アーティストを応援するには「CD」を買うべきか?「広告付きストリーミング配信」の問題点
イチオシスト

「大好きなアーティストを応援したい」。そう思ったとき、かつてであれば迷わずCDショップへ走り、新譜を予約し、発売日にはCDを手に入れるのが正解でした。
しかし、サブスクリプション(定額制音楽配信)が全盛となった今、音楽を楽しみ、そして収益をアーティストに還元する手段は急激に複雑化しています。
たとえば好きなアーティストのMVを毎日欠かさずYouTubeで視聴する行為は、そのアーティストのビルボードチャートでの上位進出などに大きく貢献する行為だと言えるのでしょうか。その貢献度が小さいならば、やはり好きなアーティストを応援するには引き続きCDを買うべきなのでしょうか。
米ビルボードへのYouTubeデータ提供が停止へ

これまで、YouTubeでの再生回数に代表される「広告付きストリーミング配信」はチャートにおいて一定の影響力を持っていました。たとえば米ビルボードやビルボードジャパンはCDの売り上げ枚数やダウンロード数、ストリーミング再生回数を集計し、非公開のアルゴリズムに基づいて集計し、チャートを公開しています。
このアルゴリズムに近年、大きな変化が現れているのです。米ビルボードは、チャートの設計において「所有(CD購入やダウンロード)」と「接触(ストリーミング)」のバランスを模索し続けてきましたが、最近になり、「広告付きストリーミング配信(無料聴取)」のポイント比重を引き下げる措置を取っています。
2025年12月17日(現地時間)YouTubeは、米ビルボードの音楽チャートに対する再生データの提供を終了することを発表。これについてはビルボード側も算出基準の正当性を強調するなど反論していますが、YouTube側が独自の「YouTube Charts」を提供していることもあり、影響は米国内にとどまらずビルボードジャパンにも及ぶ可能性があります。
つまり今後はYouTubeの公式MVの再生回数をいくら回しても、ビルボードチャート算出にまったく影響がなくなってしまう可能性があります。「お金を払って聴く1回と、無料で流れてくる1回の価値を同等に扱うべきではない」という考え方が、少なくともビルボードでは強まっていると考えられます。
ストリーミングがもたらした「ヒット曲の固着化」

米ビルボードはアルゴリズム変更の理由を「消費者行動の変化とストリーミング業界における収益増加をより適切に反映するため」としています。
この「消費者行動の変化」の典型的な表れと考えられるのが、ヒット曲の固着化です。CD主体の時代、ヒット曲は「発売初週」に爆発的な数字を叩き出し、翌週には順位を下げていくのが常でした。しかし、ストリーミングは違います。一度ユーザーのプレイリストや「お気に入り」に入り込むと、その曲は何カ月、時には何年も聴かれ続けます。
その象徴的な例が、ロックバンド・Mrs. GREEN APPLEです。彼らの楽曲はストリーミングサービスで圧倒的な支持を得ており、新曲だけでなく過去の楽曲も含めて、長期間にわたりチャートの上位を独占し続けています。
たとえば2024年4月にリリースされた『ライラック』は初登場こそBillboard Japan Hot 100で11位だったものの、チャートイン14週目となる7月にして初の単独首位獲得。そこから14週連続で首位を記録しました。
さらに2025年1月にリリースされた『ダーリン』は初登場2位で、その後通算22週トップ10入りし、2025年年間チャートで2位になっています。
この状況はチャート全体という視点で見ると、「新陳代謝の低下」という深刻なデメリットがあるとも言えます。既存の有力アーティスト(すでに多くのファンを抱え、プレイリストに定着しているアーティスト)は、ストリーミングというシステムによってその地位をより盤石にし、一方で新人や中堅アーティストは、その厚い壁を突破するのが極めて困難になっています。
「ストリーミングなら気軽に曲を聴いてくれるユーザーが多いのだから、若手バンドやアイドルにとってはチャンスが広がるであろう」というのはいわば絵に描いた餅に過ぎず、アルゴリズムと聴取習慣が「勝者をより勝者にする」構造を作り出しているのが残酷な音楽業界の構図でもあるのです。
そもそもCDを買うべきなのか?
では、ストリーミングで勝てないなら、原点回帰で「CDを買えばいい」のでしょうか? しかし「CDを作っても、もう儲からないかもしれない」というのも、音楽業界のもう一つの現実です。
昨今は原材料費の高騰や物流コストの上昇、CDプレス費用の増加が重なっています。CDを豪華なパッケージにすればするほどコストはかさみ、かといって価格を上げすぎればファンは離れてしまう。特典商法で枚数を売ったとしても、その裏でかかる労力と経費を差し引くと、手元に残る利益は私たちが想像しているよりも遥かに少ない可能性があります。

たとえばミュージシャンの中島卓偉さんは2025年10月22日に発売した自身のリテイクアルバムについて、発売に先立つ9月10日、Xで、「THIS IS LAST CD」と説明。その真意について、「これだけCDで採算が取れない時代、今後は配信とレコードを予定しています」と説明。さらに「レコードが伸びなければもうリリースすら出来ないかもしれません」と音楽シーンへの危機感も滲ませていました。
もちろんチャート対策としての「CD売上枚数」は依然として強力な指標ですが、純粋な「金銭的還元」という意味では、CDもまた必ずしも魅力的な選択肢とは言えないのかもしれません。
結局、アーティストを応援するには「CD」を買うべきか
厳しい現実として、その再生数がチャート上位に食い込むほどの規模(数百万回、数千万回)にならないのであれば、配信だけでアーティストが食べていくのは困難です。
少なくともそのアーティストがCDリリースをしておらず、配信限定リリースを中心としている場合、できるだけ「広告付き無料ストリーミング」ではなく「有料配信」で作品を聴くことをおすすめします。
またCDは90年代や00年代のような利益構造は崩れているものの、単価が高く、なおかつチャートでのブースト効果があることも事実です。そのためアーティストを応援するには「CDを買う」のも有効です。
しかし2025年の今、音楽ビジネスは「録音物を売る」ビジネスから、「体験とブランドを売る」ビジネスへと完全にシフトしたのも、また事実です。
「お金を払って聴く1回と、無料で流れてくる1回の価値を同等に扱うべきではない」というのは実は議論の枝葉に過ぎず、そもそも音楽ビジネスが「体験とブランドを売るもの」であるなら、録音物はプロモーションツール以上でも以下でもなく、かつてほどの価値を持たなくなっているのではないでしょうか。
20世紀に愛聴されたようなアルバム作品は、21世紀の今も必要なのか──その根本が問われているのかもしれません。
※サムネイル画像(Image:Shutterstock.com)
記事提供元:スマホライフPLUS
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