優勝前夜は父娘で“深夜会談” 両親が明かす愛娘・山下美夢有の“日常”
<AIG女子オープン 最終日◇3日◇ロイヤル・ポースコールGC(ウェールズ)◇6748ヤード・パー72>
同じ週に開催された国内男子ツアー「リシャール・ミル チャリティトーナメント」に出場した弟の勝将の姿はなかったが、家族4人で、全英を制した証ともいえる優勝トロフィーとともに記念撮影をすることができた。山下美夢有は「いつも一番近くで支えてくれた」という両親、そして妹にビッグタイトルを贈った。
コーチとして二人三脚で歩んできた父・勝臣さんは、娘の勝利を見届けると笑顔。「ショットでリズムを作り、そこからパターの調子を作るというのは徹底してやっていますね」と、親子がここまで大事にしてきたことを明かす。日本とは比べ物にならない海外勢のパワーを前にしても、「精度とパッティング。日本から変えていることはないです」と、“流儀”を貫いてきた。
山下がゴルフを始めたのは5歳のころ。当時のことを、父は懐かしそうに振り返る。「僕が無理やり得意先のゴルフに連れていかれて。『絶対にゴルフはせえへん』って言ってたんやけど、どうしてもって、クラブまで用意されて連れていかれて。でも行ったら面白かった(笑)。ただ1人で行くのもなんだし、子どもを連れていって。美夢有と行ったら、大人のクラブでバンバン当てて」。こうして親子の旅が始まり、日本ツアーの女王に導き、そして今回、ビッグタイトルを手にした。
今季から米国ツアーを主戦場にする山下だが、ゴルフ面で頼りにするのは、いつも父だ。深夜だろうが、娘からの連絡が来れば、「あー、起きます、起きます」とすぐに目も覚める。「どっちかというとアメリカ時間(で過ごしてるんと)ちゃう? アメリカがメーンだと思います」と笑う。
今大会も、その“目利き”は冴えた。こんな裏話も明かす。2日目に「65」を記録し、ダントツの首位に躍り出た山下だが、3日目は「74」とスコアを落とし、2位に1打差まで詰め寄られた。その後の練習場で修正を試みるも、「スッキリしなかった」というまま、この日は宿に戻ることになる。だが、その日の深夜、娘と原因を話し合う時間がもたれた。
「夜の12時30分から、部屋であーでもないこーでもないって話をして。ただ、それでも朝の練習場で調子が戻らない。前の動画と見比べると、意識はしてるつもりだけど本人も気づかないなか頭の軸がかなり動いていた。それを調整したら急によくなったんです」。ギリギリで間に合い、最終日は強風のなかでもブレないショットを連発した。
父が技術面を支える人なら、母・有貴さんはメンタルを支える存在ともいえる。笑顔だった父とは対照的に、母はラストシーンを見届けると、涙が止まらなくなった。「ひとりで頑張ってるのを見てたので…。またひとつ思い出をもらった」。そう、しみじみと話す。
米国へ行くことを決めた娘への心配がつきないのは親心。現地ではマネージャーもつき、食事も現地シェフがいるため、そういった面では「親として安心」とも話すが、「ちょっとずつは慣れてきましたけど、最初は何時になってもいいから飛行機が着いたら連絡してねとか、そういう感じでした」というのが本音だ。
そんな母親のもとには、娘から“時間も気にせず”いつも連絡が届く。「寝起きだから、小さい声で出ると『どうした、そんな小さい声で?』って。『今、夜中の3時やで』って言ったら、『あ、そうなん?』みたいに。そのまま起きて仕事に行ってます(笑)」。ただ、そんな日常を話す母の顔はうれしそう。「ゴルフのことは主人に電話がいくけど、私にはこんなことがあったとか、こんなご飯が美味しかったとか。あとは景色の写真とか送ってくれます」。この時間は、心配も紛れるが、「早く会いたいなとか思ってます。不安ですね」という気持ちは、いつまでも消えることはないだろう。
そんな勝臣さんと有貴さんは、肌寒いウェールズで報道陣にカイロや温かいコーヒーを差し入れる気づかいの人。そういったきめ細かさは、娘のゴルフにも通じているように感じられた。
母は、娘が日本選手たちに祝福されている姿を見て、胸が熱くなった。「日本選手が残ってくれてうれしかったな~。そういう選手たちと一緒に、人としても成長してくれたらいいな」。いくつになっても、子供は子供。「次は息子(勝将)やな。息子頼むでほんまに!」と母。関西人らしさを織り込む明るさも、もちろん忘れない。
<ゴルフ情報ALBA Net>
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