鉄道・航空会社が"制服ルール"を続々緩和中。令和の「身だしなみ問題」の結論は?
ガチガチだったルール、マナー、常識が緩和されると「かえって迷う」という人も?
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「身だしなみ問題」について。
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東京メトロの制服ルール緩和発表は清々(すがすが)しかった。ネクタイの着用義務をなくし、ピアスも許容、暗色スニーカーや毛染めも許可するとした。男性のピアスやマニキュアも基準の範囲内で可能だ。人手不足と多様化への対応だ。また他の鉄道・航空会社にもスニーカー着用を認める動きがある。
たった数年前には女性のハイヒールやスカートの着用義務の議論がまだ割れていて、アクセサリーはもちろんダメ、「冷たい印象を与える」との理由(笑)でメガネを禁止する小売店まであった。そのころ、英ヴァージン・アトランティック航空は女性乗務員がノーメイクでもよいとした。彼我の差を考えさせられたものだ。
服装による区分とは階級の区分だった。ホワイトカラーは汚れない仕事の象徴で、ブルーカラーは汚れてもよく頑丈なブルーデニムを穿(は)いていた。両者が融解し、身体装飾も含めて多様化するのは世界の流れだ。
ところで私はメタルを愛聴している。タトゥーの入ったバンド関係の知り合いが多い。一緒に歩いていると職務質問されることがある。だから「人を見た目で判断するんじゃねえ! 職場でもすべて自由だ!」と主張したいかというと、そう単純でもない。おそらく警察官も過去の自身の脳内データベースから犯罪者を割り出そうと必死のはずだ。
保守的な経営者が従業員の制服と黒髪・清楚(せいそ)を強要するのも、それがお客のためであり、収益や利益が最大化すると考えるゆえだろう。私の中学校時代、男子生徒をスポーツ刈りにさせる意味はなかったと思うが、それも先生が当時の価値観に沿って生徒のためにやったことだろう。
職場の服装がラフになると、生産性が向上し、社員同士の結束が固まり、さらにクリエイティブになった、とする報告がある。いっぽうで、売上低迷や教育費増大をもたらすとするものもある。
さすがに私のようなコンサルタントがメタルTシャツを着て提案書を持ってきたら採用しないだろう。中身で判断できないクライアントが悪いというのは簡単だが、中身なんて短時間でわかる? じゃあノーネクタイはいいのか、ポロシャツはいいのか。それは結局、時と場合と文脈によるはず。
大企業にいた時代、飲みに行くと飲食店スタッフの格好や接客態度にいつも悪口をいう先輩がいた。その先輩と米国に出張した際の話だ。ファストフード店で注文すると、全身タトゥーに鼻ピアスで赤髪の白人女性店員が、「ハーイ」と笑顔でドーナツを投げてきた。先輩は「せ、せんきゅー」といった。笑った。
なぜ先輩は怒らないのか。「そういうもんだから」。そう、結局は社会が許容度を決める。絶対的な基準はなく、移ろいゆく。
大企業が身なりの規則を緩めたことは、そのニュースが広がり各人が意見を述べること自体に意味がある。コメント欄を読めば現時点の世間許容度がわかる。
いっぽうで、私が私淑しているコンサルタントの故・一倉定(いちくら・さだむ)さんがもし打ち合わせにTシャツで来たとして、「スーツを着ていないのですか。それなら仕事を始める前に相見積もりを取ります」といったら、「帰れ」と怒られたはずだ。社会の変化が待てないなら、服装に関係ない人になればいい。そうだ、黒ずくめのヨウジヤマモトを身にまとって仕事ができるようになろう!
記事提供元:週プレNEWS
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