トランプに反旗を翻した"イーロン・マスクの乱"。次の一手は「脅迫」!?
イーロン・マスク(左)とトランプ大統領。蜜月から一転、繰り広げられる激しい舌戦。カギを握るのはトランプ政権内の機密情報――
トランプに近づき、政権の内側に入り込んだイーロン・マスク。しかし、政府を離れた途端、トランプを糾弾しまくり! 世界最強のカネと情報を操る男は、次に何を仕掛ける?
■イーロン・マスクは政界で何をしたのか第2次トランプ政権のスタートから約半年。ドナルド・トランプとイーロン・マスクの蜜月関係が突然終わりを迎え、今のアメリカを象徴するモンスター両巨頭の全面戦争が始まった。
きっかけは、トランプ大統領が議会に提案した「ワン・ビッグ・ビューティフル法案」をマスクが「吐き気がするほど醜悪な法案だ!」と痛烈に批判したこと。
肝いりの「ビューティフルな法案」を公然と批判されたことで大統領の怒りが爆発。
「イーロンは裏切り者の薬物中毒患者だ!」(トランプ)
「誰のおかげで大統領になれたんだ? 恩知らず!」(マスク)
と激しい舌戦が続いている。
「表面上、親密さをアピールしてきたトランプとマスクですが、その実態は同床異夢。いずれ両者が対立するだろうと考えていた人は多いと思います」と語るのは、アメリカ在住の作家でジャーナリストの冷泉彰彦(れいぜん・あきひこ)氏だ。
「マスク自身も語っているように、彼が第2次トランプ政権誕生の最大の立役者であるのは間違いありません。
彼は昨年の大統領選で2億6000万ドル(当時のレートで約394億円)以上の資金を投じて、トランプの勝利を実現しただけでなく、事実上、債務超過に陥っていたトランプファミリーのビジネスを立て直した救世主でもある。
こうしてトランプ政権の内側に入り込んだマスクは、新設された政府効率化省(DOGE)を率いて、連邦政府支出の大幅な削減に着手。
就任からわずか1ヵ月で政府職員を1万人近く解雇するなど、その荒っぽい手法で批判を浴びましたが、マスクの本当の目的は、彼が以前から"天敵"と見なしていた規制官庁の解体と、さまざまな連邦政府機関の情報システムへのアクセス権限を得ることだったのだと思います」
だが、マスクは当初「連邦支出を2兆ドル削減する」と豪語していたにもかかわらず、その後、削減目標は1兆ドル、さらに1500億ドルへと引き下げられ、5月末にマスクが退任するまでにDOGEが実現した歳出削減はこれを下回っているともいわれている。
その一方で、マスクによる強引な支出削減や政府職員の解雇への批判から、テスラの売り上げと株価が急落。マスクは歳出削減と引き換えにトランプ政権の"汚れ役"を押しつけられた格好だ。
■マスクの資金力が必要なくなった「しかし、そうしてマスクが強引に実現した歳出削減が、大規模な減税とバラマキ政策である今回のワン・ビッグ・ビューティフル法案で台無しになり、連邦政府の赤字が2.4兆ドルも増えると試算されていますから、マスクが怒るのは無理もありません。
それ以前にも、トランプ政権を支える保守層や経済・通商政策を巡るベッセント財務長官との衝突、NASA長官の人事案を巡る対立など、マスクとトランプの溝は水面下で深まりつつありました。
しかし、私は今このタイミングで、両者の対立が表面化した背景には"別の理由"もあるのではないかとみています」
それは、大統領就任からわずか半年足らずでトランプファミリーが築き上げた、巨大な集金システムの存在だ。
「トランプファミリーは今年1月、大統領就任直前に$TRUMPという仮想通貨、通称『トランプコイン』を立ち上げ、最初の3週間だけでも、コインの価格高騰や販売・取引手数料で3億5000万ドル(約506億円)以上を稼いだといわれています。
トランプコインは『ミームコイン』と呼ばれる暗号資産ですが、現時点では金融資産としての法規制が存在しないグレーゾーンのもの。
トランプファミリーはこれを、大口購入者を対象にしたVIPディナーや、購入額上位25人向けの『ホワイトハウスツアー』など、どう見ても職権乱用としか思えない特典と共に販売し、中国や中東などの外国人も含む匿名性の高い投資者から数億ドルをかき集めています。
また、並行してトランプ・ジュニアが展開する『ワールド・リバティ・ファイナンシャル』という暗号資産ビジネスや、2025年の第2四半期だけでも4億ドルを超えるといわれるオンライン献金など、わずか半年の間に巨大な集金システムを築き上げてしまった。
マスクとの決裂も、いわば『金の切れ目が縁の切れ目』で、トランプが自前の集金システムを築き上げたことで、以前のようにマスクの資金力に頼る必要がなくなった。
それに感づいたマスクが、『向こうから切られる前に自分から切る』形となり、今回の関係悪化につながったのだと思います」
今年1月にリリースされた仮想通貨「$TRUMP」(通称「トランプコイン」)。これによってトランプ一家の財政は健全化され、イーロン・マスクの資金力は用なしに?
大統領としての強大な政治権力を持つトランプと、世界有数の資金力+最先端のテクノロジーでメディア(情報)を操るマスク。共にエキセントリックな性格で負けず嫌いなふたりの対立は、今後どのような展開を見せるのか?
「自分に歯向かう相手は徹底的に叩き潰すトランプ。すでに『イーロンの持つ企業との契約を見直し、補助金もカットする』と発言していますが、今後、あらゆる手段でマスクに攻撃を仕掛ける可能性はあるでしょう」
だが、一方のマスクも負けていない。両者の対立が表面化した直後にはマスクが「(自分が率いる宇宙企業)スペースXは、宇宙船クルードラゴンを退役させる」と発言。
後にこの発言は撤回したが、今やクルードラゴンはアメリカが使える唯一の有人宇宙船で、NASAの宇宙開発はスペースX抜きでは成り立たず、軍事面でも同社が提供する衛星通信網、スターリンクに依存している状態だ。
「その上、マスクはDOGEでの活動を通じてさまざまな政府機関のシステムにアクセスし、その過程でトランプに不都合な情報をひそかに収集している可能性もあります。
もちろん、政府機関の情報を外部に持ち出して公然と脅しの材料に使うことは違法行為ですが、トランプはむやみに攻撃できなくなりますし、メディア操作力に長けたマスクならいろいろな使い道はあるはず。もしかしたらトランプはそれを一番恐れているかもしれません」
両者の戦いは今後、さらにヒートアップするのか? それともどこかで手打ちをし、再び仲良しになるのか? 一部で「マスクが新党を立ち上げる」といううわさもあるだけに、トランプ対マスクの今後から目が離せない。
取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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