【不定期対談】天竺鼠の川原と。浅野忠信「浅野さんは太陽側の人なのか? 闇側の人なのか?」(前編)
天竺鼠の川原克己さん(左)と俳優の浅野忠信さん
お笑い芸人、絵本作家、映像監督、俳優など、ジャンルを飛び越えて唯一無二の存在感を放つ天竺鼠の川原克己さんが、各界のアーティストとお互いの創作活動についてさまざまな言葉を交わす対談企画。
今回のゲストは俳優として国内外で活躍する一方、音楽活動や絵画制作にも精力的な浅野忠信さんです。
■初対面で「ナスビ持ってないんですか?」川原 僕は昔からあんまり人を好きにならないんですけど、お会いする前からずっと浅野さんのことが好きなんですよ。で、浅野さんが出てたテレビを見ていたら、気になる芸人として僕の名前を挙げてくれていて。どうしてもうれしいという気持ちを伝えたくて、その後手紙を出しました。
1枚目に「大好きです」ということ、2枚目に変な絵を描いて送ったら浅野さんから返事が来て、もちろん今も大事に持ってます。浅野さんも2枚目にいっぱい絵を描いてくれて、さすがだなと。それが最初のコンタクト。
浅野 僕は『あらびき団』(TBS)で川原さんを知ったんです。たまたま見ていたら、川原さんが僕のモノマネをしてくれてたんですよね。まず僕のモノマネをする人なんていないからビックリしたし、うれしかったです。
そこから気になって追ってみたら、めちゃくちゃおもしろくてすごくツボにはまって。「ほかの方と違うな、何を起こすかわかんない人だな」と思っていたから、手紙が来たときも「あぁ、やっぱすごいな」と。
川原 いつかお会いしたいなと思っていたら、後日、東京駅の改札でたまたま会ったんですよ。僕はあんまり人を見て歩かないのに、浅野さんはすぐにわかった。
浅野 覚えてます。本当に偶然。すごいですよね。
川原 初めて挨拶したときもやっぱりおもしろかった。「初めまして」に対して、「ナスビ持ってないんですか?」って。初めて会ったのに「早くナスビをかぶらせてくれ」みたいな(笑)。
僕、あのときナスビを持ってなかったことを後悔して、あれから仕事じゃないときでも持つようになったんですよ。別れてから電車の中で泣きそうになって。初めてですよ、ナスビ関連で眠たくないのに泣くの。普通に「悔しい......っ」って。
浅野 うれしいですね、それ......。失礼ですけど、「こんなに接しやすいんだ」って思ったんですよね。芸人さんって怖い人ばっかりじゃないですか。僕が「あっ!」ってうれしい顔をするから、それが嫌なんだろうなってわかるんですよ。だいたいみんなに距離を置かれるから......。こうやってまともに話してくれるの、川原さんだけですよ。
川原 (笑)。それは芸人側も緊張してるんじゃないですか? 僕は、自分がおもしろいと思うものをやって、それを皆さんに好きか嫌いか勝手に判断してもらうって感覚やから、ネタをするときって緊張も何もしないんですよ。
でも、浅野さんが単独を見に来てくれたとき、ちょっと間が変わったというか......。「いい芝居するな」ぐらいのことを思われたいとかがよぎって、めっちゃ緊張したのよね。
浅野 いやぁ、本当ですか。緊張させてしまってすみません(笑)。単独ライブ以外にも、個展も行っていろいろかぶらせてもらいましたし、YouTubeも最後まで見て、「なんにも起きなかった!」とか思ったり(笑)。あと、(ネルソンズの)和田まんじゅうさんとかと地元を訪れるのも......。
川原 大崎町役場のチャンネルも見てるんですか!? 時間を大切にしてください(笑)。僕ももちろん浅野さんの個展に行かせてもらったし、浅野さんのお母さまの個展にも。
初めてお会いしたときに、お母さまとハグさせてもらったんですよ。「浅野さんを産んでくれてありがとうございます」みたいなこと言っちゃいましたもんね。
浅野 ありがとうございます、本当に。喜んでました。
川原 LINEのやりとりなんかでも、浅野さんに対して失礼うんぬんよりも好きが勝っちゃうから、ふと「愛してるよ」とか送っちゃって。
浅野 はい。そんなこと送ってくれる人いないですよ。
川原 で、浅野さんも関係ないときにギフトとか送ってくれて。「これでコーヒー飲んでください」みたいな。
浅野 僕も「(変なこと)やっていいのかな?」って思って、やらせていただいています(笑)。ちゃんと受け止めてくれるのがうれしくて。
川原 LINEの画面見てめっちゃ笑ってますよ。「何してんねん、この人」って。
■浅野忠信の生き方は"ロウソク"川原 こんな格好で「誰が言ってんの」って感じですけど、「何を考えてる方なんだろう、不思議だな」って思っていて。役によってキャラクターは違うけど、どの役も奥に闇があって、そこを出さずにいるように見えたから、奥を知りたいなとずっと思ってたんです。
でも、いざ会ったら、いい意味で「こんなに奥がない人なんか!」って。闇の人かなと勝手に共感してたんですけど、ピュアで明るい太陽みたいな人だったんです。
浅野 でも僕、太陽側じゃなくて闇側らしいんですよ。この間、算命学で「あなたは火に属する人だけど、ロウソクみたいな火のほうだから闇の人です」って言われて。
