過去最多の 「人手不足倒産」は予兆? 今年こそサラリーマンの給料は増えるのか!?
イチオシスト

増加する人手不足倒産
ランチは1000円超え。連日見る、いつも買ってるあの商品の値上げ報道。そろそろマジでキツいって! 「賃上げが大事」ってスローガンは耳にタコができるほど聞いたけど、結局昨年も実質賃金はマイナス。いつになったら上がるんですか(泣)。
労働市場を見つめる3人の識者に25年の総括、ならびに今年の賃金予測を聞いた!
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【人手不足倒産が激増中!】2025年の失業率は低く、また有効求人倍率も高水準が続いた。要は雇用環境は良好で、"売り手市場"の一年だったといえる。
であれば理論上、賃金はグッと上がるはずなのだが、物価上昇分を加味した実質賃金を振り返ると、なんと年頭から10ヵ月連続のマイナス! 実質賃金の減少傾向は22年から続いているのだが、可処分所得がジワジワ減っていく現状、そろそろなんとかならないものか!?
この問題を考えるに当たり、見過ごせないトレンドがある。東京商工リサーチの調査によると、昨年1~11月にかけて「人手不足倒産」が359件発生し、過去最多を記録したというのだ。その勢いは、前年比34.4%もの激増! 東京商工リサーチの坂田芳博(さかた・よしひろ)氏に解説してもらおう。

「求人難」「従業員退職」「人件費高騰」を理由に倒産した企業数の推移を示した。出典:東京商工リサーチ「2025年1-11月の『人手不足』倒産 359件 サービス業他を主体に、年間400件に迫る」【https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202054_1527.html】
「当社では、倒産の一因が『求人難』『従業員退職』『人件費高騰』に当たるものを人手不足倒産としています。すなわち、仕事はあっても操業できず、資金繰りに行き詰まってしまうのが人手不足倒産です」
つまり、目下の売り手市場を象徴する現象なのだ。これが賃金上昇圧力となるのは言うまでもない。具体的にはどんな分野で起きている?
「業種としては、建設業が顕著です。昨年10月の有効求人倍率は5倍強で、圧倒的な売り手市場。人が採れないし、良い条件を求めて転職する人も多く、苦しい企業から倒れていく状況です」
ほかの業種では、飲食や宿泊、福祉・介護など、サービス産業の人手不足が顕著だという。
「また業種を問わず、やはり賃金が低い企業は人集めに苦慮しています。規模で言うと、大手よりは中小企業のほうが賃金アップの余力が限られ、厳しい部分がありますね」
リクルートワークス研究所研究員の坂本貴志氏も、企業の規模と職種による人手の偏りを指摘する。
「例えば金融やITなど、都市部の事務職で働く場合、企業規模は比較的大きく、賃金も高くなります。一般事務の有効求人倍率は約0.3倍で、人手は余っているくらい。建設業などとの格差が際立ちます」
どうやら、肉体労働とデスクワークで、人繰りの格差が大きくなっているようだ。
【人手不足倒産は経済の成長痛】坂本氏が続ける。
「経営者にとっては、人手が足りないのは死活問題です。ただし、その解決策はいたって単純。賃金を上げていけば、いずれ人は採れます。そして実際、人手不足は強烈な賃金上昇を生み出しているんです」
坂本氏によると、賃金動向を見るには年収ではなく、時給で見ることが重要だという。業種ごとの平均年収は、アルバイトやパートで働く人が多い業種では総労働時間が少ないぶん低く出てしまうなど、実情にそぐわない部分があるからだ。
「この10年の時給の伸びを見ると、やはり人手不足が顕著な業種の賃金が伸びています。飲食・宿泊業では時給換算で約24%、建設では約21%上がっていて、事務職に比べれば大きく伸びています」
ここで気になるのが、人手不足の代表職種という印象のある介護職だ。
「介護報酬という縛りがあるため、介護職の賃金は国が決める公定価格であり、だから賃金が上がらないといわれます。しかし、実際にはそうとも言い切れません。
というのも、介護報酬は労働者ではなく事業者に支払われるもので、それを原資に、賃金を事業者が決めているから。つまり事業者は必要と採算に応じて、介護職の賃金を上げることは可能です」
仮に介護職と他業種との賃金格差が拡大すれば、人が来なくなる。そうなると事業者は賃金を上げるしかない。それができない事業者は、人手不足倒産していくことになる。
「事業者が退出しては困ると考えるなら、政府は介護報酬を上げる必要があるでしょう。ただ、どんな職種・業種も人手の需給によって賃金が動くという点は変わりません。なので、介護職の賃金もいずれ上がるはず。
また、高市早苗首相は介護報酬の改定を前倒しし、介護事業者への補助金を支給する方針も示しています」(坂本氏)
人手不足時代は、どんな業種であってもそこで働く人の賃金を上げ、ひいては経営者に対応を迫るものであると言えそうだ。坂田氏はこう言う。
「今倒産が増えているのは、景気が悪いから、というわけではない点が重要です。
元から起きていた人手不足に、海外の事情や円安による物価上昇が火をつけ、賃金上昇が当たり前に求められるようになった。結果、人手不足が倒産の一因となるほどの大ごとになったわけです。
つまり、日本経済が転換する際の『きしみ』のようなものだと言えます」
詳細は省くが、リーマン・ショックやコロナ禍を経て、経営が苦しい企業を守る制度が作られた。それに依存する、俗にいう"ゾンビ企業"を淘汰(とうた)し、利益と賃金を上げられる企業に労働力を移転させる働きが、人手不足倒産にはある。
経営者はもちろんのこと、突然の失業に襲われる労働者にも大きな痛みを与える側面はあるが、一方で俯瞰(ふかん)すれば、日本経済を新しく、強くするための成長痛でもあるのだ。
【今年こそ賃金は上がる!!】さて、気になるのは26年のわれわれの賃金だ。まずは坂田氏に、人手不足事情の予測をしてもらった。
「昨年1年間の人手不足倒産は、400件程度とみています。そして今年は、景気後退などのリスク要因がないという前提で、ざっくり20~50件程度の増加を予想します。人件費の高騰と転職の増加は続くでしょう」
これを受けて、26年の賃金はどう動くのか。浜銀総合研究所上席主任研究員の遠藤裕基(ゆうき)氏に予測してもらった。まずは25年の総括から。

