大幅値下げの「PlayStation5」は大ヒット中の「Switch2」に勝てるのか?
イチオシスト

「PlayStation5」。品薄のライバルを横目に日本版を5万5000円で発売した
任天堂の「Switch2」が世界的なヒットを記録する一方、「PlayStation5」の普及に苦戦を強いられているソニーが、ついに日本版を5万5000円という勝負の価格で発売した。
この決断の背景には、どんな逡巡や思いがあったのか? 値下げは苦肉の策なのか? それとも逆転の一手なのか? 「PS」の30年間の足跡をたどり、その背景を探っていく。
【値下げで挽回を狙う! プレステの30年史】「Nintendo Switch2」が発売されて半年たつが、話題が尽きる気配がまるでない。
11月4日に公開された任天堂の2026年3月期・第2四半期の決算資料によると、全世界販売数はハード1036万台、ソフト2062万本。うち日本はハード235万台、ソフト387万本と驚異的な普及を見せている。
しかし、この好調の裏で任天堂の利益率は低下している。売上総利益は前年同期比で805億円(25.3%)増だが、売上総利益率(売り上げに占める利益の割合)は60.8%から36.2%と24.6ポイントも落とした。
この背景には、ゲーム市場のそもそもの構造がある。ゲーム市場のビジネスモデルは、ハードを普及させるために本体利益を最小限、あるいは逆ザヤで展開し、ソフトのライセンス料でその赤字を補填するという構造だ。

大ヒット中の「Nintendo Switch2」
Switch2の本来の価格は7万円ほどとされるが、日本市場において任天堂は約2万円の為替赤字を負い、転売対策のリージョンロックを施した国内限定モデルを設計し、日本の許容限界価格とされる4万9980円に収めた。
この大きな為替赤字を負う判断の裏には、世界的なソフトメーカーが多い日本でのSwitch2の普及失敗は、世界的なゲーム市場での痛手になりうるため、絶対に避けなければならないという強い使命感がある。
一方、誕生から6年目を迎えるものの存在感が薄い「PlayStation5」(以下、PS5)。ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、11月21日に日本語専用ディスクレスモデルを税込5万5000円で発売した。これは、値上がりが続いた通常版7万9980円と比較して戦略的な価格だ。
ネットでは「Switch2の成功追随」や「奇襲」ともいわれるが、実態は異なるように思う。今年9月に『バイオハザード レクイエム』がSwitch2でも展開されると明かされ、東京ゲームショウでも評判を呼んだことへの、PS5側の強い焦りとみるべきだ。
Switch2のヒットに押され気味なPS5だが、世界のゲーム市場をここまで押し広げ、その一翼を担ってきたのもPSだ。
1990年代前半のソニーは、ウォークマンを筆頭に世界的な家電メーカーとして全盛期にあり、ゲームはまだ周辺事業に過ぎなかった。当時は「スーパーファミコン」(90年発売)向け音源チップの製造を担うなど、任天堂を技術面で支える役割も果たしていた。
そんな中、94年に発売された初代「PlayStation」(PS1)は、ソニーの久夛良木健(くたらぎ・けん)氏らが集結して完成した未来のゲーム機だった。

【1994】PlayStation(12月3日発売)当時ソニーの久夛良木健氏がリーダーとなって、東芝の半導体研究員の大橋正秀氏などあらゆる技術者が集まって開発した。ハードに特化してきたソニーは積極的なソフト開発支援策を展開し、『サルゲッチュ』などのヒットタイトルを連発した
PS1が成功したきっかけは、97年発売の『ファイナルファンタジーⅦ』といわれがちだが、実際はナムコの『リッジレーサー』『鉄拳』など、3DCGを使ったアーケードゲームの移植作だった。
97年にはコナミも『悪魔城ドラキュラX』などの大型タイトルを発表。徐々に勢いをつけていたPS1だが、日本市場におけるヒットの決定打は、2000年の『ドラゴンクエストⅦ』の発売だろう。

【1999】PocketStation(1月23日発売)シリーズ初の携帯ゲーム機。ゲームデータをセーブするメモリーカードがゲーム機になった。特に『どこでもいっしょ』は社会現象となり、主人公・トロも広く認知され、ソニーはゲームメーカーという地位を確立した
続く「PS2」は当時の次世代メディアであったDVDの再生機として、ゲームに関心が薄い層にも「ゲームも遊べるDVDプレイヤー」として幅広く普及し、ゲーム業界の覇権を握った。
この成功からPSは、マルチメディア機として、ライト層を狙った展開をしていく。しかし、この層は積極的なゲーマーではないため、ソフトメーカーはユーザーとして取り込むのに苦慮した。

