"原題×邦題ギャップ"という名のトリックアート? 市川紗椰が洋画タイトルの裏側を読み解く
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「洋画邦題」について語る。
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少し前に、海外の楽曲に日本向けのタイトルをつけた「おもしろ洋楽邦題」について語りました。「どうしてこうなった!?」というタイトルも、今振り返ると時代の空気を真空パックしたような宝物で、おもしろいです。そこで今回は「洋画邦題」について。原題と真逆の意味にされてしまった洋画のタイトルを紹介します。それは、まるである種の〝トリックアート〟。角度によっては誤解だが、別の角度から見ると笑いが込み上げ、さらに別の角度から見るとマーケティング戦略として妙に納得してしまう。映画の中身は変わらないのに、タイトルひとつで想像が軽やかに裏切られて楽しいです。
例えば、『ゼロ・グラビティ』(2013年)。原題はただの『Gravity』です。宇宙空間で、重力そのものや重力に引き戻されることが重要なテーマだけど、『ゼロ・グラビティ』にしてしまうと「無重力」という意味に。グラビティ=重力の存在感を描くはずが、まるで宇宙体験アトラクションの宣伝文句のように。『Gravity』だけだと堅苦しく見えるという配給会社の判断だったと聞きました。
一方で、恋愛映画の『He's Just Not That Into You』(10年)は、直訳すると「彼は君にそんなに夢中じゃない」と冷静に突き放すようなニュアンスで、客観的だけどちょっと辛口なアドバイスになっています。要するに〝脈なし〟。それが日本では『そんな彼なら捨てちゃえば?』という邦題に。友達が軽く背中を押すような口語調になっていて、どちらかというと上から目線。客観的なアドバイス、どこいった! シニカルでクールな友達、どこいった。これはこれで、日本の恋愛バラエティ番組みたいでキャッチーだけど。
あとは、『007は二度死ぬ』(1967年)も真逆系ですね。原題は『You Only Live Twice』。つまり『人は二度しか生きない』。哲学的なのに、邦題は「死ぬのは2回」と死の回数をカウントし始めた。ジェームズ・ボンドは不死身のスーパーヒーローだが、さすがに2度も死ぬのは気の毒。スプラッターホラーだと思うとおもしろいですね。
真逆の意味でもなく、ただただ「!?」となるのは『Army of Darkness』(93年)。『死霊のはらわた』シリーズの第3作で、B級SFホラーコメディ。直訳すると「闇の軍勢」となりファンタジーホラー感満載ですが、日本での公開タイトルは『キャプテン・スーパーマーケット』。これでは、主人公がスーパーの店員という設定ぐらいしか映画と関係がないし、ホラーかどうかもわからない。響き的に、世界一しょぼいスーパーヒーロー(キャプテン・アメリカに助けてほしいのに、キャプテン・スーパーマーケットが来る、という展開なら見てみたい)。ちなみに、監督のサム・ライミはこの邦題を知った際、「日本人はクレイジーだ」とおもしろがったらしいです。
こうして並べると、おもしろ邦題は翻訳の失敗ではなく、むしろ文化的編集だということがよくわかります。日本のオーディエンスにわかりやすく、キャッチーに、時には売れそうに。だがその編集は、往々にして原題を逸脱する。おもしろ洋画邦題、まだまだたくさんあります! またいつか。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。J-WAVE主催の屋外イベントINSPIRE TOKYOで、担当番組『THE NICHE WORK BOOK~ニッチな学習帳~』のコラボバーガーを出しました。公式Instagram【@sayaichikawa.official】
記事提供元:週プレNEWS
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