ゼロトルクは単なる流行り?それとも定着する? “Mr.トウハング”でクラブデザイナーのトゥーロンさんに聞く
イチオシスト
今年は世界のパター市場にかつてない変化が。トレンドの発進地・北米市場の2024年のパター構成比は【マレット67%:ブレード33%】だったが、今年はそれが三分。なんと【ゼロトルク39%:マレット39%:ブレード21%】になったとか。日本でも急激にゼロトルクの選択肢が増え、直近でまさかのスコッティ・キャメロンも『OC』シリーズを発表し、このカテゴリに参入してきた。
そんな中、クラブ開発のレジェンドで、テーラーメイドやキャロウェイで開発部門の上級副社長を歴任したショーン・トゥーロン氏に見解を求める機会を得た。氏は来日中で、現在はファミリービジネスとして「トゥーロンゴルフ」で高級パターを展開。ゼロトルク人気で最もダメージを受けそうなメーカーにも思えるが、このトレンドをどう見ているのか。ゼロトルクは一過性のブームに過ぎないのか?それとも、定着するのか?
■「ゼロトルクは確実に定着する」
「数十年に渡ってこの業界でクラブトレンドの移り変わりを見てきましたが、今回のロートルクパター人気は一過性のものではなく、確実に一つのカテゴリとして残ると思います。理由は、真っすぐ引いてフェース開閉を減らして打てて、難しいパターストロークの【単純化】に大きな役割をはたすから。我々はトラディショナルなスタイルの削り出しパターを中心に展開してきましたが、直近で『フォーミュラ』シリーズという3つのロートルクパターを開発し、日本でも一部の店舗で展開することにしました」(トゥーロン氏)
トゥーロン氏といえば、クラシックカー愛好家で無類のカーマニアでもある。そのフォルムをデザインに採り入れ、丸みを帯びた手に馴染む昔懐かしい形状を好む。氏の開発信条に「ゼロトルクは合わない」と思いきや、①トウハング90度(ゼロトルク)、②同45度、③センターシャフトの3種類のロートルクを用意。他社の90度と違うバリエーションを作った理由が深かった。
■「ロートルクにも種類が必要!」
「昔は、L字ブレードやキャッシュインのように、トウが真下に垂れる90度近いトウハングで開閉を操作するものから始まり、一般的なブレード型の45度のトウハングのもの、水平なフェースバランスのものと、異なるトウハングのものを自分のストロークに合わせてフェース開閉をコントロールしてきましたよね。
現在、他社のゼロトルクはトウが上向きの90度や、クルクル回るものも多いですが【他のロートルクバリエーションが必要な人もいる】と、スタジオに来る人の悩みを聞いて気づきました。私の考えでは、個々人のストロークやフィールに合うトウハングは固定すべき。少数派にもバリエーションが必要なんです」
トゥーロン氏はこれまで米国の都市をモデル名に名付け、あらゆる形状・トウハングのバリエーションを用意してきた。トラディショナルなタイプでは、キャッシュインを時計の文字盤の6時、クラシカルなL字ブレードを7時前に例えるなら、一般的なブレード型が7時半、フェースバランスが9時のトウハングとなる。
■「合うトウハングを見つけよう」
他社のゼロトルクは12時が多いため、10時半の「45度」や水平の「センターシャフト」のバリエーションを加えたそう。米国ではそもそも「トウハング」の考えが一般に浸透しており、パターメーカー各社がその角度を公開していることも背景にあるとか。
ところが、日本は真逆でトウハングを公開するのはテーラーメイドくらい。その事情を伝えると「合うトウハングが見つかれば、ゴルファーはハッピーになれるのに、なぜだろう…」と、ポツリ。時計の6~12時まで細かく種類を作り分ける氏からすれば、不思議でならないよう。
「私の会社にはフィッティングスタジオを併設していて、そこでゴルファー個々に異なるストロークやフィーリングの相性を見極めるため、トウハングは非常に役立つし、一般的な概念です。日本ではドライバーやアイアンなどが中心で、パターにおけるフィッティング環境が米国とは違うのかもしれませんね」
と、日本の事情も理解しようとするショーン氏だった。彼の2025年作は「ソフトの美学」が貫かれ、ブレードからマレットまでネック種類含めて計20機種もラインナップ。他社の数倍もの時間をかけて「ごく少数・多品種」を削り出すのは極めて非効率にも思えるが、これも「バリエーションが必要」なため。名デザイナーの手がけるパターには、我々使い手側の想像も及ばない、細かな振り感の“違い”が存在するようだ。
<ゴルフ情報ALBA Net>
記事提供元:ゴルフ情報ALBA Net
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
