触るだけでアウト! 北海道大学に自生していた日本未確認の外来植物で世界最強級の猛毒植物「バイカルハナウド」はすでに日本に広まっている!?
北海道大学で自生していた「バイカルハナウド」が疑われる植物。現在は、刈り取られ、調査中とのこと
日本では今まで見られなかった猛毒の外来植物が、北海道大学の敷地内、札幌という大都会で発見された。なぜ自生したのか? すでに全国に広まっているのか? さまざまな疑問を野草研究家に聞いた! もしかしたら、あなたの身近にも猛毒の植物があるかもしれない......。
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■今後、北海道各地で見つかる可能性が!?6月25日、北海道大学は〝世界最強級の猛毒植物〟といわれる「ジャイアント・ホグウィード(和名:バイカルハナウド)」の疑いのある植物がキャンパス内に自生していると発表した。バイカルハナウドは、日本未確認の外来種で、同定されれば国内初の生育となる。
また、未確認だったことなどから、環境省の指定する「特定外来生物」に含まれておらず、現在、公的な駆除の対象にはなっていない。
そんなバイカルハナウドとはどんな植物なのか。『野草がハーブやスパイスに変わるとき』(山と溪谷社)などの著書がある野草研究家の山下智道氏に聞いた。
「バイカルハナウドは、西アジア原産のセリ科ハナウド属の多年草です。特徴としては、セリ科では珍しく3~5mほどに育つこと。また、樹液に強い毒性があることです。
バイカルハナウドの花や葉、茎などにある樹液が肌に触れて、その部分に紫外線を浴びるとやけどのような激しい炎症を起こします。しかも、この毒は皮膚の細胞を死滅させるため、炎症が長引いたり、傷痕が残るなど、とても厄介です。また、目に樹液が入れば失明の危険もあります。
『切ったりしなければ樹液に触れないので、葉や茎を触るぶんには大丈夫なのではないか?』という質問を受けますが、バイカルハナウドの茎には毛が生えていて、その毛の部分にも毒の成分があるので、肌が弱い人が毛を触ると炎症を起こす可能性があります」
――とにかく、見つけたら触れてはいけない植物ということですね。では、バイカルハナウドかどうかを見分けるにはどうすればいいのですか?
「北海道や本州北部にはエゾニュウやオオハナウドなど、バイカルハナウドにとてもよく似た植物が自生しています。バイカルハナウドのニュース以降、『ここにもあった』というSNSの投稿を見かけますが、その多くがエゾニュウやオオハナウドでした。
しかし、エゾニュウやオオハナウドは3mを超えることはほとんどありません。ですから3mを超える巨大なセリ科の植物を見つけたら、近寄らないほうがいいでしょう。
ただ、生育中のバイカルハナウドは1mや2mのものもあります。その場合は茎を見てください。バイカルハナウドの茎は紫がかっています。一方のエゾニュウやオオハナウドは緑です。ここが一番わかりやすい見分け方かもしれません」
写真では少し見づらいかもしれないが、茎が紫がかった色になっている。これはバイカルハナウドの特徴とも一致する
――バイカルハナウドは多年草ということですが、1年ではなく、2、3年たってから花が咲くのですか。
「はい。地域によっては2年草扱いになっているので、環境によっては2年くらいで2m以上の大きさになり、布のレースのような感じで白く小さな花がたくさん集まって咲きます。そして、その後、多くの種子ができ、地面に落ちるなどして、どんどん広がっていきます」
――では、どうやって北海道大学のキャンパス内に種子が紛れ込んだのでしょうか。
「はっきりしたことは言えませんが、例えばバイカルハナウドが自生している場所に行った人の服や靴などに種子が付着して、海外から日本に持ち込まれたと考えるのが一般的です。
私も北海道大学の現地に行きましたが、バイカルハナウドらしき植物が生えていた場所は、とても人通りの多い所でした。そこで種子がこぼれ落ちて、発芽したのではないでしょうか」
――ということは、北海道大学だけでなく、ほかの場所にも種が落ちた可能性がある?
「はい。バイカルハナウドの種子が日本全国に入ってきている可能性はあります。そして北海道の涼しく湿度の低い環境が生育に適していたのだと思います。ですから、今後は北海道や東北地方でバイカルハナウドが見つかる可能性も否定できません。
私は北海道や東北などで野草ガイドをしていますが、今まで日本でバイカルハナウドを見たことはありません。ただ、山の中で花が咲いていない状態で、大きくなる途中の50cmとか1mのものだったら見つけるのがかなり難しいと思います。
大きくなって花が咲いているものだったら、なんとか見つけられるかもしれません」
――バイカルハナウドが花を咲かせるのはいつ頃なんですか?
「6~8月頃ですね。9月になると種ができ始めて、冬になると枯れます。ですから、花が咲いていて識別しやすいこの時期に集中的に調査をするのはとても大事なことだと思います」
米国ニューヨーク州のホームページに載っているバイカルハナウドによる皮膚炎の事例。5ヵ月たっても痕が残っている
――バイカルハナウドは〝世界最強級の猛毒植物〟といわれていますが、ほかにも野山に生えていて危険な植物ってあるんですか?
「『イヌサフラン』には猛毒があり、食中毒を起こすことが多いですし、死亡する例もあります。イヌサフランは『ギョウジャニンニク』ととてもよく似ているんです。植物識別アプリなどでイヌサフランを調べると、ギョウジャニンニクと出ることがあります。そのため間違って食べたりしてしまうんです。
ほかにもセリに似ている『ドクゼリ』や『ドクニンジン』があります。ドクニンジンはギリシャの哲学者・ソクラテスの処刑のときに使われたといわれています。
また『キツネノボタン』や『ニリンソウ』なども葉の汁が皮膚につくと炎症や水疱を起こしますし、『ハゼ』はヤマウルシと言われていて、触れるとかぶれます。
実は、毒のある植物は意外と多く、それを知らないで触ったり、食べたりする人が少なくありません」
バイカルハナウドに限らず、毒性植物は身近にたくさんある。夏休みで登山やキャンプなどに行くことが多くなる季節だから、少しでも毒性植物の知識を得て、自分の身は自分で守りたい。
取材・文/村上隆保 写真提供/山下智道(バイカルハナウド) 症例写真/ニューヨーク州のHPより
記事提供元:週プレNEWS
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