【2000】PlayStation 2(3月4日発売)次世代メディアDVDを採用し、「PS1」の後方互換を備えたことで発売初日からスマッシュヒットを飛ばす。ここからソニーはゲーム機にビデオ再生機能などの付加機能をつけたマルチメディア機としての展開を進めていく

【2000】PS One(7月7日発売)幾度もモデルチェンジをした末の廉価版。別売りでドッキング可能な液晶モニターも発売した。しかし、同年3月に「PS2」を出していたので世間的には注目されなかった

【2003】PSX(12月13日発売)「PS2」にハードディスクレコーダーを搭載した「テレビ録画もできるゲーム機」。このハードからソニー製品でおなじみの「クロスメディアバー」が導入され、2015年頃までソニー製品の大半に導入されていた。録画もできるPlayStationというコンセプトは後にトルネ、ナスネへと引き継がれる
一方で任天堂は、スペック競争から脱却し「ゲーム人口の拡大」を掲げ、「DS」(04年)や「Wii」(06年)といった直感的なゲームを開発。煩雑なゲームが多いPSと差別化して市場での復活を遂げた。
この頃、「任天堂ハードは任天堂タイトルが売れやすく、PSではサードパーティタイトルが売れやすい」という傾向も定着していった。

【2004】PSP(Play Station Portable)(12月12日発売)「21世紀のウォークマン」とうたわれた「PSP」では、ゲーム、映像、音楽が取り込める光ディスクUMDを採用。Wi-Fiを用いたインターネットブラウザやオンライン対戦なども可能に

【2006】PlayStation 3(11月11日発売)当時の次世代メディアBlu-rayディスクやHDMIを採用。さらにはセルコンピューティング構想という壮大な計画を持った独自CPUを開発し、高いスペックを提供した

【2011】PlayStation Vita(12月17日発売)「PSP」の後継機として発売されたものの互換性がなく、豊富な「PSP」ソフトで遊べないという痛手に加え、「ニンテンドー3DS」の勢いやスマホゲームの普及にのまれた
「PS4」の時代に入ると、アンドリュー・ハウス氏が社長に就任し、日本から北米主導の体制へ移行していく。また、この時期には動画制作や配信の一般化で、グラフィックボードや高性能CPUが普及し、PCゲームプラットフォーム『Steam』が一般ゲーマーにも浸透したことで家庭用ゲーム機の新たなライバルとしてPCが台頭。

【2014】PlayStation 4(2月22日発売)YouTubeやTwitchへの配信機能やSNS投稿機能を実装。SNS時代に遠距離でもゲームプレイを共有するという「シェア機能」でゲームの新たなプレイスタイルを提唱した
任天堂がゲーム機での映像コンテンツ導入を絞っているのは、マルチメディア機の行き着く先がPCとの競争であることを予見していたのだろう。
「PS5」が登場するも、発売時期とコロナ禍が重なり、製造・物流が滞って慢性的な品不足に陥った。その上、世界中で同じ仕様のPS5は、円安ドル高の影響を受けて日本での価格が高騰。それでも国内では極力、為替赤字での販売を継続するも、話題がなかなかつくれないという苦しい状況が続いた。
さらに、『ホグワーツ・レガシー』のようなハイスペック機向けの最新ゲームまで、比較的性能の低い「Switch」でも遊べるようにコンバートされて販売されると、グラフィックを気にしない層にとって高額なPS5を買う理由は薄れた。PS4でも同じゲームが遊べるケースもあると、ますますPS5の必要性は生じない。

【2020】PlayStation 5(11月12日発売)基本的には「PS4」をそのまま進化させ、4K/60fpsの出力を可能にした。HDDからSSDにメモリドライブを変更したことでこれまでとは飛躍的にロード時間が短縮されたことが大きな特徴
こうした流れから現在のPS5は、Switch2はもちろん、前世代機のPS4とも競合しており、スペック競争の限界を迎えている。そんな中で『バイオハザード レクイエム』のSwitch2展開は、深刻な脅威となるわけだ。
そこでソニーは、ソフトメーカーを多く抱える日本での立ち位置を確保するため、Switch2と同じ土俵で戦う最低ラインとして5万5000円という価格を出してきた。これにより、価格で圧倒的な不利という状況は挽回できる。
とはいえ、前途多難で出口に光が見えないことには変わりない。ゲーム業界の盛り上がりには切磋琢磨する競争が不可欠だ。この〝最終防衛線の一手〟から、次につながる一手を期待したい。
●畑 史進(はた・ふみのぶ)
1989年生まれ。ウェブメディア『エンタジャム』編集長。映画『スター・ウォーズ』を中心に映画、ゲーム、アニメのコラムを書いている
文・写真提供/畑 史進 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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