中国の気鋭監督3人の新作、ワン・ビン「青春 -帰-(第2部)「青春 -帰-(第3部)」、ロウ・イエ「未完成の映画」、ジャ・ジャンクー「新世紀ロマンティクス」が公開 【キネマ旬報5月号特集】
国際映画祭での華々しい実績を誇る、中国の気鋭映監督、ワン・ビン、ロウ・イエ、ジャ・ジャンクー。彼らの最新作がこの春、同時期に公開される。ワン・ビン「青春 -帰-(第2部)」「青春 -帰-(第3部)」は4/26(土)、ロウ・イエ「未完成の映画」は5/2(金)、ジャ・ジャンクー「新世紀ロマンティクス」は5/9(金)から、それぞれ上映スタート。
この3作品の公開にあわせて『キネマ旬報』電子版および4月18日発売の『キネマ旬報』5月号では、特集記事「中国映画作家3人が見た、いまの中国」を掲載している。

57歳のワン・ビン、60歳のロウ・イエ、54歳のジャ・ジャンクー。同世代の3人は改革開放後の中国、極端な格差社会が広がり表現が厳しく規制されている故国を、カメラの目でどのように見ているのか。
「青春」によって「一つの場所、一つの時代が浮かび上がる」とワン・ビンは主張する。「未完成の映画」が中国で公開される可能性はまったくないロウ・イエは、「この映画を完成させること自体が一つの成果だと考えられます。残るのは何か、私には分かりません」と嘆息する。そして「新世紀の最初の21年間を振り返ってみた」ジャ・ジャンクーは「どれだけ多くのことが忘れ去られたのか」気づいたそうだ。
それぞれのやり方で現代中国と向き合っている彼らの映画を、本特集では3人の映画のプロ、四方田犬彦、川口敦子、晏妮が批評している。

ワン・ビン「青春」は中国・織里(しょくり)で働く少年少女の群像を記録したドキュメンタリー。今回上映される第2部、第3部と2024年4月に公開された「青春 -春-」を合わせると、上映時間は実に9時間53分に及ぶ。思わずひるんでしまう程の超長尺だが、四方田犬彦は「(ワン・ビンは)ランズマンの「SHOAHショア」(ナチスによるホロコーストの全容に関係者の証言のみで迫ろうとした、全篇9時間27分の超大作。映画史における偉大な達成のひとつ)をいかにして乗り越えるかという問題意識から出発」していることを強調。「映画的持続こそが映画体験の本質であると考える作家の作品」と大絶賛する。そして川口敦子は「ただただ見続けることで、国と人、歴史的現在へのしぶとい批評の目を浮上させてしまう」ワン・ビンの映画力を称える。そして上海出身の晏妮は「止まることなく、一作ごとに目覚ましく進化していく」ワン・ビンの映像革新に目をみはっている。

新型コロナウイルスの感染爆発によって滞在先の武漢のホテルに閉じ込められた撮影クルーと俳優たちを、ドキュメンタリータッチで描いたロウ・イエ「未完成の映画」を四方田は「虚構と現実の間にはもはや境界などとうに消滅してしまったという残酷な認識を観客と共有しようと試みている」と評する。川口は「歴史的現在の切り取り方を断行する、その挑発性にロウの自恃が透けて見える」、晏妮は「国内でタブーとされたコロナ期間を真正面から「記録した」本作は、映画とはなにかを再考させる貴重な一本に違いない」と、その勇気を称えている。

「新世紀ロマンティクス」ではチャオ・タオ、ジャ・ジャンクーの妻で彼の映画のミューズが、恋人ビンとめまぐるしく変化する街に飲み込まれ翻弄され、出逢いと別れを繰り返す。でも、時間は戻らないからとにかく、前に向かって進むしかない。その彼女のまなざしの美しさに、四方田と川口は撃たれた。「ウイルス蔓延時に顔をマスクで隠した男女が、どのように偶然の再会を果たすことができるのか。女優は目と眉と額だけで勝負をする」(四方田)「その心を意志ある沈黙で体現し、今への怒り、悲しみの先にそれでもなお前を向く覚悟を腹の底から吐き出した「はっ」のたった一言に託し切る」
四方田犬彦、川口敦子、晏妮の作品評全文は、『キネマ旬報』電子版および4月18日発売の『キネマ旬報』5月号内の特集「中国映画作家3人が見た、いまの中国」で読むことができる。
文=キネマ旬報編集部
キネマ旬報 2025年5月号 No.1962
2025年4月18日(金)発売
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記事提供元:キネマ旬報WEB
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