大谷翔平選手の進化した武器も。時代と共に変わる「魔球」【山本萩子の6-4-3を待ちわびて】第174回
魔球について語った山本キャスター
野球には「魔」という言葉がつきものです。
有名なところでは、智弁和歌山高校がスタンドで奏でる応援曲『ジョックロック』は、チャンスを呼び込む「魔曲」として知られています。「魔の〜回」という表現もよく見かけますね。リリーフ陣がリードを守れず、例えば8回に逆転を許すような試合が続くと、ニュースには「魔の8回」という見出しが躍ります。
そして最も有名なのが「魔球」でしょう。古くは野茂英雄さん(元近鉄、ドジャースなど)のフォーク、伊藤智仁さん(元ヤクルト)のスライダーなどが有名です。最近でいえば、ヤクルトのルーキー荘司宏太投手のチェンジアップも、空振りした打者が完全にタイミングを狂わされて尻餅をつくシーンを見たことがあります。
魔球とは、「来る」とわかっていても打者が打てない球のことを言うのだと思います。2000年代にブームを起こしたジャイロボールも、かつては魔球と呼ばれましたが、現在では縦スライダーと同じ扱いをされることが多いようです。ナックルボールのように長く、細々と使い手が途切れない魔球もありますが、時代によって流行りがあったり、呼び方が変わったりします。
大谷翔平選手の魔球=決め球といえば、近年はスイーパーでしょうか。スイーパーという名称が世間に知られ始めたのは、やはり大谷選手が多用したことが大きく、ファンはその切れ味に驚きました。
スイーパーは簡単に言うと「横に大きく曲がる速いスライダー」のことで、大谷選手が公言したことにより、MLB公式の球種判定システムにも「スイーパー」として反映されるようになりましたが、名前がつくと一気に"魔球感"が増しますね。
球場で大汗をかくため、煩わしさから解放されるために前髪を伸ばしている山本です。
以前の大谷選手の決め球はスプリットでした。160キロのストレートと150キロ近いスプリット。直球とほぼ同じ軌道からストンと落ちますから打者はとても打ちづらく、当時から「魔球」と言われていました。
ここ数年、大谷選手の投球スタイルの変化に伴い、投球フォームも大きく変わりました。アームアングル(投げる際の腕の角度)が下がり、以前よりも横の変化を軸に、シンカーやスイーパーを中心に打者の芯を外し、球数を抑えて打ち取っていく。それと並行してスプリットは減り、ほとんど投げていない時期もありました。
しかしこの先、スプリットが"新たな"武器となるかもしれません。復帰3登板目のロイヤルズ戦、2回に投げたある球はMLB公式ではシンカーと表示されていました。ですが、細かくデータを見ると、変化量はほぼシンカーと同じですが、球速と回転数はスプリットに近いものでした。試合後、受けた捕手の「あれはスプリットだ」という談話で球種判定も修正されたそうです。
今の大谷選手のシンカーとスプリットは、MLBの高性能なシステムですら混乱させてしまうわけですから、打者が攻略に苦労するのは想像に難くないでしょう。以前の魔球だったスプリットが、今の大谷選手に落とし込まれて帰ってきました。
勝負球のスイーパーと、魔球スプリット。復帰直後でまだサンプルも少ないですが、これからスプリットを投げる機会が増えるならば、どのような進化を遂げるのかとても楽しみです。
それでは、また来週。
構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作
記事提供元:週プレNEWS
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