【AIvs人間 ファイナルバトル最前線!!】ゆりかごから墓場まで、仕事から犯罪まで生活の隅々に浸透中! 中国で爆速進行するAI社会実装のリアル
イチオシスト

日本の大学入学共通テストに当たる中国の「高考」。受験生、その親たちにとって大イベントとなるが、近年はAIの普及により新ルールが登場している
いよいよAI(人工知能)が社会の隅々まで実装され、"普通の人"の仕事や暮らしにまで浸透し始めた2025年。それは世の中をますます便利にする一方、速すぎる変化が戸惑いやあつれきを生んでもいる。今、それぞれの現場で何が起きている? 人々の意識はどう変わりつつある?
近年、「ディープシーク」の世界的なブレイクにより、AI大国と認知され始めた中国。新サービスが次々と登場して誰もが活用できる環境となった「AI社会実装」の実態を解説します!
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【安い! 強い! 中国のヤバいAI】中国式AI活用術がヤバい。知られざる中国式AI活用術を見ていこう。
と言われても、そもそも中国のAIのレベルってどんなもんなの?と疑問を持たれそうだ。確かに世界最高性能のAIは米国製だが、中国は第2グループの位置づけで、米国勢のリードはざっと数ヵ月程度にまで縮んでいるという。
しかも、中国AIは安い。世界を驚かせた中国発のAI「ディープシーク」は、性能では米国の最新モデルに近いレベルにあるのに、一般ユーザーは無料で使え、開発者向けの従量課金価格でもChatGPTより1桁以上安い。
そういった環境があり、中国では庶民レベルでAIが浸透している。情報漏洩やプロパガンダが気になるが、「個人的な領収書の整理やエンタメ動画制作なら中国AI使っちゃおうかな」と心引かれる世界中のユーザーも多いのだとか。
そして、AIそのものの性能以上に中国が強いのは、ハードウエアやアプリとの融合で使い勝手を激烈に向上させている点だ。
【中国のAIはスマホで使うのが基本!】中国人のAI活用術は、日本とは全然違う。日本でAIを使うと言えば、ChatGPTなどの利用を指すが、中国ではそうした利用法は少数派なのだ。
では、どうやって使うのか。ファーウェイ、シャオミなど中国の大手スマホメーカーは独自のAIアシスタントを自社製品にプリインストールしている。テキストや音声で質問したり、翻訳させたりといったチャット型AIの基本機能に加え、他社AIの機能を呼び出して使うことも可能だ。
例えば、ファーウェイのAIアシスタント「小芸」を見ると、星座占い、英語学習、数学教師、ヘルスケアアドバイス、レシピ、写真撮影で料理のカロリー計算、模擬面接......などなど、機能特化型のAIがずらりと表示される。
中には老人介護マニュアルや子育て指南、職場の人間関係アドバイスなども。そして、あのディープシークも小芸の中で使えてしまう。なので、わざわざネイティブAIアプリを入れる必要がない。AIを意識せずに、スマホから自然に活用しまくっているのが中国人たちの現状だ。

独自のAIアシスタントを搭載するファーウェイ製のPuraシリーズ

リアルタイム翻訳では日本語を音声で聞き取って、しっかりと中国語テキストに変換。ほかにも例えば、数式を動画で撮影すれば答えが出る「解答確認AI」機能も搭載。GoogleのGeminiも同様の機能があるが、中国では使い勝手を重視した専門ツールなのがポイントだ
誰でも簡単に即使えるという特徴がある一方で、問題も発生している。中国ではAIの教育分野への進出がすさまじく、テストの問題をカメラで読み込ませると、解答を生成し解説までしてくれる「解答確認AI」が学生やその親に定番化。
これを使ったカンニング事件が多発しており、中国の大学入学共通テストである「高考」の期間中はカンニング防止策として解答確認AIを停止するという新ルールも登場しているのだ。
現在、中国のAIアシスタントは、ネットと接続して動かすのが基本。しかし、今後はネット接続不要のオンデバイス化を目指している。そうなると、また新たなカンニング防止ルールが必要となるだろう。
中国政府は、今年8月に発表した「『AI+』アクションの実施・深化に関する意見」で、AI機能を拡充した新世代スマートデバイスの普及率を2027年までに70%、30年までに90%超に引き上げる目標を打ち出した。
「スマホさえあればなんでもできる」で知られる、世界一のモバイル大国・中国だが、あと数年で「スマホAIがなんでもやってくれる」社会へと変貌しそうだ。
【バイト、医療、旅行もAIにお任せ!】諸外国では〝AIに課金して◯◯をする〟のが定番。一方、中国では一般的なユーザーが〝AIで稼ぐ〟という流れになっている。現在、若者に人気なのが、複数のAIを組み合わせ、自動で動画を作れるAIエージェントだ。
中でも、TikTokを運営するバイトダンスの「小雲雀」はリリース以来、ユーザーを増やしている。中国では日本のアフィリエイト広告のように、SNSにオリジナルの動画広告を投稿して小銭稼ぎをするユーザーが多いが、小雲雀はその広告投稿を、ほぼ自動化してしまったのだ。
例えば、写真を1、2枚アップして、後はプロンプトを入力するぐらいで、バズっている人気の広告動画と似た動画をすぐに作ってくれる。
運営側も「今流行している動画はこれ! このプロンプトで作れます。あなたは写真1枚だけアップすればすぐにお小遣いを稼げます!」とアピールするほど。
日本でいうスキマバイト的なポジションにAIが進出し、徹底的に参入ハードルを下げているのが、いかにも中国的だ。
また、若者だけでなく高齢者もAIを活用しているのも中国の特徴。現在、大ヒット中なのが中国の人民的コード決済・アリペイを運営するアント・グループの医療アドバイスAI「AQ」だ。
ケガした部分の画像をアップロードしたり、体調不良の内容をチャットで入力すると、「今は様子見です」「すぐ病院で検査を!」とアドバイスをしてくれる。そればかりか、近所の病院を探して予約までやってくれるというワンストップサービスだ。
中国ではチャットや電話で人間の医師に相談できるサービスが普及しているが、これに課金しても結局「取りあえず様子見」か「念のために病院で検査を受けて」の2択。だったらタダで相談できるAIのほうがいいわ、と人気になったのだ。

