自宅を“破壊”しても怒らなかった両親に感謝。軌道と精度を追求し続ける藤原健介の左足キックに要注目!【平畠啓史のJ3直撃インタビュー】
“J3ウォッチャー”として知られる平畠啓史さんが、気になるJ3の選手に直撃していくインタビュー連載。今回はジュビロ磐田から栃木SCへ育成型期限付き移籍中の藤原健介選手が登場。2年連続しての武者修行を選択した21歳は、果たしてどんな思いでチャレンジの道を歩んでいるのか。多彩な左足キックを持つ俊英が考える自身の成長と現在地、そしてその未来像に平畠さんが迫る。
(※取材は2025年8月5日に実施)

平畠 今年の4月に育成型期限付き移籍でジュビロ磐田から栃木SCに加入しました。昨シーズンにギラヴァンツ北九州へ移籍したときもそうでしたけど、加入してからすぐにフィットするイメージがあります。何か理由はあるんですか?
藤原 周りの人が合わせてくれる感じはありますね。あとは「この人、どういう人だろう?」って様子を見ながらやってる感じです。一緒にサッカーをすることで自然といろいろと話しますし、ボールを蹴ればどういう人かは分かりますね。
平畠 昨年は北九州にレンタル移籍して、今シーズンは磐田に戻ってから、今度は栃木SCへ期限付き移籍しました。今回の移籍に関してはどういう思いでしたか?
藤原 いろいろと考えたり、難しさがあったりはしましたが、自分の成長を第一に考えたときに試合に出られるほうがいいという判断で今回の移籍を決めました。
平畠 その中で5月3日の明治安田J3リーグ第11節の北九州戦から、ここまで1ゴール2アシストです。数字は気にするタイプですか?
藤原 そんなに気にしないので、いま言われて、「そうだったかな」と思うくらいですね。
平畠 その1得点、第14節カマタマーレ讃岐戦90+3分に決めた決勝点はとても劇的なゴールでした。
藤原 あれは得意な形でした。実は足をつりながらのシュートで、本当にギリギリでしたけど、逆に強く蹴ることなくコースを狙えたんです。
平畠 「力が抜けているからこそうまく蹴れる」みたいな話はよくありますよね。加入後初ゴールでしたし、大きかったですよね?
藤原 そうですね。当初はなかなか結果を出せず、焦りも若干あったので、ひと安心という感じでした。
平畠 年齢的には今年で22歳になる世代だと思います。自分の現状をどう捉えていますか?
藤原 もっとやらなければという思いが強いですね。世界を見ても、Jリーグでも同い年や年下の選手が結果を出しているので、そういう選手たちを越えていかなければと思っています。「まだ若いから」って思っていると遅れを取るので、焦りはあります。
平畠 年齢に甘えるところは全くないということですね。年齢で言えば、このチームには41歳の矢野貴章選手がいます。
藤原 あの方は鉄人ですね。貴章さんは浜松出身で、僕がジュビロのときに浜松で一人暮らしをしていたことがあったり、貴章さんがジュビロ相手によく点を取る印象で“ジュビロキラー”と呼ばれるような選手だったりしたので、加入してすぐあいさつに行かせてもらいました。そんな実績のある選手が練習で一番動いていますし、たぶん「120分プレーしろ」って言われてもできると思います。
平畠 90分じゃなくて120分?(笑)。でも、41歳でそれだけ動けるのはすごいですね。いまも話をされていましたが、藤原選手はジュビロのアカデミー出身ですけど、子どものときからジュビロが好きだったんですか?
藤原 そうですね。ヤマハスタジアムにも試合をよく観に行っていました。
平畠 そのときに対戦していた選手と一緒にプレーしているって、すごいことですよね。
藤原 貴章さんは本当にプロフェッショナルです。練習後のジョギングとかで静岡のことやサッカーのことを話していると、子どものころに戻ったような感じになります(笑)。
平畠 日本代表としてワールドカップにも出場して、ヨーロッパでもプレーするという経験はすごいですもんね。静岡といえば、ボランチでコンビを組んでいる青島太一選手も静岡県出身ですよね?
藤原 そうです。太一くんはエスパルス出身で、僕が高1のときの高3で試合もしているので知ってはいました。でも、話したことはなかったのでどういう人かなと思っていたら、優しくて話しやすい人でした。
平畠 栃木SCでトップチームのダービーを経験したと思いますけど、ジュビロとエスパルスはアカデミーの試合でもダービーへの意識がすごく強いですよね?
