“勝つため”に捨てた最大の武器 渡邉彩香が示した答え【2025年“この1シーン”】
イチオシスト
白熱のシーズンが終わった国内女子ツアー。今季全36試合を振り返り、大会ごとに印象に残った“1シーン”を紹介する。
■大東建託・いい部屋ネットレディス(7月24~27日、福岡県・ザ・クイーンズヒルゴルフクラブ、優勝:渡邉彩香)
2打差を追い、最終組の2組前からスタートした最終日。渡邉彩香は、迷いを断ち切るようにクラブを選び続けていた。飛距離を武器に戦ってきた31歳(当時)が、この日ほぼ手にしなかったのは、自身の代名詞でもあるドライバーだった。
2オンに成功した17番パー5でバーディを奪い、単独首位へ。続く18番ではピン右上2メートルにつけ、バーディで勝負を決めた。自己ベストにあと1打と迫る「64」。所属先・大東建託が主催する節目の第10回大会で、3年ぶりのツアー6勝目を手にした。
優勝会見で真っ先に口にしたのは、自身のことではなく感謝の言葉だった。
「所属契約は10年目で、大会も10回目。いいとき、悪いときの波があっても、変わらず応援してくださる方々がすごく喜んでくれて、本当にうれしい。何度も言っているけど、感謝しかない。選手として幸せです」
この日のゴルフを象徴するのは、“封印”という決断だった。4つのパー3を除く14ホールでドライバーを使ったのはわずか3回。6つのバーディを奪ったホールのティショットは、すべて3番ウッドだった。10メートルのイーグルパットを沈めた6番パー5も、選んだのは3番ウッドだった。
「正直言って、こんなゴルフをしていたら勝てないと思っていた。ここ1カ月くらいはずっと悩んでいたけど、それでもきのうが終わった時点で首位とは2打差。こんな状態でも勝てるということを、自分に分からせてあげたかった。だから、きょうはスプーン(3番ウッド)にしました」
飛ばし屋として歩んできたキャリア。その一方で、近年はドライバーの曲がり幅が制御不能に陥ることもあった。3日目までのフェアウェイキープ率は33.3%。それでも渡邉は言い切った。「勝つためにはドライバーはいらない」。
ドライバーと向き合い続けてきたからこそ、小技は磨かれた。今大会のボギーはわずか2つ。初日と最終日はボギーなし。耐えるゴルフが、勝ち切る力に変わっていた。「過去の優勝は自信満々で、不安はほとんどなかった。でも、今週は本当に自信がなかったし、勝てるとも思っていなかった。やれることを続けることが自信につながっていくのかな。この1勝は今後に生きてくると思います」。
所属大会でのホステスVはツアー史上7人目。だがこの勝利は、単なる1勝ではない。“飛ばさない選択”を受け入れた一日が、渡邉彩香のキャリアをもう一度前へ進めた。「これから自分がどこを目指していくのか、どんなプレーをしていくのかが楽しみです」。31歳の決断は、復活の序章だった。
<ゴルフ情報ALBA Net>
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