(左)医療系AI「AQ」。画像やテキストでの症状の相談、医療機関の予約も可能。(中)TikTokを運営するバイトダンスの新AI「小雲雀」。テキストのプロンプトから商品紹介動画や解説系動画を作成できる、小銭稼ぎに大人気のAI。(右)中国ではユーザー数でディープシーク超えを果たしたチャット型生成AI「豆包(ドウバオ)」。グローバル版「Dola」は日本でも利用できる
そして、ECでのショッピングや投資にもAIが浸透してきている。
現在、中国ではAIアシスタント以上に、「AI組み込み型スマホアプリ」が普及している。これは既存のアプリにAI機能を組み込んだものを意味するが、ECアプリのタオバオには買い物支援AI、文字入力ソフトには執筆支援AI、決済アプリのアリペイには投資指南AI、旅行予約アプリのトリップドットコムには旅行プラン作成支援AI、チャットアプリのウィーチャットには情報要約AI......といった具合に、ユーザー数の多い有力アプリには軒並みAI機能が実装済み。
中国製以外でもアドビ製品などオプション料金を払うとAI機能が使えるアプリはあるが、中国ではオール無料なのが基本。爆発的に普及するのも当然だ。IT系調査会社のクエストモバイルによると、組み込み型アプリからAIを活用しているユーザーは7億600万人で一番多い利用法だ。
残念ながらこの手の中国アプリは日本で使えないものが多いが、トリップドットコムのAI「TripGenie」は試せる。リリース当初はかなりの残念仕様だったが、だいぶ性能が上がってきた。
ChatGPTと地図と旅行予約サイトを同時に見ながら旅行計画を考えるよりも、予約アプリに組み込まれているAIに質問するほうが楽ちんだ。AI組み込み型アプリ、日本でももっと広まってほしい。
【詐欺や闇金もAIで超強化!】もっともAIをガンガン導入しまくる中国だけに、負の側面も広がっている。
例えば、AIによるギグワーカーの労働管理。フードデリバリーやライドシェアはその仕事っぷりをAIに常時監視されるのが当たり前。「今まではこの距離は30分で運ぶようにしていたが、28分でも可能」とAIが判定した場合、その時間をオーバーすれば低評価となり、収入も減る。ギグワーカーの仕事環境はより厳しくなっているのだ。
オフィスワーカーも例外ではない。デスクに設置されるAI監視カメラが「離席が15分ありました」とカウント。離席時間は査定に響くこともあり、たばこ休憩もままならない。人間の上司なら「離席が多くても、あいつはムードメーカーだから」という温情査定もあるが、〝AI上司〟には通用しない。
詐欺のレベルアップも社会問題となっている。日本だと、有名人のフェイク動画を使って「この商品に投資すれば、月に200万円儲かります」などと不特定多数を勧誘するのが主流だが、中国ではターゲットを絞り込んだ〝パーソナライズ型の犯罪〟が主流だ。
11月に発覚した上海市の投資詐欺はその典型だ。「先着順!! 必ず儲かる新規上場株が購入できます!」というありふれたうたい文句の投資詐欺なのだが、ターゲットを信じ込ませるためにAIがフル活用されていた。
まず、ターゲットをメンバー数100人超のチャットグループに誘導するが、ここに登場する〝投資の達人〟や〝達人に指南されて大儲けしたユーザー〟など、すべてがAIに生成されたフェイクユーザーだったのだ。投資額は日本円で200万円程度と、中国の投資詐欺としては少額だが、こういった手口が日本で連発されると脅威となるだろう。
ちなみに、この事件ではだまされた人が間一髪で被害を免れた。ATMからまとまった金を送金しようとしたところ、銀行の詐欺警戒AIシステムが作動し、付近の警官が駆けつけてきたのだ。詐欺犯も当局もAIを駆使している。
一方で、実際に被害が出たケースも多い。昨年の香港では約40億円もの巨額被害が話題となった。経理担当の社員に40億円を送金するよう指示するメールが来たのだが、さすがに怪しんで、上司にビデオ会議で確認した。ところが詐欺師はリアルタイムの顔書き換えAIを使って上司に成り済まして、社員を信じ込ませたという。
実在する人物を基に、AIで生成した偽の性的動画=フェイクポルノ動画が世界的に問題となっている中、【フェイクポルノ動画+闇金】という悪魔的融合も登場している。
中国では女性に全裸写真や動画を提供させ、それを担保として金を貸す闇金業が常態化しているが、このシステムにもフェイクポルノが導入されつつある。取りあえず身分証の顔写真さえあれば、闇金業者がそこから勝手に担保用の全裸写真や動画を生成してしまうわけだ。
というわけで、中国式AIは日常生活から仕事、そして詐欺とその対策まで、異次元の進化を続けている。今はまだ「情報漏洩怖い......」という感覚があっても、AIによる便利なサービスが上陸すれば警戒も緩む。そして日本人を狙うAI犯罪がやって来る日も近い。
取材・文/高口康太 写真/AFP/アフロ
記事提供元:週プレNEWS
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