おぎぬまXのキン肉マンレビュー47巻編~悪魔六騎士VS完璧超人始祖、初勝利は意外な超人!?~
『週プレ』復活シリーズ、JC『キン肉マン』47巻をおぎぬまXがレビュー!!
第47巻では、悪魔六騎士と完璧超人始祖の初対決となった悪魔超人ジャンクマンVS完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)ペインマンの死闘が、ついに決着します!
さらに、次なる闘いでは2人目の悪魔六騎士・スニゲーターの参戦など、目が離せない熱戦が続きます!
●キン肉マン47巻 レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5
冒頭は、前巻から続くジャンクマンとペインマンの闘いで、ペインマンのテリブルペインクラッチをかけられるジャンクマン、という構図から始まります。前回のレビューでも語りましたが、冒頭のテリブルペインクラッチが美しすぎます...! ここまで複雑怪奇な肉体のパズルを上から、横からと、目まぐるしく様々な角度で描かれているのは、もはや神業......!
このレビューで繰り返し強調していることですが、投げ技や打撃技のみならず、関節技がここまで美しく描かれている『キン肉マン』は、改めて単なるバトル漫画ではなく、格闘技漫画なんだと感動しました。
インタビューなどでゆでたまご先生が語られていましたが、嶋田先生と中井先生は技を開発する際に、今でもおふたりで技を掛け合っているそうです。熟年の域に達したおふたりが、汗を流し雄叫びを上げながら新技開発を行なっている姿を想像すると、同じ漫画家として自分も頑張らなければ、と血が滾(たぎ)ります!
その後、金網を使って強引に脱出を果たしたジャンクマンですが、闘いの最中、室温が異様に上昇していることに気付きます。そこでジャンクマンは閃(ひらめ)きます――ジャンククラッシュを何度も空打ちしてリング内の空気を膨張させることによって、ペインマンの緩衝材(かんしょうざい)ボディを膨(ふく)らませることができるのではないか、と。見事思惑は成功し、本来の防御性能を失った緩衝材ボディにオーバーヒート・ジャンククラッシュを炸裂させました!
これまで数々の衝撃展開やとんでも設定を生み出してきた『キン肉マン』ですが、僕はこの〝ジャンクマンの緩衝材ボディ攻略法〟こそが、実はもっともぶっ飛んだ理論なのではないかと思っております。初めて読んだときはページを持つ手が震えたほどです。
池の水が干上がるほどの超熱戦! 悪魔超人ならではの、抜け目のなさが光る
両者の激闘は、自らの片腕を犠牲にしたジャンクマンのジャンククラッシュで決着! 絶対に痛みを感じないと豪語していたペインマンが、最後はマットで血の海に沈みます。思うに、痛みを感じないということは無痛覚、それにともない恐怖や不安といった感情がないわけで、それはきっと、とてつもなく退屈なことなのではないでしょうか。
数億年もの間、痛みを知らなかったペインマンに、初めて生の実感を与えてくれたジャンクマン。だからペインマンは自分に致命傷を与えた相手を惜しみなく称賛します。なんとさわやかな決着なのでしょう...!
悪魔六騎士きっての残虐ファイターも、ペインマンの散り際には敬意を表すほど。だが負った傷も大きく、ひと時の休息に...
ジャンクマン戦後は場面が変わり、超人墓場から謎の空間に飛び込む悪魔六騎士の姿が描かれます。スニゲーターが飛び込んだ先は、まさかのイタリア・ピサの斜塔! そこで待ち受けていたのは、完璧・漆式(パーフェクト・セブンス)ガンマンでした。
個人的にパワーファイターが大好きなので、ガンマンはかなり好みのキャラクターです。傍若無人(ぼうじゃくぶじん)で、自分の強さに絶対の自信を持っているがゆえに、非力な超人に対して情け容赦がないところとか、ヒールレスラーの鏡ですね!
さて、スニゲーターvsガンマンは、一見すると爬虫類vsシカの闘いのように見えます。ガンマンの頭上には二本の大きな角が聳(そび)えており、のちにエルクホルン・コンプレッサーという技を使うこともあって、エルク(ヘラジカ)がモチーフであることがわかります。
ですが、ガンマンのモチーフはそれだけではありません。最大の特徴は、神話の巨人サイクロプスを彷彿(ほうふつ)とさせる一つ目でしょう。神々しいデザインがつづく完璧始祖ですが、今回も強敵感にあふれており、めちゃくちゃカッコいいですね......!