川原 あぁ、だからか、ピンときた! 奥に闇がある気がするのに、会ったらまぶしくて明るいのってロウソクの火や。電気ってずっとついたままで明るいけど、それ自体を見ることには別に興味ないし、飽きるやん。
でも、確かにロウソクってずっと生きてるわけやん。揺れとか、どんどん減っていくのがカッコいい。年取って老いていくけど、炎の大きさは変わらず、なんならちょっと大きくなりながら......。
これが浅野さんの生き方や。作品はもちろんやけど、僕はやっぱり浅野さんの生き方が好きなんですよ。「やらないといけない」ではなくて、「やらないときはやらない、やるときはやる」みたいな、好きなことをやっていらっしゃるような。
その生き方が役にも出てるような気がする。僕も好きなことして死んでいきたいから、そのへんに共感するというか。
浅野 うれしいですね。でも、本当にそうです。ヒーロー役なら、みんなの前に立って引っ張っていかなきゃいけないけど、僕の役って、どっちかっていうと悪者系とか怒られる側の役が多いんで、現場でも怒られていいと思ってるんです。
そういう意味では、やっちゃいけないことをやるほうがおもしろいんじゃないか、って思うときもありますね。
川原 それも同じです。たまたま僕も最近、算命学で見てもらったんですよ。僕は「超壊し屋の珍しい星」って言われました。
浅野 へぇー! 壊し屋ですもんね(笑)。
川原 確かに、漫才とかコントを「作ってる」ではなくて、「作って、どう壊そうか」という感覚なんですよ。お客さんを「どう楽しませようか」ではなくて、「どうむちゃくちゃにしてやろうか」というのが強くて。
浅野 ずっと笑える芸人さんってそう多くない中で、川原さんはずっと「まだあるんだな」って思うんですよね。今、デストロイヤーというのを聞いて、「だからか」と納得しました。僕の中の常識じゃないところを常に更新してくれるからおもしろいです。
僕はそこまでデストロイヤーみたいな気質はないかもしれないですけど、当たり前になってることがあんまり好きじゃないときはあるんですよね。「果たして、これは正しいのかな? おもしろいのかな?」と考えることが多くて、そんなときに川原さんを見ると、「絶対、川原さんと同じ方向に行ったほうがいいんだ」って思うし。
で、実際そうやって自分の中で何か見つけると、喜んでくれる人がいっぱいいるから正解だったなって思えるし。本当にいろいろ取り戻させてもらえる存在です。
川原 光栄です。ファンはファンだけど同類というか、地球に遊びに来てる友達にやっと会えたって感覚なんですよね。地球で生かされてる人が多い中で、浅野さんを見ると「そうだった。俺は地球へ遊びに来たんだった」って気持ちに戻してくれるというか。
浅野 それ、めっちゃうれしいですよ。僕も、川原さんはなんかほっとします。
■絵を描く背景がないのが好き川原 浅野さんは絵も描いてますけど、生き方と一緒で飾らず好きなことを描いてる気がする。浅野さんが「なんか描いてみよう」と思ったから描いてるんだろうな、ということを含めて作品というか。やっぱり、浅野さんなんですよ。
いろいろ考えてしっかり決めて描く人が多いと思うけど、浅野さんはそうじゃない。絵を描く背景がないからこそ、ずっと見てられるというか、そこが好き。
浅野 本当にそうですね。もう、描きたいから描く。絵を描くに当たって、僕は絵描きじゃなくて俳優だってことが、一番ありがたい部分なんです。何も突っ込まれる筋合いがないというか(笑)。
例えば、絵描きの人は誰かと似た絵になってしまったらダメだろうけど、僕は「描きたいからまねしました」って言えちゃうし、楽だなと思います。そもそも、撮影の現場でストレスがすごかったときに、絵を描いてるとすごく楽になったから描いてたんです。
だから、個展はありがたいけど、ドキドキしちゃいますね。「欲しい」って言われるのが実は一番苦痛で。
川原 うれしい、にはならないんですね?
浅野 うれしいんですけど、対応の仕方がわからなくて。置き場所がないので売らせていただくことになったんですけど、売るつもりがなかった絵だから怖いんです。自分のことなのに、「なんで欲しがってくれるんだろう?」って。
川原 売る用って決めて描いた絵もあるんですか?
浅野 何点か描いたんですけど、緊張感がハンパなかったですね。それこそ、「ただ描こう」ではなくて「ちゃんとしなきゃ」って。
川原 それがまた苦痛になっちゃうんじゃ?
浅野 本当にそうなっちゃいました。だから、それを緩和させるための絵を別で描いてました。
川原 置き場所ないから売るのに、また増えるやん(笑)。
(後編につづく)
●川原克己(かわはら・かつみ)
1980年1月21日生まれ、鹿児島県出身。お笑いコンビ「天竺鼠」のボケ担当。芸人以外にも映像監督、俳優、絵本作家、音楽活動など多岐にわたって活動中
●浅野忠信(あさの・ただのぶ)
1973年11月27日生まれ。神奈川県出身。1988年にテレビドラマで俳優デビュー。多くの海外作品に出演し、数々の賞を受賞。モデルやミュージシャンのほか、絵画の個展を開くなど、マルチに活動中
構成/佐々木 笑 撮影/TOWA
記事提供元:週プレNEWS
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