「自民だけで過半数」に黄色信号? 中道改革連合「"公明票"で20選挙区は自民から議席を奪える」の皮算用
イチオシスト

新党「中道改革連合」結党を発表した立憲民主党の野田佳彦代表(左)と公明党の斉藤鉄夫代表(右)
立憲民主党と公明党が合流した新党「中道改革連合」の誕生で混沌としてきた今回の衆院選。
新党結成の知られざる内幕、さらには同党の内部から聞こえてくる票読みの現実度についても取材した。そして、高い支持率を誇る高市内閣だが、官邸からはにわかに焦りが見え始めて......。
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【消えた大勝予測】自民党の実力者、萩生田光一(はぎうだ・こういち)幹事長代行の地元・東京都八王子市で、萩生田氏のポスターと共に目立つものがある。創価大学、牧口記念会館、東京富士美術館、東洋哲学研究所など、創価学会関連の巨大施設の数々だ。
「八王子市は創価学会にとって、新宿区信濃町と並ぶ信仰の聖地。学会にとって重要な施設が多いため、市内に居住する信者が多いんです。そんな信者を呼び込もうと、学会の三色旗を店頭に掲げる商店や飲食店も少なくありません」(創価学会関係者)
創価学会は公明党の支持母体である。1小選挙区当たり1万~2万票とされる学会票(公明票)だが、八王子の大部分が属する東京24区はその規模を大きく上回る。自公が連立していた頃、萩生田氏はこの分厚い公明票に支えられ、2003年の初当選以来、7回の当選を果たしてきた。
ところが、公明の与党連立離脱、立憲民主党との新党「中道改革連合(以下、中道)」の結成で、その足元がにわかにぐらついている。
「八王子市の公明票は少なく見積もっても4万票以上。2月の衆院選でそれがライバルの候補にそのまま乗ることになれば、萩生田氏は劣勢に追い込まれます。
24年の衆院選では、立憲の候補(有田芳生[よしふみ]衆院議員・比例復活)との票差はわずか7500票余りでした。当時の萩生田氏は裏金問題で自民から公認を得られず、無所属で出馬しましたが、自民党支持者からの投票が多かった。
さらに"事実上の自民党議員"という扱いで、多少分散したとはいえ、かなりの公明票(約2万5000票といわれる)を上乗せすることができた。
それでも苦戦したわけですから、今回、立憲と公明が新党をつくって衆院選を戦うというニュースに萩生田氏は危機感を深めているはずです」(全国紙政治部デスク)
落選危機に直面する自民幹部は萩生田氏だけではない。衆院選を仕切る古屋圭司選対委員長(岐阜5区)もそのひとりだ。
「24年の衆院選で次点となった立憲候補との票差は1万5000票ほど。古屋氏に入っていた公明票が中道に8000票流れるだけで落選しかねない状況にあります。選対本部長が落選なんてシャレになりません」
1月17日付の朝日新聞は、24年の衆院選の結果を基に、「そのとき、もし中道があったら」と仮定して、公明票の50%が自民から中道に移った場合の議席のシミュレーションをしている。
それによると、小選挙区で自民は89議席、中道は149議席になるという。当時と今では自民党を取り巻く状況があまりに違うため、このシミュレーションを今回の衆院選に当てはめることはできないが、それでも公明票の影響力は相当なものだと言えるだろう。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「昨年11月に自民が行なった独自調査は、高い高市人気を背景に、今解散すれば、『260議席以上』の獲得も可能というデータだったと聞いています。
首相はそのデータを基に、昨年暮れ時点では誰も予想していなかった1月解散を奇襲的に仕掛けることで大勝を狙ったのでしょうが、中道の誕生でその思惑どおりにいかないかもしれません。公明票が完全に離れ、中道に風が吹けば、さらに厳しくなる」
【焦りの高市官邸】公明が連立与党から離脱した昨年10月まで、公明と立憲は選挙のたびに激しく戦ってきた。その不倶戴天(ふぐたいてん)の敵とでもいうべき公明と立憲が選挙協力どころか、一気に新党結成にまで突き進んだのだ。それを見て自民党からは「選挙に勝つための、にわかづくりの野合」という批判も出た。
