選手の感動を一緒に共有できた試合、今季いくつあった?【舩越園子コラム】
世界の男子ゴルフは、7月の全英オープンで今季のメジャー4大会がすべて終了。そして、PGAツアーのレギュラーシーズンは今週のウインダム選手権をもって終了となった。今後、フェデックスカップ・ランキングの上位70名は3試合にわたるプレーオフ・シリーズへ進み、トップ70に入りそこなった選手たちは、来季のシード権獲得を目指して、熾烈な戦いに挑んでいく。
シーズンが一つの区切りを迎えた今、あらためて今季を振り返ってみると、活躍度や戦績ですぐさま名前が挙がるのは、スコッティ・シェフラーとローリー・マキロイだ。
世界ランキングでも、フェデックスカップ・ランキングでも、シェフラーが1位でマキロイが2位。シェフラーは今季は全米プロと全英オープンを制し、メジャー2勝を含む年間4勝。マキロイはマスターズ優勝を含む年間3勝を挙げている。この2人がこれほど独占的な状況にある今季は「シェフラーとマキロイの年」と言っても過言ではない。
悲願のマスターズ初制覇とキャリアグランドスラムを達成した瞬間、マキロイは18番グリーン上にうずくまるように崩れ落ち、夢の実現を噛み締めた。そんなマキロイの感動は、そのまま周囲にも伝わり、世界中の人々がマキロイと一緒に感動した。幼少時代からの夢を叶えたマキロイが、「これから達成するものは、すべてボーナスだ」と言ったことは「なるほど」と頷けた。
しかし、ランク2位で迎えるプレーオフ・シリーズ第1戦のフェデックス・セントジュード選手権の欠場を決め、彼の姿が見られなくなることは、きわめて残念である。そう言えば、マキロイは今季のシグネチャー・イベントも8試合中3試合を欠場した。
家族との時間や休養を最優先したいという選手の希望は尊重されて然るべきだが、スターの出場を切望するツアーや大会、ファンやメディアとの間のギャップは、なかなか上手く埋まらない。ランキング1位のシェフラーにいたっては、全英オープンで勝利した直後の優勝会見で「僕の最優先はゴルフではない。家族だ」「僕は次世代を担う若者たちのために、ここにいるわけではない」と言い切った。
家族のために尽くそうという父親の姿は、もちろん立派だが、彼のあのセリフを聞いた瞬間、「えっ?そうなの?」と驚かされたジュニアゴルファーは少なくなかったのではないだろうか。
シェフラーにもマキロイにも、以前は必死感が漂っていた。だが、もはや今の彼らにはガツガツしたものが感じられなくなっている。それは、彼らが偉業を達成したことへのご褒美であると同時に、昨今のゴルフ界があまりにも豊かで、彼らが恵まれた環境にあるからではないかと私は思う。
年々高額化していた賞金は、リブゴルフ対策で一気に急騰。新たなボーナス制度も創設され、以前とは比べものにならないほどの巨額がトッププレーヤーの懐に流れ込んでいる。戦う場と機会に枯渇することは決してなく、少々試合を休んだところで、上位の地位や出場資格が揺らぐこともない。
上位選手には甘く優しく、下位選手には厳しく険しい現状は、弱肉強食の世界では当然の在り方なのかもしれないが、ファンが待ち望んでいるのは、上位選手であれ下位選手であれ、プレーを通じて選手の喜怒哀楽を感じ取り、感動を共有することなのではないだろうか。
だからこそ、マキロイのマスターズ初制覇の喜びは、世界を感動させた。決してスター選手ではなかったJ,J,スポーンが、最終日に一度落ちて、そこから不死鳥のように這い上がり、ミラクルパットを沈めて勝利した全米オープンは、世界に勇気をもたらした。
そして、世界ランキング158位のクリストファー・ゴッタラップが、世界ランキング2位のマキロイを抑え込んで堂々勝利した7月のジェネシス・スコティッシュ・オープン最終日の展開は、感動のドラマだった。
驚きも涙も笑顔も、選手と一緒に共有したい。そんなファンの願いに応え続けることが、今、PGAツアーとその選手たちに最も求められているのではないか。メジャー・シーズンとレギュラーシーズンが終了した今、そんなことを考えさせられている。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA Net>
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