リム・カーワイ監督のデビュー作「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」がリマスター版で公開
大阪を拠点に香港、中国、バルカン半島など世界各地で映画を制作してきた“シネマドリフター(映画流れ者)”リム・カーワイ監督。そのデビュー作である「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」(2010)がデジタル・リマスター版となって、11月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開される。メインビジュアル、予告編、映画人たちのコメントが到着した。
10年ぶりに帰郷したア・ジェ。その存在は家族にすら忘れられ、彼を覚えているのはレストランの店主ラオ・ファンだけ。ア・ジェはラオ・ファンに連れられ、秘密の鍵を握る男に会いに行くが、殺人の濡れ衣を着せられ処刑されてしまう。
死んだはずのア・ジェは、再び街に現れる。空虚な日々を送るラオ・ファンは、過去に思いを馳せる。街で起こる奇怪な事件をきっかけに、彼らは新たな人生を手に入れられるのか──。
第1部で存在が消える恐怖を、第2部で日常からの逃避を、虚実を行き来して描き、観る者を白昼夢に引き込んでいく。
https://www.youtube.com/watch?v=4pxdvScF7g0
〈コメント〉
リム・カーワイ(「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」監督)
長編デビューから気づけば15年が経ち、この間に11本の長編映画を制作してきました。
作品ごとにテーマやスタイルはそれぞれ異なりますが、無国籍/多国籍で根無し草のような原点は、やはりこの『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』にあると思います。
これまで劇場公開の機会がなかなか得られませんでしたが、今回こうして初めて劇場で上映できることを本当に嬉しく思います。
これを機に、当時ビデオで撮影した本作の色と音を改めて調整し、デジタル・リマスター版として仕上げました。
この映画が、まだ出会ったことのない多くの方々に届くことを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。
黒沢清(映画監督) ※2011年当時に寄せられたコメント
アジアのパワーと混沌が、ヨーロピアンな深い思索をもって構築され、最後にはまるでハリウッド映画のような興奮で観客の心を釘付けにする・・・世界映画の理想的なカタチがここにある。つまりこの作者はエドワード・ヤンがやったさらにその先を提示しようとしているのだ。彼の名前はリム・カーワイ、是非とも覚えておかねばなるまい。
筒井武文(映画監督)
第1作にして、この完成度。リム・カーワイの『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』には、心底驚かされた。10年ぶりに帰郷した青年を家族をはじめ、街の誰もが覚えていない。狂っているのは、自分か、世界か。その場の関係性をワンショットで描き切る。それどころではない。世界の陰謀が明かされそうになると、それを超える不条理が見事なモノクロ画面に定着され、今度は内容を映画形式が凌駕していくことになる。15年前に撮られた傑作を遅れてきた観客として発見すること。しからば、リム・カーワイ世界の進展という追体験の愉しみが待っている。
樋口泰人(boid主宰・映画批評家)
まるで太古の昔より根を張りそこにあったのだとでも言うかのような振る舞いを見せる登場人物や街の風景に貼りついた、しかし明日はどうなるかまったくわからないといったどこか無責任で限りなく危うい浮遊感。それはおよそ0.12ミリという35ミリフィルムの薄さのもつ頼りない存在感とも言い換えられるだろう。リム・カーワイは初の長編であるデジタル作品で、その半透明の怪しい揺らめきを見事に映し出したのだ。そこでは現在が当たり前のように融解して過去や未来になだれ込み、「今ここ」という現在を形作るいくつもの地層を暴き出すだろう。フィルムの連なりとも言える、見るものすべてをそんな「映画」へと誘うミステリートレインは絶賛走行中である。荒野を走るその長い長い列車を見たら、誰もが「映画」の世界へと連れ去られるに違いない。
「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」デジタル・リマスター版
出演:大塚匡将、ゴウジー(狗子)、ホー・ウェンチャオ(何文超)
監督・脚本:リム・カーワイ
撮影:メイキン・フォン・ビンフェイ 録音:山下彩 編集:奥原浩志、Phillip Lin 美術:Amanda Weiss 音楽:Albert Yu
英題:After All These Years
2025・2010/マレーシア・中国・日本/モノクロ+カラー/DCP/ステレオ/98分
宣伝デザイン:阿部宏史 配給:Cinema Drifters 宣伝:大福
©cinemadrifters
公式サイト:https://sites.google.com/view/afteralltheseyears2025/
記事提供元:キネマ旬報WEB
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