鉄道車両工場の現場に即戦力の外国人財がデビュー 日旅のニュービジネス「グローバル人財活用推進事業」とは?(大阪府吹田市)

東京や大阪ではコンビニや飲食店に入ると、若干たどたどしい口調で「イラッシャイマセ」とあいさつされることがあります。今や日本社会は外国人労働力なくしては成り立たなくなっています。人財不足が深刻な鉄道業界も、その例外ではないようです。
鉄道、特に車両や軌道関係の現場に外国人財が活躍する環境を整備して、受け入れを始めたのがJR西日本グループです。車両検修や改造を手がけるJR西日本テクノスでは、ベトナムから来日した一期生6人が2025年6月に入社。大阪府内の事業所で技能実習に励みます。
採用や育成にノウハウが必要な外国人財活用に、トータルサービスの形で乗り出したのがJR西日本グループの日本旅行。「赤い風船」ブランドでおなじみの旅行会社で、旅行業を離れた新規事業として「グローバル人財活用推進事業」を創業しました。
日旅は2025年6月10日、「鉄道業界向け外国人財採用・活用セミナー」をオンライン開催。JR西日本、JR西日本テクノス、日旅の担当者がそれぞれの考え方や実践策を報告しました。今回はセミナーや国の資料から、外国人財活用の方向性を読み解きます。
(※本コラムでは一般的な「人材」に代わり、「人財」表記で統一します。掲載写真・資料はセミナー資料です)
「日本語、一生懸命勉強します」

「日本語は難しい。でも一生懸命勉強しています」、「好きな日本食はお寿司です」。来日2カ月目の20代前半、ベトナムからやってきた6人の若者からは、フレッシュで意欲あふれる言葉が聞かれます。
鉄道分野の外国人財活用、基本になるのが国の特定技能制度です。2019年に介護、外食、農業など16業種でスタート。一定の技能・日本語能力を持つ外国人に最長5年間の在留資格が与えられます。
国土交通省、法務省、外務省などは2024年4月、特定技能制度に「鉄道分野」を追加しました。特定技能制度では、外国人財を受け入れられる仕事の範囲を明確に規定。鉄道では、車両検修、施設(線路・構造物)保守・修繕、 電気設備(信号・変電設備)メンテナンスなどが対象です。
国交省は2024年11月、鉄道分野初めての外国人材受け入れが許可(「特定技能1号」の在留資格許可)されたことをリリースしました。受け入れ企業は兵庫県尼崎市に本社を置くサーミット工業。鉄道分野では、車体組み立てや部品製造を担当します。
積極支援で受け入れ拡大(JR西日本)
JR西日本や日旅に話を移します。
JR西日本経営戦略本部人財戦略部は、外国人採用のメリットを「人手不足解消」、「新しいアイディアや価値の創造」、「企業イメージアップ」の3点に集約します。
JR西日本人財戦略部は、「JR西日本グループは外国人財がやりがいを持って『長く活躍したい』と思ってもらえるよう、積極支援体制で受け入れを拡大します」と話します。
「五方よし」のニュービジネス(日旅)
日旅にとってグローバル人財活用推進事業は、旅行業を離れた新規事業です。セミナーでの報告によると、2020年のコロナ禍で旅行者が急減したのをきっかけに新しいビジネスとして発想されました。
歴史をたどれば日旅は明治年間の1905年、南新助が滋賀県草津市で創業。神社仏閣参拝を団体旅行に仕立て、参加者を募集しました。
社風に今も根付くのは、近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の精神。日旅は今回も、送り手、受け入れ機関(JR西日本など)、世間(社会)、本人、仲介会社(日旅)の「五方よし」の新規事業と胸を張ります。
2026年度以降も継続採用
採用の実際をみましょう。日旅は2024年6月、グローバル人財活用の事業化を正式決定。翌7月のベトナムでの現地募集では20人の応募があり、現地面接や家族面接で6人に内定を出しました。
2024年末に内定者と雇用契約。現地での日本語講習に続き、2025年5月には来日して専門機関で1カ月間、日本の生活に慣れた後、いよいよ翌6月、JR西日本テクノスに入社。鉄道の現場に立つことになりました。
ここからテクノスの人財育成スケジュールです。同社は1953年設立(創業時の太陽工業から関西交通機械をへて現社名に)、大阪府、兵庫県、山口県に支店、製作所などがあり、車両検修、車両用機器製造などを手がけます。
一期生6人は入社後、フォークリフトやクレーンの国家資格を取得し、2025年末に技能検定試験を受験。JR西日本、日旅、テクノスは、2026年度以降も継続採用する方針です。

草の根レベルでの日越鉄道交流に期待
日旅のグローバル人財協力国は、日本語学校や人財送り出し機関があるキルギス、ウズベキスタン、インド、ネパール、ミャンマー、ベトナム、インドネシア、スリランカのアジア8カ国です。ベトナムでは、ハノイ工業大学やホーチミン工業大学と人財協定を結んでいます。
ベトナムは親日国。全土に2500キロ超の路線ネットワーク(ベトナム鉄道公社の国有鉄道)がある鉄道国で、鉄道ファンもいます。新幹線、観光列車など日本の鉄道にも親しみがあります。
鉄道ファン目線でリクエストすれば、現場公開などの場でベトナム人一期生と日本の鉄道ファンが触れ合う機会を設けていただければ、草の根レベルでの日越の鉄道交流が深まるでしょう。

鉄道で活躍する外国人財が当たり前に
最後に一言。筆者は国鉄改革の1987年から1993年まで、JR西日本本社の青灯クラブ詰めの記者でした。1988年に新生JR一期生が入社。その中には3人の女性社員がいて、取材したことを覚えています。
長く男性社会だった国鉄を引き継いだJR、当初は「女性社員の育て方や使い方が分かっていない」と批判されたこともありました。しかし40年近く経過した現在、女性乗務員は当たり前の光景になっています。
2025年は「鉄道の外国人財スタート元年」。JR西日本や日旅の人財戦略が成果を挙げ、やがてJRの女性社員のように当たり前になる次の時代を思いをはせて、コラムを締めくくります。
記事:上里夏生
記事提供元:鉄道チャンネル
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