ろう者VSクルド人のコメディ 河合健監督「みんな、おしゃべり!」公開決定

言語・コミュニケーションの格差の下で繰り広げられる小競り合いを描いた、河合健監督のコメディ映画「みんな、おしゃべり!」が、2025年11月下旬より劇場公開されることが決まった。
「みんな、おしゃべり!」は、電器店を営むろう者の父と弟、聴者の夏海の古賀家と、同じくその町に暮らすクルド人一家が、ささいなすれ違いから対立してしまうコメディ。両者の通訳として駆り出されたのは、夏海とクルド人一家の中で唯一日本語が話せるヒワだった。お互いの家族の通訳を行う中で、二人の間には次第に信頼関係が生まれるが、両家の対立は深まるばかり。そんなある日、夏海の弟の駿が描いた謎の文字が、町を巻き込む事態へと発展し、想像を超えた結末を迎える。
監督は、「なんのちゃんの第二次世界大戦」などの河合健。親がろう者のCODAである河合監督が、日本手話とクルド語を題材にしたオリジナル脚本で、消滅危機言語、コミュニケーションの問題に取り組んだ。
出演者は登場人物と同じ第一言語に属する人物をキャスティングした。主人公のCODA(Children of Deaf Adults/ろう者の親を持つ聴者の子どもの意)の夏海役は映画「愛のゆくえ」の長澤樹、父の友人役にはドラマ「デフ・ヴォイス」の那須英彰、同じく父の友人役として映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」の今井彰人、街おこしを計画する団体職員役に板橋駿谷、ろう学校の先生役として小野花梨が参加している。また、西日暮里でラーメン屋を営む麺屋「義」の店長でろう者の毛塚和義が、夏海の父・和彦役で演技に初挑戦する。
河合健監督らのコメントも公開された。コメントは以下の通り。
【コメント】
■監督:河合健
映画の登場人物たちと同じように、日本語・日本手話・クルド語が入り乱れ、ああだこうだと言い合う現場でした。言葉の壁を乗り越えるというよりは言葉の壁を使って遊ぶような日々でした。
みんなが一つになるわけではなく、それぞれにしか分からないこと、譲れないものがあり、それらを受け入れながら進んだ結果、とんでもないものが撮れました。改めて、素敵なスタッフ・キャストに感謝しています。
また、本作では字幕も表現の一部です。いわゆる「バリアフリー」ではなく、「バリア」を活かしたオリジナルの字幕を作りました。それぞれの第一言語を持つ観客にしか見えないもの、感じ取れないものがあり、その“ズレ”や“抜け落ち”こそが、この映画の核になっています。
前の席や隣の席に座る異なる文化・言語を持つ観客の反応も含めて、楽しんでもらえたら嬉しいです。
■ろうドラマトゥルク・演技コーチング:牧原依里
本作では、初めて演技に挑戦するろう者や子どもたちを中心に、演技コーチングを担当しました。またドラマトゥルクとしても、河合監督と対話を重ねながら、作品の方向性を模索し、監督の意図を汲み取りながら並走してきました。
初めて脚本を読んだ際、冒頭のシーンをみて「これはすごいことになる」と直感したのを今でも鮮明に覚えています。河合監督ならではのユーモアあふれるアプローチで、これまで誰も正面から扱ってこなかった、いわば“タブー”とされてきたテーマに、ウィットに富んだ視点から果敢に挑んでいます。脚本を読んだ段階では理解しきれなかったラストシーンも、今では私がもっとも愛する場面のひとつとなりました。ここまで多言語を本質的に取り入れた映画作品は、かつてなかったのではないでしょうか。
実は、字幕の見せ方ひとつをとっても長い議論を重ねてきました。最終的にどのような形になったかは、ぜひ劇場でご覧いただけたらと思います。
この作品は、まさに“私たちがこの社会をどう生きているのか”を映し出すものです。映画界のみならず、ろうコミュニティにおいても語り継がれる一本になると確信しています。
■クルド表現監修:ワッカス・チョーラク
言語をテーマにした作品で、クルド語が描かれると知った時、とても嬉しく思いました。在日クルド人二世の言語問題、また出身地によりトルコ語・アラビア語に分かれたクルド人のリアルな現状を切り取りつつ、映画ならではの驚くような展開が待ち受けています。深刻化する世界の分断や言語の壁を、シニカルにユーモラスに描いた素晴らしい作品です。ぜひ映画館で楽しんでください。
【作品情報】
みんな、おしゃべり!
2025年11月下旬より、全国順次劇場公開
企画・配給・製作プロダクション:GUM株式会社
©2025映画『みんな、 おしゃべり!』製作委員会
記事提供元:映画スクエア
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