『キン肉マン』大好き作家・燃え殻×爪切男の先月の肉トーク!! vol.51【コミックス派はネタバレ要注意!】
イチオシスト

『キン肉マン』大好き作家・燃え殻さんと爪切男さんが10月の連載を激論!
『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが9月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
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―今回の「先月の肉トーク」テーマ―
第508話 ネオ・テキサスブロンコ!!の巻(10月6日更新分)
第509話 術中にハマる彫師!!の巻(10月20日更新分)
第510話 大木にとまる蝉!!の巻(10月27日更新分)
あらすじ
世界同時五大刻(ごたいこく)決戦、最終戦はテリーマンVSエンデマン。マッスル・ブラザーズⅢの活躍で2勝2敗の五分に星を戻したザ・マン陣営。お互い勝ち越しのかかった大事な一戦。自ら封印の鍵になったジェロニモのためにも...と意気上がるテリーマン。その気概をエンデマンにぶつけ続けた結果、エンデマンの体に変化が......
爪切男(以下、爪) 本題に入る前に、嶋田先生の話題を。先生、柔術の試合、初勝利しましたね(※11月3日【月・祝】横浜武道館武道場で開催された『DEVILOCK CUP 2025』の、マスター7白帯フェザー級で準優勝)。
燃え殻(以下、燃) ねえ? でも、そのあと入院して手術されたんだよね(※腰椎脊柱管狭窄症のため、11月13日に入院、16日に退院)。
爪 準優勝する前には、極められてもタップしないで、そのまま絞め落とされているし。
燃 心配すぎるよ。この間、僕のラジオに出てもらった時も、「本当に気をつけてください、ケガをするとまわりもみんなも心配しますよ」って言ったら、「いや、大丈夫だよ!」って。
爪 関係者もファンも含めて、先生の取り組みに複雑な思いを抱いている人もいるのかな......。
燃 不安は不安ですよね......。 でも準優勝を知って、Xで「おめでとうございます」って送ったら、「燃え殻さんも柔術やろうよ!」って返ってきて、そこはもう...、ね(笑)。
爪 でも、今のテリーマンの展開......義足で闘っているところとか、嶋田先生自身も腰やひざなど満身創痍である状況を投影しているところもあるのかも。
燃 ああ、そうか。確かにテリーマン的かも。だから先生も筆が走るというか、熱が入っているところもあるんだろうね。
爪 あと、テリーマンの闘いを観ていると、ちゃんとアップデートされていますよね。
燃 そう。前回のこの対談では、王道の昭和プロレスだと言ったけど、それだけではない。第508話で、エンデマンにカーフキックを入れまくるのとか。
爪 最新の総合格闘技の技を、テリーマンが使っている。テリーマンが蹴り中心で試合を組み立てるのはめずらしい、それができるようになったのはキン骨マンのおかげだ、と、彼にスポットを当てるのも、いい展開です。
燃 うん、いいね。
爪 その闘いを、キン骨マンとイワオが、正座して泣きながら観ているのも、なんかもう、この両者の因縁が長すぎて。
燃 キン骨マンがテリーの足を撃ったのは、第3巻のエピソードだから、1980年ぐらいでしょ。45年前だよ、もう。
爪 それが今になって許されることになるとはねえ。
【テリーマンの義足にこだわった理由】燃 『キン肉マン』の歴史の中で、いろんな出来事が起きてきたけど、あれに関してはものすごい大事件になったよね。他にも、ものすごいことがいっぱい起きてきたのに、キン骨マンの銃と、ウォーズマンがラーメンマンにくらわせたスクリュー・ドライバーは、永遠になかったことにならない。
爪 どちらも、すごい後遺症残ったからなあ。
燃 なかったことになることと、そうでないことが、『キン肉マン』の歴史の中にある。その2大「なかったことにならないやつ」だね。
爪 テリーマンはずっと長い間、左足のジレンマを抱えながら闘ってきたんだな。超人タッグも王位継承戦も、全部キン骨マン以前の義足で闘ってきたんだから。そこで恨み言を言わないというのも、テリーの優しさなんでしょうね。
![キン骨マン製作以前の義足はテリーマン牧場の馬の蹄鉄師・バックランド爺によるもので、こちらはこちらで思い入れのあるストーリーが詰まっている(『読切傑作選2011-2014「ザ・マシンガンズ空白の三日間 [後編]伝説の始まり!!の巻」』より)](https://ix.aacdn.jp/ichioshi/cp_articles/img/ZCsq_S-bdI/content_3_20251124000028.png)
キン骨マン製作以前の義足はテリーマン牧場の馬の蹄鉄師・バックランド爺によるもので、こちらはこちらで思い入れのあるストーリーが詰まっている(『読切傑作選2011-2014「ザ・マシンガンズ空白の三日間 [後編]伝説の始まり!!の巻」』より)
燃 うん......先生は、この件に関しては、なんでこだわったんだろうね?
爪 なかったことにする方向にもできましたよね。
燃 ねえ? でもそうしなかった、っていうことは、テリーマンはこのほうがいい、という考えが、先生にはあったんだろうね。
全員が、超人という名のもとになんでもできちゃうのではなくて、その中にハンディキャップを負っている超人もいる。っていうのを、あの段階で物語に入れたかったのかな。
爪 テリーマンにはずっとそれを課す、というのをね。
燃 結果それが、テリーマンというキャラクターを際立たせて、物語に厚みが出たんだけど。で、テリーマン、圧倒的なフィニッシュホールドがあるわけではないじゃない? ブレーンバスター、テキサス・クローバーホールド、あとカーフ・ブランディング。
爪 うん。一撃必殺はない。だから、当時ファミコンの「キン肉マン マッスルタッグマッチ」をやるときなんかは......。
燃 (笑)。ああ、そうそう!
爪 キン肉マンはキン肉バスター、バッファローマンはハリケーン・ミキサーだけど、テリーマンはブルドッキングヘッドロックだった(笑)。普通のプロレス技。
燃 フィニッシュホールドがないまま、ずっと続けていけたのが、すごいなって思った。そのアクセントとして、左足が義足っていうのをずっと捨てなかったし......、さらに、手負いにして、フィニッシュホールドもない、というのがおもしろい。この技が出たから試合が終わる、みたいなのがない。
爪 粘っこいし、頭を使うしね。
燃 相手の超人の技を受けまくる、相手の良さを出しまくるキャラクターだし。
爪 プロレスラーの大事な能力ですよね。
【テリーマンで見る昭和、平成、令和】燃 テリーマンって、昔から子供たちに人気じゃない?
爪 最初のキャラクター人気投票の1位でしたよね。