藤原 自分はU-15からジュビロのアカデミーで育ちましたけど、そのときから「エスパルスに負けてはいけない」と言われてきました。家族もみんなジュビロのファンで、“オレンジの物を身に着けてはいけない”というルールがあったくらいライバル意識はありましたね(笑)。
平畠 静岡という土地はそこがオモロイですよね。逆にエスパルスの人たちは、ジュビロに負けてはいけないという思いが強いでしょうし。静岡は高校にも強いチームがあるけど、エスパルスとの試合は全然意識が違うんですよね?
藤原 違いますね。どのチームと対戦するときも気合は入っていますけど、エスパルスとやるときは特別な感じです。だから、勝ったときの喜びも違いますし、普段とは違うプレッシャーが掛かる感じですね(笑)。
平畠 そうやって10代のときからダービーの緊張感を味わえているのは幸せですね。
藤原 それはすごくありがたいことですね。栃木SCでも栃木シティさんとのダービーを2試合経験しましたけど、本当に楽しかったです。ワクワクというか、ゾクゾクする感じが好きですね。
平畠 藤原選手の性格は全然知らなかったんですけど、ああいう緊張感は好きそうやなと思ってました(笑)。相手チームのサポーターからブーイングされたら、逆に燃えるタイプでしょ?
藤原 まさにそうですね、そういうタイプだと思います(笑)。
平畠 藤原選手にはいろいろな魅力がありますけど、プレーがちょっと強気じゃないですか。“Sっ気のあるプレー”をするというか。
藤原 普段は全然違うんですけど、サッカーになるとそうかもしれないですね。
平畠 それはどこで切り替わるんですか?
藤原 めちゃくちゃ負けず嫌いなので、サッカーだとああなってしまうんですよね(笑)。そういうプレーを出そうとしているというか、負けたくない思いが前面に出てしまう感じです。
平畠 サッカーをやっているときは興奮しているというか、楽しいという感じですか?
藤原 めちゃくちゃ楽しいですね。
平畠 その思いは子どものときから変わらず?
藤原 全然変わらないですね。試合をしているときが一番楽しいです。
平畠 ピッチ上では攻守でいろいろな面で関わると思いますけど、どういうシーンが一番充実を感じますか?
藤原 自分のパスからゴールが決まったり、相手の攻撃を自分で止めたり、チームのためになったプレーをできたときが一番うれしいですね。
平畠 キックの種類の豊富、多彩さが藤原選手の特長だと思いますけど、子どものときからかなりボールを蹴っていたんですか?
藤原 ボールはめちゃくちゃ蹴っていましたね。本田圭佑さんが南アフリカW杯で無回転キックを蹴っているのを見て、マネしたいと思ってめちゃくちゃ練習しました。毎日、学校から帰ってきてすぐに練習してました。
平畠 蹴れるようになったときは、どんな感じでした?
藤原 本当に毎日熱中して蹴っていたのでうれしかったですね。家の中でもボールを蹴って家具や食器を壊してしまうこともありましたけど、それでも怒らなかった両親に感謝です(笑)。
平畠 4号球を家の中でも蹴っていたんですか?(笑)。それを怒らなかったご両親は優しいというか、感謝ですね。
藤原 間違いないです(笑)。いまでもボールは蹴っているほうだと思いますし、毎回のように自分の思っている軌道や精度で蹴れるように追求していきたいと思っています。
平畠 藤原選手のプレーを観ていると、「そこで無回転のボールを蹴るの?」とか「柔らかいクロスかなと思っていたら無回転で入れるの?」とか、その遊び心が面白いんですよね。
藤原 遊び心もありますけど、それよりもチャレンジしているかもしれないですね。「ここでこうしたら面白いだろうな」とか、「こうしたら相手は嫌だろうな」とか。そういう感じで蹴っています。
平畠 結構、蹴るギリギリで変えたりしますか?
藤原 それはありますね。キックモーション中に状況が変わるので、直前に足首の角度で変えたり、スイングをゆっくりにしたり、フワッとした感じにしたりとか。もっともっと磨いていかなければと思っていますけど、キックには自信もこだわりもあります。
平畠 ファン・サポーターの方には、藤原選手のキックの質やボールの軌道はぜひ観てもらいたいと思っています。
藤原 ぜひ、そこはチェックしてほしいですね。

平畠 背番号で言えば、今シーズンは磐田でも栃木SCでも77番を着けています。こだわりはあるんですか?
