歓喜の涙も… 5年ぶりVの永峰咲希を支えた目澤秀憲氏が語る「僕の役割」
2020年春から永峰咲希をサポートしてきたツアープロコーチ・目澤秀憲氏が、5年ぶりにツアー優勝を果たした教え子の姿を見届け、思わず涙をこぼした。「本当に良かった。とてもうれしいことです」。感極まった表情が、この5年間に込めてきた想いの深さを物語っていた。
最終日前夜は緊張のあまり、眠ることができなかったという。「正直、あまり寝られなかった。2020年のメジャー優勝からの5年間、彼女が一番苦しかったと思います。でも、彼女は一度も弱音を吐かず、僕の言葉も、チームの言葉も信じて引っ張ってくれた。その彼女に応えたいという想いで、ここまでやってきました」と安どの表情を浮かべた。
今大会、永峰はフェードの安定感が光った。もともとジュニア時代はフェードを武器に戦ってきたが、プロ入り後は「飛距離を出さなければ」という思いからドローにシフト。しかし、体の特性やスイングの癖を踏まえ、昨年にチームで話し合ってフェードに戻す決断をした。
同年は腰痛があって、思うように練習ができない日々もあった。「彼女の特徴を考えたときにフェードが合うと感じていたので、話し合って変えることにしました。それが大きかったと思います。もともとアイアンは上手いので、ティショットが安定すればさらに良くなると思っていた」。悪天候の影響で54ホールに短縮された昨年大会は、フェアウェイキープ率が61.9%だった。今年は3日目までで73.8%(4日間で67.8%)と数字にも表れた。
さらに「パターが良かった時期は、真っすぐのラインに自信があった。そのフィーリングがここ2~3年は出なくて、アドレス、グリップなども変えたけど、なかなか見つからなくて…」(永峰)と悩みを抱えていた。そこで「センターシャフトがいいかもしれない」と目澤氏が提案。今年5月の「パナソニックオープンレディース」からスコッティキャメロンの『ファントムX プロトタイプ』に変更した。「そこからパッティングもだいぶ安定するようになった」と、持ち球だけではなく、ギアの変更も今季好調の要因の一つだ。
目澤コーチは、チームでのサポート体制にも確かな手応えを感じている。「あとは本人が、僕やトレーナーの言葉に真摯に向き合ってくれて、信じてくれた。ケア担当、トレーニング担当のトレーナーさん二人と一緒にチームでやってこられたのが、僕にとっても本当にうれしい。持ち球をドローからフェードに変えるというのは、ある意味“血を流す”くらいの大きな決断。それを乗り越えての今回の優勝は、本当に価値があると思います」。昨年はメルセデス・ランキング69位とポイントシードは損失。そんな苦しい期間も見てきたからこそ、感じる成長だ。
技術的な進化だけでなく、永峰自身の人間的な成長も見逃せない。「もしかしたら、彼女自身が一番自分を信じ切れていなかったかもしれません。でも、彼女は一つずつ課題を消化していけるタイプ。自分に自信を持てるように、“地道”に積み重ねてきた。30歳で今、キャリアのピークを迎えられているというのは、彼女の“努力”の証しです」と、誇らしげに目を細めた。
永峰はそんな目澤氏の存在について、「初めて会ったときから、自分の知らない知識をたくさん教えてくれました。ちょうどコロナの時期で、打ちこむ時間もありました。そこから常に勉強してアップデートしてくれる。『前はこう言ったけど、今はこうかも』、『ごめん、こっちかも』と、いい意味で頑固じゃない。柔軟に選手によって変えてくれるんです。その姿勢にすごく信頼を置いていますし、聞いたら何でも聞いてくれる。尊敬しています」と大きな信頼を寄せている。
目澤氏は、この勝利は通過点に過ぎないと語る。「シーズンはまだまだ続くし、本人も言っていたように、次は複数回優勝を目指していく。30歳でキャリアのピークを迎えるという姿は、これからの若い選手たちのロールモデルになるはずです。彼女のゴルフや姿勢が、後輩たちに何かを伝えられたら。それを支えることが、僕の役割だと思っています」と穏やかな表情でうなずいた。
師弟で歩んできた5年の歳月が、栄冠という形で花を咲かせた。涙ににじんだ優勝の瞬間は、目澤氏の心に深く刻まれた。これからも“チーム永峰”の挑戦は続いていく。(文・高木彩音)
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