1980年に行なわれた第1回のキャラクター人気投票は、「人気超人」と「悪役超人」に分かれており、「人気超人」部門でテリーマンが1位となった(JC6巻より)
燃 なんだけど、子供たちにウケる要因がわかりやすいわけではないんだよね。
爪 そうなんですよね。だから、見た目とかよりもエピソードで人気なんじゃないかな。
燃 ああ、そうか!
爪 小犬を助けるために新幹線を止めたとか。自分の身代わりで死んだプリンス・カメハメからマスクを託され、2代目キン肉マングレートを引き継いで...。
燃 献身的に闘うとかね。あとシューズのひもが切れるとか(笑)、そういう物語性で人気を得るっていう、他にいないキャラクター。
爪 で、第508話の最後で、テリーマンのパンチで身体が削られたエンデマンが、筋骨隆々の姿になる。こういうキャラだったんだ、ってびっくりしましたね。
燃 クリスタルマンみたいな超人かと思ったら、筋肉モリモリでした、という。
爪 しかもその身体が、テリーマンが密かに思い焦がれる、最も美しい超人像を具現化した姿、というね。でも、すごいデカブツなのに、試合自体はすごいクラシカルなプロレスなんですよね。サブミッション、ブレーンバスター、スピニング・トゥホールド。一番漫画っぽいでかいキャラなのに、一番オーソドックスなプロレスをやっている。
燃 かつ、デカいのに異様に俊敏であることが、第510話でわかる。
爪 で、ブレーンバスターの進化形みたいな「ローリングブレーンクラッシュ」で石のリングに串刺しにされ、ラストページで「ナチュラル・ボーンスクラップ」を極められる。やっぱりテリーマン、やられるの、似合うよな。
燃 確かにそうね。あと、額から血が流れるのも、テリーマンって感じがして、いいよね。現代の格闘技の技であるカーフキックを入れているのに、額から出血という昭和プロレスの要素も合体している。昭和から令和まで連載している意味が、ここにもあるよね。
爪 (笑)。でも確かに、今のプロレスって、流血試合になること、ないですもんね。デスマッチでは血が流れるけど、それ以外ではめったにお目にかかれない。
燃 昔は当たり前だったのにね。時代に合わせてそうなったんだろうね。
爪 ここからどうやって試合をひっくり返すんでしょうね。
燃 読者としては、7人の悪魔超人編でのザ・魔雲天(マウンテン)戦と同じで、巨大超人をどうやってテリーマンが倒すのか、という興味の持ち方じゃない?

爪 うん。でもエンデマンは、こうやって身体が削られていくっていう特性を、一回読者に知られちゃうと、次戦以降どうやって出すかが難しいですよね。
燃 ああ、ほんとだ。じゃあ、この試合を最後に、もう出てこない可能性が高い......。
爪 で、削られたあとの筋骨隆々の身体を見せて、「テリーマン、これがおまえの理想だ」と言っている、ということは、テリーマンが次の反撃で、その理想を超えてくる、っていうことですよね、きっと。
燃 なるほど、そうかも。やっぱりこの試合は、最終的にはテリーマンが勝つと思うから。どう勝つのかをみんな観たいんじゃない?
爪 テリーマンの足が万全だから、これまでのテリーマンの勝ち方とは違う何かが観られるんじゃないか......なんかでも、安心して読んじゃってるところがありますね、僕ら。最後はテリーが勝つんだろう、と思って。
燃 そうだね......あんまりいい読み方ではない気がしてきた(笑)。
爪 泥くさく勝ってほしいな。相手を粉々にするとか。完膚なきまでに粉々にしないと、超回復でもとに戻っちゃうから。
もうエンデマン、粉々になって頭だけが残って、頭だけでしゃべってほしい。で、しゃべってから、事切れてほしい。
燃 ああ、いいねえ。なると思います!(笑)。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)、『明けないで夜』(マガジンハウス)など多数の著作がある。最新著は『これはいつかのあなたとわたし』(新潮社)。群像Webでは「湯布院紀行」の漫画連載もスタート。また、『GetNavi web』にてコラム「もの語りをはじめよう」を連載中。ラジオ番組 『BEFORE DAWN』(J-WAVE、毎週火曜26:30~27:00)もチェック
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。『きょうも延長ナリ』(扶桑社)美容と健康にまつわるエッセイ『午前三時の化粧水』も発売中。ドライバーWebで『横顔を眺めながら ~爪 切男の助手席ドライブ漂流~』を連載中。主演:木村昴でのドラマ放送でも話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』が文庫化。最新著は、『愛がボロボロ』(中央公論社)
取材・文/兵庫慎司 ©ゆでたまご/集英社 取材協力/Bar HIDE
記事提供元:週プレNEWS
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