減税より現金給付? あんまり国民をナメるなよ!
参院選対策ミエミエの石破政権「大義なきバラマキ」、そもそも効果はあんの?
いくらなんでも雑すぎないか!? 7月に参院選を控える中、自民党から突如浮上したのは国民一律2万円の現金給付案。額のショボさもさることながら、選挙対策の下心を隠そうとしないのにも腹が立つ!
正しく怒るためにも、なぜ減税ではなく給付となったのか、そして実際に効果はあるのか徹底的に考えた!
■なぜいまさら現金給付?自民党が参院選の公約として打ち出した経済政策が賛否を呼んでいる。
石破茂総理は13日、すべての国民に一律2万円を支給するとともに、住民税非課税世帯の大人とすべての子供に2万円を加算する現金給付案を自民、公明党の公約に盛り込むよう指示。一方、消費減税については、財源確保の問題から見送るとしている。
これに対して世間の反応は冷ややかだ。週プレが有権者1000人にアンケートを取ったところ、約半数がこの政策に反対(Q1)。
賛成派、反対派それぞれに回答の理由を尋ねたのがQ2、Q3だが、反対の4分の1が「選挙対策の印象が強い」と回答。また、3割弱が「一時的な給付では根本的な解決にならない」とした。
では国民は何を望んでいるのか? 現金給付に反対した人に、求める経済政策を尋ねたのがQ4だ。上位に来たのは「消費税の減税」(54.4%)、「所得税や住民税の減税」(43.4%)、「社会保険料の減免」(35.2%)と、いずれも恒久的な支出減。「給付額の増額」はわずか5.3%しかいなかったことからも、現金給付の不人気ぶりがうかがえる。
そもそも自民党は4月にも一律3万~5万円の現金給付案を観測気球的に打ち出し、世論の激しい反発を受けて引っ込めた過去がある。そんな中でなぜ、再び現金給付案が浮上したのだろうか? 石破総理への取材歴も長い、ジャーナリストの鈴木哲夫氏が舞台裏を明かす。
「もともと石破総理は、消費減税も選択肢にあると語っていました。ところが消費税は確実な税収であり、一度下げてしまうと元に戻すことが難しいことから、財務省や自民党の族議員から待ったがかかったのです」
総理は財務省に借りがあった。高額療養費制度の上限額引き上げの見送りだ。
「高齢化による医療財政の逼迫から8月に引き上げが予定されていたのですが、反対の声が相次ぎ、3月に実施を見送ったのです。これは歳入減少を意味しますから、財務省は石破総理に貸しをつくったわけです。それもあって、消費減税は諦めざるをえなかったのでしょう」
では、現金給付案はどこから出てきたのか?
「森山裕(ひろし)幹事長、宮澤洋一(よういち)税調会長、木原誠二選対委員長ら財務省に近い議員が、1回限りの現金給付を進言したのです。石破総理は政権基盤が弱く、党内で総理を支える人が非常に少ない。そのため党内の議員に対しても常に気を配り、受け入れざるをえなかったのです。
また、減税を見送った後、参院の改選議員と公明党から『これでは選挙を戦えない』と突き上げを食らったのも大きい。その結果、目玉政策として定額給付金を公約に掲げるに至ったわけです」
■現金給付の効果は乏しいやはりというべきか、給付は選挙のためにこしらえられた〝妥協の産物〟だった。ただ、やる意義のある政策であれば文句はない。
10日には自民党の松山政司(まさじ)参院幹事長が「物価高に苦しむ国民生活をスピーディに下支えするには現金給付が非常に望ましい」と発言していたが、本当だろうか? 第一生命経済研究所の首席エコノミスト、熊野英生(ひでお)氏に聞いた。
「現金給付の効果は乏しいと思います。理由は単純で、使われないからです」
やっぱりですか!