真眼〟と書いて「サイクロプス」と読むガンマンの技。このオシャレなネーミングは『キン肉マン』としては珍しいまた、ガンマンは変身などといった邪道な闘い方をする超人を忌(い)み嫌っていて、彼の真眼(サイクロプス)には未来を見通す力や相手の正体を暴く力があります。そのため、変身を得意とするスニゲーターキラーとも言えるキャラクターです。
先のジャンクマンvsペインマン戦は、「どんなものでも粉砕するジャンクハンドvs絶対に痛みを感じない緩衝材ボディ」といったような、矛vs盾のようなテーマが見てとれました。今回の試合も「多彩な変身vs圧倒的フィジカル」というテーマがありますが、軍配が上がるのは果たして、どちらなのでしょうか。
試合序盤からスニゲーターは、かつてのキン肉マン戦と同様に、変身を駆使しながらガンマンに挑みますが全く通用しません。変身など下衆(げす)の極みと罵(ののし)られ、目を覆(おお)いたくなるほどにボコボコにされてしまいます。ジャンクマンの勝利に喜んでいた矢先、この展開......完璧始祖相手にそう簡単に勝つことはできないことを痛感します。
ガンマンのハイキックがスニゲーターの顔面に直撃! その衝撃は、かつて悪魔将軍とのスパーリング中に受けたものと同等...!!
試合中に失神したスニゲーターの描写ののち、サッカラのピラミッドリングにいるキン肉マンたちにスポットが当たります。久々の登場となったキン肉マンは、ピラミッド付近のモニターからスニゲーターたちの姿を目の当たりにして衝撃を受けるのですが、同時にリングにいたネメシスも「まさか... なぜ彼らが?」と困惑する様子を見せます。完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)のリーダー格であるネメシスですら、この状況を把握していなかったようです。
このあたりのやりとりは、新シリーズにおけるサスペンス要素が強く感じられて、読んでいて楽しくなります。特に「超人閻魔の正体」や「完璧超人の真の目的」が明かされていくやりとりは、この巻で一番気に入っているシーンでもあります。なんといっても、キン肉マンがネメシスに対して啖呵(たんか)を切る場面がとてつもなくカッコいい!
以前にも語ったことなのですが、キン肉マンというキャラクターは、デザインだけ見たら決してカッコよくはないんですよ。もともと、この作品がギャグ漫画だったこともあり、ブタ鼻で、たらこ唇で、筋肉モリモリで......それなのに、ネメシスに臆(おく)せずぶつかっていくキン肉マンの姿が、どんなヒーローにも負けないくらいカッコいいのはなぜでしょう? 息つく間もなく試合が続くこのシリーズですが、作品の本質、主人公の魅力を思い出させてくれる最高のシーンですね。
キン肉族およびその影響を受けたすべての超人の粛清を口にしたネメシスを、強い口調で批判するキン肉マン。普段はドジでマヌケでも決める時は決める!
ネメシスとの口論の後、舞台は再びスニゲーターvsガンマン戦に戻ります。再登場する悪魔六騎士たちには、これまでは明かされていなかったバックボーンが追加されているのが嬉しいところ。
第43巻でも描かれていましたが、スニゲーターは7人の悪魔超人の教官だったという役割が明かされ、スニゲーターは愛弟子に当たるステカセキングたちの死を知ってショックを受けます。
脳裏に映るのは、7人の悪魔超人たちとの修業風景。特に出来の悪いステカセキングとスプリングマンをかわいがっていた模様
〝弟子は師を超えなくてはならない〟。スニゲーターとステカセキングたちの関係性は、実は無量大数軍や始祖たちにも共通するものがあります。たとえ神話の時代から語り継がれる伝説のような超人がいるとしても、次世代の超人が乗り越えないといけない。それが悠久の時を生き続けた先人の願いなのです。
スニゲーターもまた、悪魔将軍と同格のガンマンを相手に、師匠超えに挑みましたが......奥の手であり真の姿であるTレックスの足になっても、ガンマンのエルクホルンで木っ端微塵にされて敗北しました。圧倒的な強さを誇るガンマンは、物足りないと言わんばかりに生き残った悪魔超人たちを挑発します。スニゲーターの無念を晴らすため、彼の教え子でもあるバッファローマンは、師匠超えをすることを誓います。
奥義エルクホルン・テンペストでバラバラにされてしまうスニゲーター。持ち前の再生能力で最後まで粘ろうとするも、力尽きる...
本巻のラストでは、世界各地で悪魔六騎士と完璧超人始祖の争いの本格化が示唆されるのですが、故郷であるスペインを襲った異変に、バッファローマンが眉をしかめます。すると、第44巻でバッファローマンに倒されて死んだはずのグリムリパーが、サグラダ・ファミリア上空にいて...といった形で次の巻に続きます。この引きも、とてつもなくミステリアスでいいですよね!
次巻では、さらに激化する悪魔六騎士と完璧超人始祖の闘いに注目したいと思います!
故郷・スペインの世界遺産サグラダ・ファミリアに現れたのは、「ニャガニャガ」が口癖のあの超人...!
今回は『キン肉マン』愛読者からすれば、もはや説明不要な共通認識のようなものなのですが......本巻から登場したガンマンは、先にも述べたようにエルク(ヘラジカ)のような大きなツノが生えています。やはりと言いますか、さすがと言いますか、ガンマンのツノもまた例に漏れず、ギュルンと回転するのです。いや、本当に今更こんなこと言うのも野暮なんですけど、どうして回転するの???? 今回の回転シーンは、ガンマンのさも当たり前のような表情がたまりませんでした。
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
構成/石綿 寛(樹想社) ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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