【さよなら自民党】参院選はただの"惨敗"ではなく「終わりの始まり」。石破首相が"花道退陣"しても「出直しすべき時期なのに、分裂が加速する可能性も」!
厳しい選挙結果にも石破首相は「比較第1党の責任」を強調。しかし自公政権は、にっちもさっちもいかない袋小路に追い込まれた
参院選で大敗し、衆参両院で過半数割れとなった自公政権。これまで「権力がある」からこそまとまってきた自民党内では今、深刻な路線対立が生じており、誰が次の総理・総裁になっても、もはや"強い自民党"は復活しそうにない。
単なる「与野党連携」や「連立の組み替え」では収まらない、政界の流動化が始まった!
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■関税合意が"花道"?7月20日午後8時に参院選の投票が締め切られ、自公政権の過半数割れが事実上決まると、自民党内では石破退陣論が渦巻いた。
選挙戦終盤の情勢調査からはやや持ち直したとはいえ、昨秋の衆院選に続く「惨敗」。それでも続投意欲を見せる石破茂首相に対して、複数の県連、党本部の青年局などが即時退陣を強硬に主張し始めた。
自民党関係者が解説する。
「自民党党則6条4項では、国会議員、各都道府県連代表の総数の半分以上が要求すれば、総裁の任期中であっても総裁選を実施できるとされている。
これまで実際に使われたことのないこの規定を発動すべく、"石破リコール"に向けた署名集めも進んでいました。その中心は、裏金問題などで厳しい処分を強いられた旧安倍派議員らです」
ところが、7月23日午前にはその空気がやや変わった。米トランプ政権と相互関税15%で電撃合意したというビッグニュースが飛び込んできたからだ。
「これによって、今日、明日にでも辞めろという声は上げづらくなった。党内は、『関税合意を手柄に"花道退陣"させればいい』というムードへと軟化しつつあります」
同23日午後、石破首相は森山裕幹事長を引き連れ、麻生太郎、菅義偉(よしひで)、岸田文雄という歴代首相3人との会談に臨んだ。個別に会うならともかく、わざわざ全員が一堂に会するのは異例の事態だ。
「予定を20分もオーバーした会談の後、石破首相はぶら下がり会見で『私の出処進退に関する話は何もなかった』と言いましたが、これは完全に"永田町しぐさ"(笑)。
政局への影響が大きいため、『何もなかった』ことにしておこうと口裏を合わせているだけでしょう。実際には当面の続投と進退のタイミングなどについて、かなり突っ込んだやりとりがあったはずです」
では、"花道退陣"の時期はいつになるのか? 全国紙政治部デスクが言う。
「自民党は8月の最終週に、参院選敗北の原因を分析する検討会を行なう予定です。9月にも新たな内閣・党人事が行なわれ、続いて秋の臨時国会が始まることを考えれば、退陣表明は遅くともこの検討会の前後まで。実際の退陣時期は早ければ臨時国会前、どんなに遅くても年内でしょう」
■深刻な党内分裂ただ、石破退陣が"花道ムード"になったとしても、衆参両院で過半数割れし、野党の協力なしには一本も法案を通せない自公政権の行き詰まりは明らかだ。ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「誰が総裁であっても、最初のヤマ場は秋の臨時国会。参院選の公約である2万円給付をやるためには、財源となる補正予算案を通す必要があります。
しかし、『給付より減税』を掲げた野党がすんなり受け入れるはずがなく、代わりに減税メニューものめと要求してくるでしょう。そこで折り合えず、野党が内閣不信任案を本気で出してくれば、自公政権は総辞職か衆院解散・総選挙の二択を迫られることになります」
昨秋の衆院選、今年の都議選、参院選と3連敗中の自公政権。ここで再び総選挙に打って出たところで、そう簡単に勝ち筋は見えてこない。
しかも、裏金問題で派閥が消滅したとはいえ、今の自民党内には大きな対立軸がある。
片方は社会保障財源などを重視し、減税に慎重で、財政赤字を減らそうという財政規律派。もう片方は、財源を国債に頼ってでも財政出動を増やし、減税も含めた景気対策をやるべきだとする財政積極派だ。
前者は石破政権における主流派。後者はアベノミクスこそ正義とする勢力で、選択的夫婦別姓などのテーマに関して保守的な立場を取る右派議員が中心だが、旧安倍派の大量落選などもあり、数の面では少数派だ。
国会対策で野党と協力体制を築くにしろ、政権を安定させるために連立拡大を模索するにしろ、過半数割れから脱するために他党や無所属の議員に多数派工作を仕掛けるにしろ、こうした自民党内の路線対立は大きな足かせになる。
ジャーナリストの須田慎一郎氏が解説する。
「石破さんの後の新総裁が高市早苗さんのような財政積極派であれば、連携相手は相性のいい国民民主党になるでしょう。減税を主張する点でも親和性があります。
