【そば】赤坂の穴場!? 贅沢空間で食べる絶品そばがまさかの立ち食い価格:パリッコ『今週のハマりメシ』第193回
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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ありがたいことに、たびたびゲスト出演させてもらっているTBSの人気ラジオ番組「アフター6ジャンクション2」に、先日またお声がけをいただいた。
となると毎度密かなお楽しみなのは、スタジオの入り時間より早めに赤坂へ向かってからの、軽いひとり前飲み。しかも今日は、日中忙しかったこともあってこれまでまともな食事をしていない。できれば軽めの食事ができる店があると嬉しい。
と、赤坂駅を降りると、土砂降りではないけれど小雨でもない、地味に嫌なくらいの雨が降っていた。しかも降りかたに波があり、傘は持っていなかったので、こりゃあもう観念してどっかで買うか、とコンビニを探しだすと小降りになったりする。なんだか調子が出ないなぁと思いつつ、夜の赤坂を徘徊していた。
雨の赤坂
赤坂の街はとても活気があり、無数にある飲食店は、外から見るとたいてい満員。街にはそれぞれカラーがあるから当然なんだけど、ふだん僕が飲んでいるような大衆酒場よりずいぶん高価格帯の店も多く、なんだか謎にみじめな気持ちになってゆく。いかんいかん、早く店を見つけてよく冷えたビールでもぐいっとやり、気持ちを切り替えないと。
「蕎麦 いまゐ」
すると、前を通りかかった1軒のそば屋に空席が多く見える。「蕎麦 いまゐ」。どうしたって「ゐ」の文字にこだわりを感じてしまうし、きっといかにも赤坂らしいお高く止まった店だろう。けっ。と、無意味なやさぐれモードになりつつも近づいてみると、えっ!?
店頭のメニュー
メニューが全体的に、信じられないくらいリーズナブル。「かけ」と「ざる」がそれぞれ税込430円。立派な海老天がのった「天ぷらそば」や「天せいろ」でも780円だ。昔ながらの立ち食いそば屋なわけではなく、店内は明るくて和モダンな感じだし。さらに嬉しいことに「生ビール(中)」が380円。これはなにかの罠なんだろうか......? え~い、飛びこんでやれ!
「生ビール(中)」
結論から言って、罠ではなかった。買った食券を提出し、席について待っていると番号が呼ばれ、きちんとうまい生ビールにありつくことができた。ごくっごくっ......ぷはーっ! たったこれだけでさっきまでのくさくさした気分など吹き飛んでしまうのは、自分の性格の便利なところ。
さらに嬉しいのが、料理ができたタイミングで同時にビールを出してもらえたこと。つまり目の前には、食事でありつまみでもあるそばがある。なんて嬉しいシチュエーションなんだろうか。
そばがある!
今日選んでみたのは、5種類あった期間限定メニュー「夏のおすすめ冷やし麺」のなかのひとつ、「夏のぶっかけよくばりそば」(750円)。かの富士そばの夏の風物詩に、具だくさんの冷やしそば「冷し特撰富士そば」があるが、その上位互換的と言うとわかりやすいだろうか。ぶっかけスタイルの冷やしそばの上に、なんと15品目の具がのっているらしい。
さっそく数えてみよう。温玉、あげだま、あげ煮、わかめ、きゅうり、のり、大根おろし、なめたけ、しば漬け、かいわれ、ねぎ、みょうが、わさび、ごま......これで14種類で、あと1種類はなんだろう。とにかくきっとなにか入ってるんだろうし、うまそうなことには間違いない。
※帰宅後に調べてみたところ、わさびとごまは15品目には含まず、他に豆苗、大葉、水菜が入っていたよう。わさっとした緑にまぎれて見落としていました。
いただきます
ではでは、この具だくさんそばと対峙してゆくとしよう。
まずはちびりとつゆの味を確認。お、最初に強いしいたけみを(あくまで個人的に)感じる、だしの香りゆたかなつゆだ。甘みがありつつもキリッと引き締まった味わいがとても好き。続いてそばをずずっ。わぁ、ものすごく歯切れの良い、ぷりぷりの麺。うまいうまい。
ここからはもう、気になった箇所をあっちこっちとつっつき、やがて渾然一体となってゆくそばを無心に味わうのみ。
あげだまが香ばしい
さすが天ぷらのラインナップも充実している店なだけあり、さくさく香ばしいあげだまがとてもうまい。しゃきしゃきの薬味軍団もいい。それにしても、みょうがってやっぱり強いな。なめたけおろしの甘辛い爽快さもたまらないものがあるし、かりかりとしたしば漬けもいいアクセントだし。それぞれに触れだしたらいくらでも語りどころがあるんだけど、とにかく具だくさんの冷やしそばならではの喜びに満ちた一杯であることはまちがいない。
温玉タイム
終盤に温玉を崩すのは儀式のようなもの。これにより全体が玉子のまろやかさに覆われ、そばの表情が一変してしまうが、この時間こそが、温玉を内包する料理におけるごほうびとも言える。
最終的に「カレーライスにおけるソースが足りない問題」の逆、そばが先になくなり具が潤沢にあるという贅沢な状況が発生したものの、こちらにはまだビールがある。残った具たちをビールのつまみとし、大満足でごちそうさま。さて、そろそろ2軒目の"居酒屋アトロク"に移動するかな。
ところで、最後に補足情報。
タイトルに「赤坂の穴場」と書いたが、これは事実でもあり、僕の無知からくる大ざっぱな愚論でもある。というのも、いまゐは、昨今東京を中心に店舗を増やしつつあるチェーン店だということを、この記事を書くにあたって知った。なんと、我が家からそう遠くない練馬駅近くにも最近できたらしい。
大変ありがたいことだが、欲を言えばビール以外の酒類も少し増やしてほしいのと、板わさや玉子焼きくらいでいいからつまみになるものもメニューに加えてほしいなと思うけど、すみません。これは単なる酒飲みのわがままですね。
取材・文・撮影/パリッコ
記事提供元:週プレNEWS
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