生における最大の後悔」と語っており、「ワン・バトル・アフター・アナザー」では、その後悔を晴らすべく、キャリアの中でも最良の部類に入る演技を披露している。脚本を読んだ瞬間に「自分の年代の俳優にとっては天からの贈り物のような役だ」と感じたというペンも、センセイ役のデル・トロも、ペルフィディア役のテイラーも、そろってオスカーにノミネートされている。
≪活劇監督≫アンダーソン誕生!

いかにもアンダーソンらしい群像劇である「ワン・バトル・アフター・アナザー」だが、これまでのアンダーソン作品とは大いに違った側面も持っている。もちろん、「パンチドランク・ラブ」(02)、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(07)、「ファントム・スレッド」(17)など群像劇とは呼び難いものもアンダーソンは作ってきたし、前作「リコリス・ピザ」(21)も青春恋愛映画の佳作だった(この作品でヒロインを演じたアラナ・ハイムも「ワン・バトル~」に出演している)。
しかし、アンダーソンが、ここまで振り切った活劇を撮るとは、誰も予想していなかったろう。特にクライマックスのカーチェイスシーンは「ブリット」(68)、「フレンチ・コネクション」(71)、「バニシング・ポイント」(71)「続・激突!/カージャック」(74)などの過去のカーアクション映画へのオマージュだと、アンダーソンは語っている。「続・激突!」を監督したスティーヴン・スピルバーグや、活劇派のマイケル・マンが、「ワン・バトル・アフター・アナザー」を昨年公開された作品のうちのお気に入りとして挙げているのも納得で、映画史に残る新たなカーチェイス場面が誕生したと言えよう。
繰り返し鑑賞する価値のある作品

さてポール・トーマス・アンダーソンの作品と言えば、斜め上からのユーモアも特徴の一つだが、「ワン・バトル・アフター・アナザー」でも、'センセイ'のすっとぼけたセリフを始めとして、登場人物たちの口から飛び出すセリフがよく聴くと、なんだか変でミョーに可笑しかったりする。特に暗躍する白人至上主義グループ「クリスマス・アドベンチャラーズ・クラブ」のメンバーたちとロックジョーの間で交わされる言葉の数々は、大真面目であるだけに、逆に滑稽で、そして恐ろしい。
名優たち、新星たちの演技合戦、ポール・トーマス・アンダーソンの演出の冴え、そしてライターとしてのアンダーソンによるセリフの数々をじっくりと分析し、堪能し、そして何よりも繰り返し楽しむことができるというのがパッケージ盤を所有する楽しみである。ラストのあの❝未来への疾走❞をいつでも観ることができるので是非、手にしてほしい。
文=鬼塚大輔 制作=キネマ旬報社 制作部(山田)

「ワン・バトル・アフター・アナザー」
●2月4日(水)4K UHD&ブルーレイ&DVD発売(レンタルBlu-ray&DVD同時リリース)
▶4K UHD&ブルーレイ&DVDの詳細はこちら
●4K UHD+ブルーレイセット(2枚組) 価格: 7,590円(税込)
●ブルーレイ+DVD セット(2枚組) 価格: 5,390円(税込)
※4K UHD、ブルーレイ、DVDには、劇場では観られなかったオリジナル吹替版を収録!
レオナルド・ディカプリオ演じるボブ役を⼈気声優・浪川大輔が演じる他、ショーン・ペン演じるロックジョー役には安原義人、ベニチオ・デル・トロ演じるセンセイ役に石住昭彦が出演するなど、吹替版でも実⼒派声優陣の≪狂演≫が実現。
●2025年/アメリカ/本編162分
●監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
●出演:レオナルド・ディカプリオ ショーン・ペン ベニチオ・デル・トロ レジーナ・ホール テヤナ・テイラー チェイス・インフィニティ
●権利元:ワーナー ブラザース ジャパン
●発売元・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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