だが、前出の鈴木氏はこう話す。
「公明と立憲の話し合いは、昨年10月の公明の与党離脱の瞬間から水面下で続いていました。もっと言えば、24年秋の衆院選直後から、早くも公明の重鎮や学会幹部は中道勢力が結集すべきと言い始めていたし、立憲の幹部やベテランからも政界再編の声が出てきていた。
その意味では、急な動きに見える今回の新党結成は、2年越しの下地の延長線上に実現したと見るべきです。
水面下で両党接近のために汗をかいてきたのは立憲の安住淳幹事長、そして馬淵澄夫(まぶち・すみお)代表代行のふたり。野田氏が代表就任時に馬淵氏を代表代行に指名したのは、公明との交渉役を期待してのことだったと聞いています」
ただ、これまで敵対してきた立憲と公明の連合はすぐに実現するようなものではない。そのため、予算成立後の解散を見据え、あと2~3ヵ月かけて議論しようという運びになっていたという。
「ところが、高市首相が突然、冒頭解散をぶち上げてしまった。立憲、公明側は選挙の準備もまだ十分にできていない。このままでは大敗もありうるという危機感もあって、一気に新党結成にまで駒を進めてしまったというわけです。
逆に言えば、高市首相の奇襲めいた解散宣言がなければ、新党の誕生はまだまだなかったかもしれません」
前出の創価学会関係者も立憲、公明の新党合意プロセスの舞台裏をこう明かす。
「1月12日に公明の斉藤鉄夫代表と西田実仁(まこと)幹事長、そして立憲の野田、安住、馬淵3氏が会談したとき、立憲側は統一名簿作りで合意できれば御の字という感触だった。
ところが、斉藤代表は統一名簿どころか、新党までやろうと、立憲の3人を驚かせたんです。つまり、新党話は公明提案だったということ。その背景に創価学会の原田稔(みのる)会長の了承があったことは言うまでもありません」
実際、創価学会はその後の1月14日に方面長会議を招集、2月の衆院選では学会が一致して新党・中道の候補を支援するという機関決定を下している。
高市首相にしてみれば、1月冒頭解散という奇襲を仕掛けて衆院選勝利を確実にしたつもりが、立公から新党設立という逆奇襲をかけられた格好だ。
「公明党内では、学会票などが自民を離れて中道候補に乗ることで、少なくとも自民の現職20人ほどが落選すると予測しているそうです」
高市官邸も焦りを強めている。それを示すのが、1月19日の高市会見だと指摘するのは、経済産業省の元官僚・古賀茂明氏だ。
「高市首相は臨時国会でレジ改修に時間がかかるなどの理由から、食料品の消費税ゼロはしないと明言していました。それにもかかわらず、この会見で突然、2年間の食料品の消費税ゼロの公約を口にすることになった。
これは明らかな選挙の争点潰しです。中道は目玉政策のひとつとして食料品の消費税を恒久的にゼロにすることを打ち出している。ここで与党も消費税ゼロを公約しないと、選挙の一大争点になり、減税に後ろ向きな自民が不利になると焦ったのでしょう」
勝敗ライン設定の"下方修正"からも高市官邸の焦燥感が読み取れる。自民の鈴木俊一幹事長が示した衆院選の勝敗ラインは「与党で過半数」というものだった。

「食料品の消費税ゼロ」は各党の「標準公約」に。日本維新の会の藤田文武共同代表も2年の時限的な公約にすると表明した
「今でも自民と日本維新の会の議席を合わせるとギリギリ過半数。なのに、勝敗ラインが現状と同じ過半数というのでは、『だったら、なぜ衆院を解散するのか』と突っ込まれても仕方がない。
高市首相周辺の本音は自民単独で過半数のはず。そうなってこそ、連立パートナーの維新に遠慮せずに高市首相のやりたい政策を打てる。
ただ、中道の誕生で大勝が見通せなくなってしまい、ヘタに高い目標を掲げて敗北したら、責任を問われて高市首相の退陣もありえる。だから、与党で過半数という低い勝敗ラインを設定したのでしょう」(前出・政治部デスク)
