【永久無料化】Canvaに統合された『Affinity』があれば脱Adobeできる?できること・できないこと
イチオシスト
2025年10月31日、オンラインデザインツール大手Canvaが、プロ向けデザインソフトウェア『Affinity』スイートの永久無料化を発表しました。これまで高機能ながら手頃な買い切り価格で人気を博してきたAffinityが、Canvaアカウントを持つだけで誰でも無償で利用できるようになったのです。
この発表を受け、「ついに高額なAdobeのサブスクリプションから解放されるときが来たのか」と「脱Adobe」への期待を抱いた方も多いでしょう。実際、Affinityの無料化を受けて11月4日にはAdobe CCの「解約祭り」も発生しました。
この記事では、この新しいAffinityが本当にAdobe製品の代替となり得るのか、そのポテンシャルを詳しく掘り下げていきます。

Affinityとは?3つのアプリが1つになった統合クリエイティブツール

今回のアップデートで最も大きな変更点は、これまで「Affinity Photo」「Affinity Designer」「Affinity Publisher」という3つの独立したアプリケーションとして提供されてきた機能が、1つの統合アプリに集約された点です。

例えば、あるプロジェクトでロゴを作成(Designerの領域)し、そのロゴを使ってチラシをレイアウト(Publisherの領域)、さらに使用する写真を補正(Photoの領域)するといった一連の流れが、すべて同じワークスペース内で完結します。
Canvaとの連携の強化

これまで、多くの制作現場では以下のような分断がありました。
・企画担当者: Canvaを使い、豊富なテンプレートで企画の草案やデザインのモックアップを素早く作成。
・デザイナー: その草案を画像として受け取り、IllustratorやPhotoshopでゼロからデザインを再構築。細部の作り込みを行う。
このプロセスには、「データの受け渡しで編集情報が失われる」「軽微なテキスト修正でもデザイナーの手を借りる必要がある」といった非効率が常に付きまといました。AffinityがCanvaに統合されたことで、こうしたデータ受け渡し時の編集不可問題が、大きく解消されました。
そのため以下のようなワークフローを組むことができるようになるのです。

またCanvaは「Magic Studio」に代表されるAI機能を次々とリリースしています。
このAIが生み出した素材やレイアウトを、Affinityでさらに人間ならではの感性や技術で磨き上げる、という使い方が可能になります。例えば、「CanvaのAIで生成したイラストの雰囲気を、Affinityのブラシツールでより手書き感のあるタッチに仕上げる」といった、AIとプロの技術の相乗効果が期待できます。なお、Affinity内でCanvaのAI機能を利用するには、Canva Proアカウントが必要です。
Affinityで「できること」
具体的にAffinityでできることをご紹介します。
写真編集(Adobe Photoshop相当の機能)

Affinityの「Photo」領域は、プロの写真家も満足させる高度な写真編集機能を提供します。RAW現像はもちろん、露出補正、レタッチ、複数の写真を合成するコンポジット作業など、Photoshopで可能な作業のほとんどをカバーしています。
ベクターデザイン(Adobe Illustratorに近い機能)

「Designer」領域では、Illustratorと同様のベクター編集が行えます。Affinityの特筆すべき点は、ベクターとピクセル(ラスタ形式)の編集モードをシームレスに切り替えられること。ロゴやアイコン、ポスター、名刺といった、解像度に依存しないグラフィックデザインに最適です。
DTP・レイアウト(Adobe InDesignに匹敵するレイアウト機能)

「Publisher」領域は、複数ページの冊子やパンフレット、雑誌のレイアウトといった、DTP(Desktop Publishing)作業が可能です。テキストフレームの制御、段組み、マスターページ、ページ番号の自動挿入など、InDesignが持つ本格的な組版ツールが揃っており、印刷会社にそのまま入稿できる高品質なデータを作成可能です。
【弱点】貧弱な日本語組版機能
Affinityは多くの点でAdobe製品に比肩する能力を持ちますが、特に日本のクリエイターにとって見過ごせない「できないこと」も存在します。最大の弱点は日本語のタイポグラフィ関連機能の貧弱さです。
日本語の書籍や雑誌デザインでは必須とも言える縦書き、ルビ(ふりがな)、圏点(文字の脇に打つ点)といった機能に、Affinityは対応していません。
Adobe製品に搭載されている「メトリクス」や「オプティカルカーニング」のように、フォントが持つ情報や文字の形状を解析して自動で文字間を調整してくれる機能がAffinityにはありません。このため、美しい文字組を実現するには、一文字ずつ手作業でカーニング(文字詰め)を行うという、非常に手間のかかる作業が必要になります。
AdobeとGoogleが共同開発したオープンソースフォント「源ノ明朝」「源ノ角ゴシック」をベースに、有志によってAffinity上でOpenType機能が有効になるよう改変が加えられた「えのころ明朝・角ゴシック」を用いることで、ある程度まで問題解消することは可能ですが、この方法で対応できるのは特定のフォントに限られるため、デザインの自由度がAdobe環境に比べて狭まることは認識しておく必要があります。
総じてCanvaに統合された『Affinity』は、写真のレタッチやイラスト制作がメインで、高度な文字組を必要としない人にとっては十分すぎるほどの機能を提供します。
SNS投稿用の画像やWebバナー、ブログのアイキャッチ画像など、デジタル領域での制作が中心の人も、Affinityの恩恵を最大限に受けられるでしょう。
一方で、縦書きや厳密な文字詰め、ルビといった日本語組版が必須の業務に携わる人にとって、現状のAffinityはまだ力不足です。一方、Adobe製品は厳密な日本語組版が不要なユーザーにとっては、サブスクリプションを継続するメリットが薄れつつあるという側面もあります。
※サムネイル画像は(Image:Shutterstock.com)
記事提供元:スマホライフPLUS
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