藤原 これは大津祐樹くんの影響です。ジュビロのときに同じタイミングで大きなケガをしてしまって、リハビリを含めて一緒にいる時間が長かったこともあって、いろいろと話をしてくれました。自分にとっては初めての大ケガだったんですけど、サッカーに対するモチベーションが落ちてしまっていたときに「ここで粘れるかが治ったあとにつながるぞ」と声を掛けてくれて。そういった経緯もあって、祐樹くんから「77番はお前が着けろ」って連絡をもらって、そこから着けさせてもらっています。
平畠 大津さんのことを『アニキ』と慕っていると聞きました。
藤原 アニキですね(笑)。ちょうどスタメンで出始めて2試合目くらいのときにケガをしてしまって、メンタルは相当きつかったです。もちろん自分としては、そういう感情を出しているつもりはなかったんですけど、気付いてくれた祐樹くんが声を掛けてくれました。サッカーのこともサッカーじゃないこともいろいろと話してくれて、一緒にリハビリに取り組めたので、そこで徐々に「やらなきゃいけない」という気持ちになっていって、そこからもう祐樹くんは自分にとって“アニキ”になりました。
平畠 そういう先輩とサッカー選手として出会えるかどうかは、めちゃくちゃ大事ですよね。
藤原 本当にそうですね。ありがたいです。
平畠 栃木SCで矢野貴章選手とチームメイトになったり、磐田で大津さんと一緒に過ごしたり、そういう時間は蓄積されていきますもんね。
藤原 自分を作ってくれたというか、成長させてくれた人たちですね。
平畠 すごい出会いですね。いま21歳ですけど、この先、藤原健介という選手はどんな選手になっていこうとしているんですか?
藤原 試合の中で一番存在感のある選手になりたいです。攻守においてキーマンになるような選手ですね。
平畠 なるほど。例えば、観ている人はあまり気が付かないけど、自分の中では「このパス、ヤバくない?」みたいなプレーがあったりするじゃないですか。そういうパスを出せたときはうれしいですよね?(笑)。
藤原 分かる人には分かるような、地味だけど状況が変わるようなパスはありますよね(笑)。それはうれしいですね。
平畠 そういうプレーは試合後に選手たちで話すんですか?
藤原 言われないので自分から言います(笑)。
平畠 「あのパス、どうやった?」みたいに?(笑)
藤原 聞かれた人が「ヤバい」と言わざるを得ないような状況で。自己満足ですけど(笑)。
平畠 これからどんどん中盤を制していくような選手になっていくと思いますので、栃木SCの試合を観る方には「いまのパス、実は喜んでいるんちゃう?」というプレーを見つけてほしいです。そして、チームとしてはここから終盤戦に入っていきます。どんな戦いをしていきたいですか?
藤原 栃木ダービーで勝てたことで、チームとして上に上がっていくきっかけを作れたと思います。少し連勝すれば順位が大きく変わるリーグですし、少しでも早く上の順位にいければまだまだJ2昇格のチャンスはあると思います。そういう力をもっているチームだと思っているので、自分が引っ張っていけるように練習からやっていきたいと思います。
平畠 ここぞの場面で藤原選手のクロスから矢野貴章選手のヘディングシュートがあったらタマリませんね。
藤原 タマリませんね。
平畠 ご両親、めちゃくちゃ喜ぶんじゃないですか。
藤原 それは喜ぶと思います。栃木SCでの初めてのアシストがCKから貴章さんのゴールだったので、もう一度アシストできたらうれしいですね。
平畠 家でボールを蹴って、家具が大変なことになっていた成果が、ここで出るということですね(笑)。今日はありがとうございました!
藤原 ありがとうございました!


藤原 健介(ふじわら・けんすけ/栃木SC/MF 77)
2003年12月21日生まれ。静岡県出身。身長177cm、体重70kg。左足から繰り出される多彩なキックでゲームをコントロールするボランチ。U-15、U-18とジュビロ磐田のアカデミーで育ち、年代別の日本代表にも選出。U-18所属の高校3年時にトップチームで天皇杯3試合に出場し、4回戦ではチームをベスト8進出に導く決勝点をアシストした。翌2022年よりトップチームに昇格。2023年6月、磐田でボランチの定位置をつかみかけながら約4カ月の負傷離脱を余儀なくされたが、大津祐樹ら先輩の言葉に支えられて奮起。2024シーズンは開幕からコンスタントに出場機会を得るも、さらなる成長を期してギラヴァンツ北九州へ育成型期限付き移籍して20試合4得点と活躍。今シーズンは磐田に復帰するも公式戦出場がなく、4月に栃木SCへの武者修行を決意した。J1通算10試合0得点、J2通算8試合1得点、J3通算32試合5得点。
(※データは2025年8月14日現在)
【制作・編集:Blue Star Productions】
記事提供元:Lemino ニュース
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