「2023年の内閣府アンケート調査によると、新型コロナ禍で配られた定額給付金10万円のうち、支給5週前から10週後までの累積の消費増加効果は給付額の約22%でした。つまり10万円の給付金のうち、わずか2.2万円しか消費に回らなかったわけです」
お金は使われて初めて他人の給料になり、これが連なっていくことで給料が増加し、景気が良くなっていく。経済政策を考える上では、この好循環の基になるかどうかを見極めることが重要だ。
「日本の総人口である1億2334万人に加えて、18歳以下の1708万人に追加で2万円を配ると2兆8000億円かかります。このうち22%しか使わないとすれば、約6200億円しか消費に回らない。
住民税非課税世帯への2万円加算給付は約2800億円の規模になりそうですが、ふたつを合算しても、消費に回るのはせいぜい6000億円台止まり。つまり総額で3兆1000億円弱を使ったのに、GDPを0.1%押し上げる効果にしかならないということ。これでは費用対効果が低すぎます」
石破総理は13日、「決してバラマキではない」と弁明したが、熊野氏は「失敗することがわかっている定額給付を行なうのは、選挙対策でしかない」と斬って捨てる。
経済評論家の佐藤治彦氏も、
「現金給付にはプラスのことがほとんどない」と批判する。
「2万円給付に所得制限がついていないのも問題ですが、さらに問題なのは住民税非課税世帯に2万円を上乗せすること。というのも、住民税非課税世帯には2種類あるんです。
ひとつは住民税が支払えないほど生活に困っている人。ここに現金を給付することには意味があります。しかし住民税が課税されない世帯というのは、働かなくても困らない大金持ちも含まれます。そこに2万円を給付することに合理性はまったくありません。
ところが住民税非課税世帯というと、なんとなく困っているイメージがあります。それを利用した政策なんでしょうが、ポピュリズム以外の何ものでもないと思います」
支援が必要な貧困層のみに給付する政策は、決して不可能ではないと佐藤氏は言う。
「マイナンバーカードを活用すればいいんです。公明党はマイナポイントで給付する考えを示していますが、理にかなっている。これを機にマイナンバーカードを普及させ、今後は各人の実態をきっちり把握した上で給付先を選別すべきでしょう」
そもそも、財源に問題はないのか。再び熊野氏に聞いた。
「自民党は上振れた税収を充てると語っていますが、まだ国の決算が出ていないので、いくら上振れるかわからないですよね。仮に昨年分が上振れたとしても、今年分は下振れるかもしれない。上振れ分は使うが下振れ分は気にしないというのは無責任ではないでしょうか」
また、もらえる時期も気になるところだ。
「自公は年内にと言っていますが、そうなるかは不透明です。定額給付を実現するには、秋の臨時国会で補正予算を組むことになります。
ところが衆議院では相変わらず少数与党ですから、野党は再び給付に反対し、減税で攻めて問題を再燃させるでしょう。それを世論が支持すれば、そう簡単には進まない。給付の実施は年を越すかもしれません」(鈴木氏)
■お米券を配ってくれ!制度設計から財源まで、とにかく雑! これが自民現金給付案の端的な評だ。では与党は今、何をすべきだろうか? 佐藤氏はこう言う。
「現金給付をするくらいなら、消費減税のほうがよっぽどいいと思います。ただ、一部の党が説いている『消費税0%』はあまりに実現性が乏しすぎる。地に足の着いた議論が必要だと思います。
私はすべてのものを減税すべきだとは思いません。例えば食品でも、キャビアやフォアグラ、松阪牛といった高級食材を減税しても仕方がない。むしろこうしたものは、10%追加で課してもいいとさえ思います。
逆に生活に必要な米や食パン、味噌といった品目は減税するべきでしょう。食品以外で言えば、月間契約30アンペアまでの家庭の電気代や公共交通機関の料金なども減税していいと思います。
線引きは難航するはず。でも今、本当に議論すべきは『給付か、減税か』といった大づかみな二者択一ではなくて、『生活に必要な、減税すべき品目は何か』といった具体的な内容ではないでしょうか」
鈴木氏も、フレキシブルな消費減税を推す。
「消費増税の際に軽減税率を導入したことを今こそ生かすべきです。せっかく複数税率になっているのだから、物によっては景気に合わせて税率を上げ下げしたり、なくしたりすればいいんです。
生活に強く関わる品目は下げる、それ以外の品目は変えない、あるいは上げる。景気が戻ったら税率を元に戻す。複数税率が導入されている以上、このような議論から逃げないでほしいと思います」
一方熊野氏は、ふたりと違って消費減税にも消極的だ。
「消費税は社会保障費の財源であり、代替財源がないので、責任政党がやるべきではないと私は考えています。もちろん給付にも反対。とはいえ、物価高に対する生活支援は必要だと思います。
優先すべきは米価の安定です。小泉進次郎農林水産大臣の旗振りで米の値段を下げようとしていますが、石破政権はまずこれを成功させることが第一。
そして、今本当に必要なのは輸出業に対する支援です。関税で大きな打撃を受けることになりかねないので、この部分は死守しなければならない。予算はここに使うべきだと思います」
どうしても選挙対策で生活支援をしなければならないというなら、という留保をつけた上で、熊野氏はお米券の配布を提案する。
「総世帯5500万世帯に対して、有効期限年内のお米券1万円分を配るのがいいでしょう。世帯平均で年間に2万7000円程度がお米の購入に使われているので、その3分の1を補助することになり、米価急騰によるコメ離れを防ぐことにもなる。
何より必ず使われるので経済効果が確実。諸経費込みで6000億円で実現できるお米券配布が、3兆1000億円弱の定額給付とほぼ同じ経済効果を持つのだから、こちらのほうがはるかに筋がいいと思います」
そもそも、バラマキの元となった「税収の上振れ分」とは、われわれが払った血税だ。それを熟議を経ずに、選挙に勝つためにバラまいて国民に返すんだったら、政府が税を集める意味がないのでは? こうした姿勢に国民がウンザリしていることを、政治家は直視してほしい!
取材協力/日野秀規 写真/iStock アンケート協力/アイブリッジ
記事提供元:週プレNEWS
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