作品のクレジットに山田氏の名前がないのは、“企画屋”としての矜持がそうさせたのだ！──【あの懐かしの映画を語ろう】第6回「木村家の人びと」後編

映画を創った人だけが知っている物語がある──
80年から90年代を彩った日本映画の舞台裏に迫る、「キネマ旬報」公式YouTubeチャンネルのオリジナル番組〈あの懐かしの映画を語ろう〉。第6回の後編が11月26日（水）より配信された。元にっかつプロデューサーの山田耕大氏に今回語っていただくのは、滝田洋二郎監督の「木村家の人びと」の後編。今回も一部内容を抜粋し、見どころをご紹介する。

「木村家の人びと」が無事に完成した後から後編はスタート。ここで山田氏が『いやらしい話をしていい？』と断ってからおもむろに語るのは、本作のクレジットに自分の名前を入れなかった件について。島谷氏（現・東宝会長）からも『山田さんは奥ゆかしいな、社長の鑑だな』と言われたそうだが、その内実は──本作のプロデューサーが自分の手柄にしたいが為に、山田氏を奥に押しやろうと言わば“格落ち”の〈企画協力〉という肩書で名前を載せますと打診してきたそうで、『そうであれば名前を載せてくれるな』と山田氏は反発し、クレジットに名前が入っていないと言う。企画で勝負する制作会社を率いていた、“企画屋”としての山田氏の矜持を感じるエピソードだが、『ただ実際に（スクリーンで）観ると、名前が載ってないのは寂しいもんでね、あんなに大見得切らなければよかった（笑）』と当時を振り返る。

この“事件”については、河井氏の不在も要因のひとつであったと、話題は河井真也氏に移る。本作に関わっていた河井氏だったが、大病を患い現場を離れてしまったのだ。制作会社に対して過去にも細やかな目配せをしてくれた河井氏がいたら……と語る。ただ、『映画屋ですよ、転んでもただでは起きない』と言うように、この時の入院生活が「病院へ行こう」へ繋がっていく。看護師たちに助けられた経験を自らプロットを書き、映画にしようと考えたのだ。そして、それを基に改めてプロットを一色伸幸氏が書いたのだが、これに河井氏は激怒してしまう──。

ここで「病院へ行こう」のあらすじを簡単に紹介すると、広告代理店で働く男（真田広之）が、妻の間男（大地康夫）ともめてマンションの階段から転落してしまい、脚を骨折する大怪我を負い入院となるが、何とその隣のベッドにはあの間男がいて──というコメディ仕立ての話。それを呼んだ河井氏は『俺の目の黒いうちは一色と二度と仕事しない』と大激怒。自身がお世話になった看護師への感謝や、入院生活での切実な思いを、おちゃらかした全く別の話にしまったのだから無理はない。しかし、机に叩きつけた一色氏のプロットを読んだ若いスタッフたちが、面白い面白いと口々に言うのを見て、映画化へ舵を切ることになったそうだ。

そんな「病院へ行こう」のタイトルは決めたのは山田氏。積極的に行きたいとは誰も思わない病院に、あえて“行こう”とした皮肉の効いた秀逸なタイトル。高倉健作品を多く手掛けたことでも知られる、元東映の映画プロデューサーの坂上順氏も褒めていたそうだ。本作は滝田洋二郎が監督を務めヒット、続編も製作されたのだった。

さらに、滝田洋二郎監督作の「僕らはみんな生きている」の製作現場で大金を騙し取られた話や、同氏の助監督時代の有名な強烈エピソード、また香港の超大物プロデューサーのチャイ・ラン氏（90年代の人気TV番組『料理の鉄人』の審査員としても知られる）とのエピソードなどが語られる。今回も際どい話が満載の本編をぜひお楽しみください！

文・制作＝キネマ旬報社