転換点は“持ち球”改革 30歳・永峰咲希が5年ぶりV「結果につながってくれた」
<資生堂・JAL レディス 最終日◇6日◇戸塚カントリー倶楽部 西コース(神奈川県)◇6766ヤード・パー72>
30歳の永峰咲希が、トータル9アンダー・首位タイで並んだ木戸愛とのプレーオフを3ホール目で制し、2020年以来となるツアー通算3勝目を挙げた。5年間の“葛藤”、そして“進化”を経てつかんだ勝利だった。
首位タイで迎えた最終日は、「『もう負けたかな』と思う瞬間が、一日の中で何回もあった」と、思うようなアイアンショットが打てず、バーディチャンスを作れない苦しい時間が続いた。難しいアプローチを残すシーンもあったが、ショートゲームでリカバリーし、ボギーなしの2バーディを奪い「70」をマーク。“耐えのゴルフ”を展開した。
優勝を決めた瞬間は「『やっと終わった…』という気持ちのほうが強かった。段々と喜びが増してきた感じです」。永峰の胸にこみ上げた感情は、21ホールを戦い終えた“安ど”だった。
20年の「日本女子プロ」制覇から5年。決して順風満帆ではなかった。「正直、メジャーを勝ったときも『この実力で勝っちゃった』というのはおかしいですけど、(自分の実力は)まだまだなのに、“メジャーチャンピオン”の肩書きはプレッシャーで…」と明かす。不振に陥った時期もあったが、「この5年間、技術や精神力が少しずつ成長して、今回の優勝だった」と、“心・技”を鍛え上げてきた努力が実った。
大きな転機となったのは、目澤秀憲コーチと取り組んだ“持ち球”の変更だ。プロになってからは飛距離を求めてドローに変えていたが、ジュニア時代のフェードに昨年から戻した。
「そのドローもテレビや雑誌で知識を得て、見よう見まねで練習をしていた。飛ぶけど精度が低かったですし、ひとりじゃどうしようもないなというときに、目澤さんに教えてもらうようになった」
これまでは“ドローでしか飛ばせない”というイメージがあったというが、目澤氏からデータを交えながら、『フェードでもこれだけ飛ぶんだよ』という助言があった。これが永峰のターニングポイントだった。
「(ジュニアのときに)フェードでやっていたので、イメージを変えるのは苦じゃなかった。変えてからは、予選通過の率も上がって、フェードなんだな…」と、復調への確信を得た。
さらに悩み続けてきたドライバーのスピン量も、フェードへの変更で改善。「2100(rpm)しかなかった回転数が2800~3000(rpm)にまで増えた」と飛距離だけでなくコントロール性も上がった。初日から「今年は優勝ができると思う」と話していたが、その予感は的中した。
そして、もう一つの課題だったパッティングにも光が差した。「パターが良かった時期は、真っすぐのラインに自信があった。上りの“ちょいスライス”に付けておけば、3メートルぐらいまでは自信を持って打てていた。そのフィーリングがここ2~3年は出なくて、アドレス、グリップなども変えたけど、なかなか見つからなくて…」と悩みを抱えていた。そこで目澤氏の提案もあり、今年5月の「パナソニックオープンレディース」でスコッティキャメロンの『ファントムX プロトタイプ』に変更していた。
「すごく精度が上がって、回転も、直進性もすごい」と好感触。「きょうも何回も入ってくれましたけど、微妙な上りのパーパットに対するストレスが減った。すごく助けられているなと思います」と不安を払しょくする一本が誕生。4日間のうち、3ラウンドでボギーフリーのプレーを展開できた要因の一つとなった。
ショット力とともに、スコアメイクの要であるパターも復調。シーズン序盤から優勝争いに加わるなど、以前の“戦闘感覚”が戻ってきた。「最初は緊張していましたけど、回数をこなすうちに『あ、こうやっていたな』って感覚が戻ってきました。最終日最終組でも、今まで以上に落ち着いてプレーできました」と振り返った。
2022年にメルセデス・ランキング(MR)65位でシードを喪失。翌年から日本女子プロ優勝による3年シードを行使したが、その選択を後押ししたのは父の言葉だった。
「父に『そんなもん持っているから甘えが出るんだ』って言われて。確かに保険として持っていると、『3年シードがあるし…』って頭の片隅で思ってしまう。それがダメなのかなと思ったので、もう使っちゃえと思って使いました」
23年にMR34位で通常のシードに返り咲いたが、昨季はMR69位に沈んで再度手放していた。今季は3年シードのラストイヤー。今回の優勝でまたもシード復帰を果たし、「ここ3年、本当にパットが入らず歯がゆかったけど、頭の中がシンプルになってきた。今年はそれを出し切れて、結果につながってくれたことが本当にうれしいです」と笑顔を見せる。
苦しみも葛藤も、すべてがこの5年ぶりの勝利につながっていた。30歳の進化はまだまだ止まらない。(文・高木彩音)
<ゴルフ情報ALBA Net>
記事提供元:ゴルフ情報ALBA Net
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。