【最も予測が難しい選挙】今回の衆院選は選挙のプロでさえ、「こんなに予測のつかない選挙は初めて」と悲鳴を上げている。
その要因のひとつは公明票の動向の不透明さだ。前出の創価学会関係者が言う。
「学会からの呼びかけがある以上、学会員はまじめに新党の中道候補に票を寄せるでしょう。
ただ、公明票は学会票だけで構成されているわけではない。小選挙区で自民候補を支援した見返りとして比例区の公明候補に寄せられる自民からのバーター票もある。国土交通大臣のポストを独占してきたおかげで集まる建設業界票もある。
メディアは公明票が1小選挙区当たり1万~2万票あると報道しますが、実際はもっと少ないはずです」
また、学会票がすべて中道の候補に投じられる保証はない。
「何しろ、26年間も与党として共に活動してきたんです。そのため、地方議会などでは議長を自民と公明の議員が順番に務めるのが恒例になっている地域もある。一緒に仕上げた条例もかなりの数に上り、その円滑な施行のためには連立離脱後も自公で歩調を合わせる必要がある。
そんなに簡単に自民と縁は切れないんです。学会本部から新党の中道候補に票を寄せるように指示があっても、地域の人間関係を維持するために、一定の票が自民候補に入る可能性は大いにあります」
こうした公明票の動向の不透明さが2月決戦の予測を難しくしているというわけだ。
同じことは自民にも言える。党支持率が30%前後と伸び悩む自民にとって、頼りの綱は高市首相個人の人気。政権発足後3ヵ月が過ぎても、内閣支持率はいまだに70%前後の高水準を保っている。
ただ、自民国会議員秘書はこう困惑する。
「この高支持率が実際の国政選挙でどう自民票に結びつくか、自民党内でもイマイチわからないんです。
候補者17人中7人が大量落選した昨年の葛飾区議選、さらには学歴詐称疑惑や異性スキャンダルで出直し選となった伊東市(静岡県)と前橋市(群馬県)の市長選も自民候補は国民民主推薦候補らに競り負けた。
高市支持者の中には参政党、日本保守党、国民民主党などの支持者もたくさん交じっている。その人たちは自民を見限ってこの3党に流れたケースが多く、衆院選ではそれぞれの支持政党候補者に投票する確率が高い。
無党派層の高市ファンも風頼みで、中道ブームが起これば、そちらにふらふらと寄っていくかもしれない。こんなに事前予測が立たない選挙は初めてです」
【政界再編が始まる?】予測不能な今回の衆院選だが、ひとつだけ確かに言えることがある。それは衆院選後に政界再編が起きる可能性が開けてきたということだ。前出の鈴木氏が言う。
「中道が登場したことで、長らく自民党の一党支配が続いてきた政界に新しい化学反応が起こる。おそらくタカ派的な右派保守、穏健な保守やリベラルも含む中道保守、そして共産党などに代表される改革リベラルの3つのボリュームへと政界は収斂(しゅうれん)していくことになるでしょう。その意味で、今回の衆院選は政界再編の第1幕なんです」
それでは第2幕は?
「3つの固まりが時に応じて連合、提携して連立政権をつくる時代がやって来る。これが第2幕です。そのプロセスでは、巨大与党である自民から中道保守の党へと移る議員も出てくるはず。第1党が割れないと政界再編は起きませんから」
前出の古賀氏も同じ見方だ。
「今回の衆院選は政界再編が始まる節目の選挙になるかもしれません。まずは新党の中道が政界再編を予感させる政治的な固まりとしてスタートする。そうなれば、いずれは自民も中道も割れ、日本も欧州のようにそれぞれの主張の違いがはっきりした多党が連立政権をつくり、政権交代する新しい政治状況に突入できる。
そう考えると、中道の衆院選勝敗ラインは現状維持の170議席前後(立憲148、公明24)で十分でしょう。それだけのボリュームがあれば、自民と拮抗(きっこう)して政権交代の受け皿になれます」
とかく解散の大義に乏しいと批判されがちな今回の衆院選だが、旧態依然とした日本の政治シーンに新しい風を吹き込むきっかけになるかもしれない。
写真/共同通信社
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