固定電話の「全国一律提供義務」が廃止!インフラとしての固定電話はどう変わる?

シニア世代の方にとって、固定電話は長年暮らしの中で大きな存在となってきたのではないでしょうか。遠く離れた家族の声を聞くためのインフラであり、地域のコミュニティや社会との繋がりを保つための、信頼できるライフラインとしても機能してきた固定電話。1996年には回線数のピークを迎えています。

この固定電話サービスに関して、大きな変化が訪れようとしています。それが「全国一律提供義務」の廃止です。この言葉自体が耳慣れないかもしれませんが、簡単に言えば、「これまで日本のどこに住んでいても、NTTが固定電話サービスを提供してきたルール」のことです。
では、この長年続いた「当たり前」がなくなることで、私たちの固定電話利用、特にシニア世代の皆様の生活には、どのような変化が訪れるのでしょうか。「電話が使えなくなるの?」「料金はどうなるの?」「田舎や離島でも大丈夫?」といった、さまざまな疑問や不安が頭をよぎるかもしれません。
「固定電話の全国一律提供義務」の廃止について、今回は詳しく見ていきましょう。
シニア世代にとっての固定電話の重要性
たとえば総務省の令和5年「通信利用動向調査」を見てみると、全体の固定電話保有率は57.9%である一方、年齢階層別に見ると高齢になるほど保有率が高い傾向が続いています。
携帯電話やスマートフォンを所有していない、あるいは持っていても通話やメールといった基本的な使い方に留まる方々にとって、固定電話は依然として主要な連絡手段です。
迷惑電話や詐欺電話への不安を感じつつも、友人知人、病院やかかりつけ医、自治体からの重要な連絡を受け取る手段として必要不可欠と考えている方もいます。
つまり固定電話はシニア層にとってはまだまだ主流の通信手段の1つであり、固定電話が地域のコミュニケーション手段や、高齢者の安否確認の手段として機能してきた地域では新しい通信手段への移行が必要になった場合、操作の習得やそれに伴う費用負担が新たな課題となることも考えられます。
そして「新しい通信手段への移行」はシニア層にとっても段階的に求められる内容になりつつあります。
「全国一律提供義務」とは何だったのか?

2025年5月21日、改正NTT法が参議院本会議で可決・成立しました。この法改正の柱の一つが、NTT東西に課せられていた固定電話サービスの「全国一律提供義務」の廃止です。
「全国一律提供義務」とは、その名の通り、NTT東西日本(以下、NTT)に対し、日本全国どこであっても、公平な条件で固定電話サービスを提供するよう義務付けていた制度。過疎地や離島など、採算が取れない地域でも例外なく適用されてきました。
背景には、固定電話が社会インフラとして国民生活の安全や利便性を支える「ユニバーサルサービス」として位置付けられてきた歴史があります。そのため、NTTは莫大なコストをかけて全国に電話網を維持し続けてきましたが、近年は携帯電話やインターネットの普及により固定電話の利用者が減少し、事業の赤字が深刻化していました。
なぜ今、「全国一律提供義務」が見直されるのか?

見直しの最大の理由は、固定電話の利用者減少と事業の採算悪化です。スマートフォンやIP電話の普及により、先述した通り固定電話の契約数は減少の一途をたどっています。一方で、山間部や離島など採算の取れない地域にもサービスを維持し続けることは、NTTにとって大きな負担となっていました。特に固定回線サービスを提供するためのメタル回線の維持管理にかかるコストも非常に大きなものでした。
こうした現状を踏まえ、政府はNTTに課していた全国一律の固定電話提供義務を「他に通信事業者がいない地域」に限定することで、規制の合理化と通信インフラの効率的な維持を目指すことにしたのです。
「廃止」で固定電話は本当になくなるのか?
全国一律提供義務の廃止によって、固定電話サービス自体がすぐになくなるわけではありません。都市部や競合事業者が存在する地域ではNTTの提供義務がなくなりますが、他にサービスを提供できる事業者がいない地域については、引き続きNTTが「最終保障提供責務」としてサービスを維持することが法律で定められています。
また、固定電話の基盤となる通信インフラも、災害時のセーフティネットとして重要視されており、国としても通信環境の確保に配慮がなされています。そのため、利用者が急に固定電話を使えなくなる心配はありません。
INSネット(ISDN)はどうなる?
固定電話のインフラは従来、INSネット(ISDN)にも役立てられてきたと言えます。シニア世代の中には、パソコン通信のホスト局にアクセスしたり、初期のウェブサイトを閲覧したりするために、INSネットの周辺機器を揃え、ダイヤルアップ接続を経験された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
INSネットはそれまでの電話回線(アナログ回線)とは異なり、電話線(メタル回線)を使いながらも、音声やデータをデジタル信号としてやり取りする画期的な技術でした。
加えて、1本の回線で2回線分利用できるため「電話で通話をしながら、もう一方のチャネルでFAXを送受信したり、パソコンをインターネットに接続(ダイヤルアップ接続)したりする」という、当時非常に便利なものでした。
一方、ISDN(INSネット)は、2024年1月をもって主要サービスが終了し、今後は固定電話網全体がIP網へと移行。個人利用の場合は、特別な対応をしなくても従来通り固定電話を利用できることが多いですが、業務用でISDNを利用している場合は、早めの確認と対応が必要となります。
固定電話の一律提供義務廃止に当たって一般消費者がすべき心構え

こうした制度変更の際には、それに便乗した悪質な勧誘や詐欺行為が増加する傾向があります。「固定電話が使えなくなるので、新しい契約や機器が必要です」「今なら無料で交換できます」といった電話や訪問販売には、絶対に応じないでください。
NTTや関連会社の職員を名乗る場合でも、安易に個人情報を伝えたり、よくわからないまま契約書にサインしたりすることは避けましょう。少しでも不審に思ったら、ためらわずにNTTの公式な相談窓口や、お住まいの自治体の消費生活センターに確認・相談してください。

今回の変化を機に、ご自身の現在の固定電話の利用状況(どれくらいの頻度で、誰と、どんな目的で使っているかなど)を客観的に見直してみるのもよいでしょう。
たとえば将来的にスマートフォンへの移行などを考える場合、総務省が推進するデジタル活用支援推進事業により、自治体や携帯電話ショップなどでスマートフォン教室が開催されています。基本的な操作方法から教えてもらえる良い機会のため、教室に通ってみるのも一案です。
※サムネイル画像は(Image:「photoAC」より)
記事提供元:スマホライフPLUS
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