ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京で噂のモデルに挑む! 911 GTST-Hybridの"走りの濃度"を徹底検証!!
イチオシスト

ポルシェ911史上初のハイブリッドモデルを試乗した山本氏。電動化によって、その走りはどう変わったのか?
ポルシェ911がついにハイブリッド化――。そのニュースに「らしさが失われるのでは?」と不安を抱いた人も多いはず。自動車研究家の山本シンヤ氏が試乗し、その真価を徹底レポートする!
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【電動化で走りはどう変わったのか?】
山本氏が特濃試乗を敢行したのは、千葉県木更津市にある「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」
――ポルシェ911に乗ってきたと聞きましたが、どんなモデルですか?
山本 今回はポルシェ911史上初のハイブリッドモデル、911 GTS T-Hybridに試乗しました。場所は千葉県木更津市のポルシェ・エクスペリエンスセンター東京。ハンドリングトラック、ドリフトサークル、ダイナミックエリアなど、911の性能を余すところなく体感できる施設です。
――ポルシェはすでに電動車をラインナップしていますが、911にもその流れが?
山本 半分YES、半分NOですね。今後エンジン規制はさらに厳しくなります。パフォーマンスを落とせば対応できますが、ポルシェのユーザーは納得しないでしょう。そこで今回のモデルは「電動化を活用しながら、より気持ちいいエンジン車を提案する」、それがT-Hybridのコンセプトですね。
――ハイブリッドと聞くと走りが退屈になるイメージですが、911もそうなんですか?
山本 いや、それがまったく違うんです。
――というと?
山本 一般的なハイブリッドは燃費や環境性能を重視しますが、これは〝走りを強化するための電動化〟。モーターとバッテリーは搭載していますが、主役は水平対向6気筒エンジン。ターボの能力をさらに高めるために電動化された、と理解してください。
――その仕組みを具体的に教えてください。
山本 まずエンジンは排気量を3リットルから3.6リットルに拡大。ボアを広げて高回転型にし、最高出力は485馬力、回転数は7500rpmへ。この排気量拡大は全回転域で理論空燃比燃焼を実現するためです(通常は高回転域で燃料を多く噴いて冷却に使う)。
――ターボにも秘密が?
山本 Eターボを採用しています。通常のターボは排気エネルギーで回しますが、これはモーター(最大20kW)で先に回すのでタイムラグがゼロ。スタートからすぐ過給が立ち上がります。さらに余剰エネルギーで発電し、最大11kWを回収可能です。
――ハイブリッド用のモーターはどこに?
山本 軽量コンパクトなモーター8速PDKトランスミッション内に組み込み、加速時に最大40kWを発生。動力性能と燃費性能を両立しています。バッテリーはフロントに搭載し、サイズ・重量は従来の12Vバッテリー並みに抑えています。

伝統の911らしさは一切崩さず、そこに未来を感じさせるディテールを巧みに融合。まさに進化するクラシック

911は電動化しても、獰猛さは健在。むしろ操る快感はしっかり進化。山本氏は、満面の笑みで太鼓判!
――ほお、それはスゴい! で、EV走行はいかほど?
山本 できません。軽量化を徹底し、動力を切り離すクラッチを省いているので、モーター単独では走れません。あくまでエンジンありきの電動化。だから911らしさはまったく失われていません。
――走りの違いは?
山本 正直、〝電動車感〟はゼロ。インパネのエネルギーフロー表示でやっとわかる程度。従来のエンジン車のダイレクト感はそのままに、より滑らかでレスポンシブ、そしてパワフルになっています。
――実用域では?
山本 エンジンの苦手な領域をモーターがさりげなく背中を押してくれる感覚で、トルク特性が懐深くなった印象。中~高回転は従来どおり切れ味鋭く、レッドゾーンまでスカーッと回ります。滑らかさと野性味が同居する、不思議な感覚でした。
――重量増は?
山本 約50kg増えています(試乗車はリアシート付きなのでさらに重い)が、システムを考えれば驚異的に抑えています。フットワークの差は限界走行でやっとわかるレベル。常用域では重厚感が増し、乗り味に厚みが出た印象です。
――なるほど!
山本 今回はRR(後輪駆動)と4WD両方試しましたが、切れ味と安定のバランスはRRが6対4、4WDが4対6。定常円旋回でドリフトも試しましたが、ハイブリッド化でアクセルコントロールがしやすく、一体感はそのままに扱いやすさが増しています。

最新技術でフルデジタル化されたコックピット。一方でポルシェの伝統が同居するインテリア。911らしさは健在
――デザインは?
山本 ひと目で911ですが、フロントバンパーの縦型ルーバー(装飾パーツ)が新鮮。最小限の変更で獰猛さをプラス。フルデジタルながらインテリアはクラシカルな雰囲気も残しています。
――ふむふむ。
山本 今回の電動化はネガティブ対応ではなく、「ポルシェはエンジン車を残します!」という宣言だと思います。T-Hybridはエンジンをさらに輝かせるための電動化。ポルシェは2022年にチリの合成燃料製造プロジェクト企業に出資しており、今後もエンジンの進化を続ける姿勢です。
――最後に総括を!
山本 「次はもっとすごいものを出してくる」と期待が膨らみます。GT3やRSがモーターを積むのはまだ先でしょうが、そのときポルシェはさらなる驚きを用意しているはず。「ハイブリッドの911なんて......」と思っている人ほど、ぜひ乗ってほしい。走りはむしろ濃くなっています!
写真/ポルシェジャパン
記事提供元:週プレNEWS
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