逆に新総裁が林芳正官房長官ら財政規律派の場合は、やはり筋金入りの財政規律派として知られる野田佳彦代表率いる立憲民主党と手を組む可能性があります」
積極財政、保守回帰を打ち出し「(自民)党の背骨を入れ直す」と臨戦態勢に入った「反石破」の代表格、高市早苗元総務大臣
前出の自民党関係者はこうため息をつく。
「解散に打って出ることができない以上、臨時国会では、野党に対して下手に出るしかない。
しかし、そこで何を譲って何を得るのか、連携のベクトルが増税寄りなのか、減税重視なのか、自民党内で激しい議論になるはずです。
そのときの総裁が石破さんであれ、後任の誰かであれ、党内をがっちりグリップできる状況でもないし、派閥の領袖が議論をまとめられる時代でもない。
今は一丸となって出直しすべき時期なのに、これではまとまる話もまとまらないどころか、分裂が加速する可能性も否定できません」
■「一強」は終わった自民党は1955年に自由党と日本民主党の"保守合同"で誕生し、以来70年間、常に日本の政権中枢にいた。
例外はわずか2回だ。1度目は、1993年の非自民8党派による細川護熙(もりひろ)政権~羽田孜(はた・つとむ)政権。このとき自民党は、社会党の村山富市(とみいち)委員長を総理に担ぐ奇策で、94年に政権に返り咲いた。
2度目は、2007年の参院選、09年の衆院選で民主党に連敗し、下野を余儀なくされたとき。しかしこの後、自民党は参院選、衆院選と連勝し、12年に自公政権が復活。ここから国政選挙に連戦連勝で、「自民一強」といわれる時代が22年の参院選までは続いていた。
ところが、それからわずか2年後の昨年の衆院選で惨敗、そして今回の参院選ではついに衆参両院で主導権を失うに至ってしまった。
前出の鈴木氏は「自民の一強政治と呼ばれる時代は終わった」と断言する。
「今回の参院選で自民党に投じられた比例票は約1281万票。22年から545万票も減らしています。この激減は単なる党勢不振のレベルではない。自民政治が国民から見放されたということです。
これまでのように選挙の前に"党の顔"を替えて新鮮味を演出し、大量得票して政権与党の座を維持するというやり方はもう通用しない。新しい理念、ガバナンスを含めて一から新しい党として生まれ変わらない限り、復活はないと考えるべきでしょう」
NHK・NNN・読売新聞による投票日の出口調査でも、その末期ぶりははっきりと表れている。自民党の比例得票率は年代が若くなるほど下がり、40代以下ではトップの座を国民民主党や参政党に明け渡した。
ちなみに、年代が若いほど人気がないのは立憲、公明、共産もまったく同じ。"既成政党"と見なされた政党が、現役世代の心をつかめていないことは明らかだ。
前出の須田氏が言う。
「10代から40代の投票行動は、保守だから自民、リベラルだから立憲や共産といった動きになっていない。イデオロギーや政党の立ち位置に関係なく、個人の抱える不安や不満に刺さるキャッチコピーをタイムリーに打ち出す政党に票が集まっています。
手取りを上げると訴えた国民民主党や、日本人ファーストを掲げた参政党の躍進と比べると、自民は有権者のニーズをすくえていない。どこにアンテナを向けて発信すればいいのかすらわからず、立ち尽くしている印象です」
長年、国政選挙の各選挙区で自民党候補の得票に「ゲタ」を履かせてきた公明党の退潮も著しい。都議選に続き厳しい結果に
そして、ただでさえ弱っている自民党にとって致命的なのは、連立相手であり、選挙時に大きな"ブースト"となってきた公明党の退潮だ。
集票マシンとして第2次安倍政権以降の連勝を下支えしてきた支持母体・創価学会が、高齢化により年々弱体化し、比例票は国政選挙のたびに減少。今回の参院選でも、3年前より100万票近く減ってしまっている。
3年後の参院選で自公が過半数を取り戻すには合わせて78議席以上を取る必要があるが、今回が47だったことを考えるとこれはほぼ絶望的だろう。
つまり、仮に次の衆院選で自公が過半数を取り返したとしても、衆参の「ねじれ」が解消されるのは最短で6年後。それまで自公政権が持ちこたえる可能性よりも、政権の枠組みが変わり、政界が流動化していくシナリオのほうが現実味がある。
「"そこそこの議席数の党"が複数並立し、選挙のたびに合従連衡して顔ぶれの違う連立政権を樹立する。そんな欧州のような状況に、日本政界も突入するかもしれません」(前出・自民党関係者)
常に政権の中心にいて、70年間権勢を振るい続けたあの「自民党」はもういない。参院選の惨敗を受け、石破首相が苦し紛れに絞り出した「比較第1党」という言葉が、皮肉にもその未来を物語っていたのかもしれない。
写真/時事通信社
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