【モーリー・ロバートソンの考察】自民党総裁選で誰も指摘しなかった、多くの日本人が"AI小作人"になるというリスク
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、円安の恒常化によって日本社会の「二極化」が固定化される可能性、そして多くの人々が本当に気をつけるべき「生き方のリスク」について考察する。
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円安を追い風に日本の輸出企業は潤い、株式市場も活況を呈しています。その恩恵を受けるごく一部の層は投資も消費もますます旺盛になる一方で、多くの人々は世界的な物価高と円安のダブルパンチによるエネルギーや食品の高騰に苦しんでいます。
また、海外投資家から見れば割安な不動産へも資金が流れ込んだ結果、首都圏をはじめ大都市中心部の不動産価格はどんどん上がり、家賃相場も引っ張られています。
こうした潮流に鬱屈した不満や不安を抱える人たちの矛先が、短絡的な排外主義やミソジニー(女性嫌悪)へと向かい、自分たちを代弁してくれるリーダーを待望する――そんな「八つ当たりの構図」が今、生まれているように思います。
実際には、内向きで排他的な社会ムードが、少子高齢化が進む日本の「未来の成長」を確実に阻害してしまうにもかかわらず。
例えば、くしくも今、アメリカのトランプ政権は高度人材向けビザ(H-1B)の要件を厳格化しており、従来はアメリカを目指していたインドの優秀なIT技術者らが、新たな活躍の場として日本を選ぶ余地が生まれています。排外主義的な空気がこの千載一遇のチャンスを受け入れないようなら、日本は世界的な人材獲得競争から脱落するでしょう。
あるいは、日本の右派勢力がとかく敵視する中国から来ているビジネスマンや留学生の中から、日本語も英語も流暢で、国際的なビジネスを展開できる人材が数多く生まれています。移民政策やインバウンド政策が「規制」一辺倒になると、この前向きな流れを維持・拡大できるかどうかは民間任せになり、いずれ途切れてしまう可能性もあります。
また、地方を中心に保守的な価値観はまだまだ根強く、そういった地域ほど女性の能力が生かされていないことによる機会損失に気づかない。変化を嫌う体質は、DX(デジタル化)をはじめとする社会変革に対するブレーキにもなっています。
こうして日本の国際競争力がそがれれば、日本円の価値はさらに下落していく可能性が高い。そのループが続いた先にあるのは、一部の大企業や富裕層に代表される"リッチ・ジャパン"と、物価高やインフラの老朽化に苦しむ多数の"プア・ジャパン"という二極化社会でしょう。
これはもはや先進国というより、一部に富が偏在する発展途上国のような経済構造パターンです。そんな状況下で、多くの人が無為にスマホを眺め、アルゴリズムに流されるままヘイト情報や刹那的な娯楽に「時間を溶かす」のは自傷行為というほかありません。
GAFAMのような巨大プラットフォームに支配され、知らず知らずのうちに自らの思考を明け渡し、知らず知らずのうちに搾取される。「移民が来るリスク」や「伝統的な日本が壊れるリスク」よりも、私やあなたが"AI小作人"になるリスクのほうがよほど大きいのです。
しかし、自民党総裁選での議論を見ても、必要とあれば国民に苦い薬を飲ませることができるような本当の意味での"強いリーダー"は生まれそうにありません。
そうであるなら、私たちひとりひとりが自覚的に情報と接し、"AI小作人"に陥らず、自分にとっても社会にとっても本当に必要なことを嗅ぎ分ける努力をし続けるしかないでしょう。
記事提供元:週プレNEWS
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