10年間で平均99ヤードアップ 女子ゴルフ界でも進む“パワーゲーム化”…選手そして協会は何を思う?【現地記者コラム】
「以前はある程度ドライバーを飛ばせばどうにかなっていたけど、今はそうはいかないですよね。飛んで曲がらないように打たないといけないし、そこは全然違うところ。飛ばせばいいというわけではないし…難しくなっていますよね」
これは先週行われた国内女子ツアー「パナソニックオープンレディース」開幕前にプロアマを終えたばかりの藤田さいきに、最近のトーナメントコースについて聞いた時に返ってきた答えだ。同大会は前年の6669ヤードから82ヤード総距離が延び、6700ヤード超えの6751ヤードに設定された。このプロツアーにおける“パワーゴルフ化”は、近年の流れのひとつでもある。
日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)によると、パー72の大会の平均総距離は2014年の6486ヤードから、昨年が6585ヤードと、ここ10年で“99ヤード”延びている。もちろん、これはあくまでも平均で“すべての大会で”ということではない。それでも昨年の「日本女子オープン」(茨城県・大利根CC西C)は6845ヤードで争われるなど、それが顕著な大会も増えてきている。ちなみに、西郷真央が優勝した海外メジャー「シェブロン選手権」も、最終日は6837ヤードに設定されていた。
10年にはメジャー大会も制している通算6勝の実力者・藤田も、この“長距離化”を肌で感じている。「ここ5~6年くらい」は、それが顕著になってきたとも振り返る。先週は棄権することになったが、39歳にして今季ドライビングディスタンスで241.17ヤード(23位)を記録する飛ばし屋のひとり。ただ、パナソニックでは4カ所あるパー5、すなわち3番(524ヤード)、9番(516ヤード)、15番(559ヤード)、17番(530ヤード)については、「全部長いです。つら~い。きついですよー」と、その口調こそ冗談っぽいが、本心ものぞかせた。
とはいえ、そこはプロ。無策ということはない。実際、この流れに対抗するため“飛距離”を追い求めた時期もあったという。ただ、行きついた先は「限界はありますよね」という至極、当然ともいえる考え。「毎ショット、ずっと飛ばせるわけではないですもんね。(パナソニックのプロアマで)後ろの組を振り返るたび、(1組後だった)穴井(詩)さんの飛距離を見て『いいな~、これくらい距離があったら楽だろうな』って思ってました」。もちろん、“ゴルフは上がってなんぼ”ではあるが、やはり飛距離がかつてよりも魅力的に映っているのも事実だ。
同大会のコースセッティングを担当した中野晶にも、近年のこの流れについて話を聞いた。まず協会の根底に流れているのは「いろいろな特色を持ったコースに合ったセッティングで、選手たちに力をつけていって欲しい」という考え。例えば距離が長いコースでは、それに応じた戦い方をしてもらいたい、というのが願いだ。
この話をするうえで、道具の進化を切り離すことはできない。「クラブ、ボールの飛距離が出るようになり、グリーンを狙うショットでも(性能で)高さが出る。飛んで止まる道具が出てきているのが、大きな要因だと思っています」。コースの長さだけでなく、その恩恵を受ける選手たちの飛距離も年々伸びている。例えばR&AとUSGAが28年からボールを規制することをすでに発表済みだが、メーカーの開発力は日進月歩。なにより、「私もプレーヤーですから、飛ぶ道具が欲しいし、それがゴルフ界のためでもある」と中野も話すように、その進化も競技の魅力につながる大事な要素といえる。
つまり不可避ともいえる流れの中で、選手たちはこれからも戦い続ける必要がある。そして藤田は、「届かない時は、『届かなくてもいいや』と思ってやっています。届かないなら届かないで、対応するだけ」という考えのもと、引き出しにある技術や知識を駆使し、スコアを作っている。とはいえ、こんな声もポツリ。「7000ヤードまでいったら…無理だな(笑)」。ただ、もしもこれが現実になったとしても、「毎週やられたらきついけど、仕方ないので、そうなったらそうなったでやるしかない」と腹をくくる覚悟はできている。
さすがに中野は「女子で7000ヤードは、近い未来ではないと思いますよ」と言う。とはいえ、これからも「飛距離だけ延ばせばいいというわけではない」という前提はあるが、「今から木のドライバーに戻ることもないし、そこはメーカーと張り合いながら。選手の技術が上がって、ギャラリーのみなさんに楽しんでもらい。『あんなに飛ぶのか』、『あんなにうまいのか』という大会を作っていきたい」と、現在の流れは続いていくという見通しを立てる。
さまざまなコースを転戦するツアーにおいては、それぞれの大会にそれぞれの狙いや役割がある。プロが驚異的に飛ばすための技術には羨望のまなざしが向けられるが、一方で身長153センチの古江彩佳がメジャータイトルを勝ち取る姿も痛快で、それもツアーの大きな魅力だ。
ちなみに藤田は、「ゴルフを始めた中学生の頃から、お兄ちゃんにかまってもらいたくて、バックティでプレーしてたんですよ。その時も『長いなぁ』って思っただけで、ちょっと長いパー4はパー5だと思ってやってました」という“処世術”にも長けている。道具とコース、そして選手の“三つ巴関係”は、どういう進展を見せていくのだろうか?(文・間宮輝憲)
<ゴルフ情報ALBA Net>
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