2025年の春闘では、大企業を中心にベースアップが進み、平均賃上げ率は5%台と高水準を達成した
「物価変動を考慮しない、額面ベースの名目賃金は全体的に上がったものの、生活実感の面では、食料の価格上昇が長引いたことが響きました」
特にコメの価格が上がった影響が大きかった、と遠藤氏は言う。ではズバリ、今年こそ実質賃金はプラスになりますか?
「切り分けて考えたいのは、人手不足倒産増=賃金上昇ではないということ。ただ、それはそれとして26年は、実質賃金はプラスに転じるだろうと考えています。
まず、人手不足倒産が非常に増えているのは確か。とはいえこの現象が賃金上昇に直結するかというと、そこまでのボリューム感ではないと思います。
というのも、人手不足倒産は、人手不足を象徴するエピソードではありますが、通年での全体の倒産件数1万件の中ではまだごくわずかだから。この先も人手不足倒産の増加が続き、それが一定の圧力になるとは思いますが、より強く実質賃金を左右する要因は別にあります。それが物価上昇の鈍化です」
その理由として、遠藤氏は暫定税率廃止によるガソリン価格の低下と、電気・ガス料金への補助を挙げる。
これによって物価上昇率が2%程度に落ち着くと見込まれ、同時に昨年同様の名目賃金上昇率2.5%が実現すれば、差し引きで実質賃金は0.5%のプラスに浮上!というのが、遠藤氏の想定するシナリオだ。
「春くらいに光熱費やガソリン代が下がったと実感できれば、生活実感的にもひと息つけるかなと。賃上げは引き続き大企業のほうが景気は良さそうですが、人手不足の最前線で中小企業もかなり頑張っているので、期待したいところです」
26年は、ここ数年のガマンがようやく報われる年になるということだ。これは朗報! 最後に、人手不足の時代にわれわれはどうサバイブしていくべきなのか。坂本氏に総括してもらおう。
「企業は人がいなければ操業できませんから、待遇を改善させる圧力が常にかかります。裏返せば、労働者の資産である労働力を、より高く売れる時代が来ているということです」
特に、体を使って働くエッセンシャルワーカーと事務職との賃金格差は、今後縮小に向かうと坂本氏は強調する。
「人手不足にある程度めどがつくまで、エッセンシャルワーカーの賃金が大きく上昇し、人手が余っている分野から人材が移動してくるでしょう。労働者にとっては、より待遇の良い仕事が見つかる機会が拡大していくわけです。年齢や状況によりますが、転職を視野に入れて動いていくのもよいと思います」
今年は労働市場にとって、分岐点となりそう。今まで以上に変化を敏感に察知し、ウマく立ち回るべし!
取材・文/日野秀規 写真/時事通信社 iStock
記事提供元:週プレNEWS
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