おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第44巻編】~ありがとう仮面の貴公子! シリーズ屈指のベストバウトに涙!~
『週プレ』復活シリーズ、JC『キン肉マン』44巻をおぎぬまXがレビュー!!
正義超人と悪魔超人の連合軍(ドリームリーグ)vs 完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)の闘いが、クライマックスに向けてさらに盛り上がっていく第44巻。今巻ではバッファローマンVSグリムリパー、ロビンマスクVSネメシスといった、各陣営のリーダー格が熱戦を繰り広げます!!
●キン肉マン44巻レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5
この巻では団体戦のセカンドステージ、第4&第5ステップで急きょ行なわれたタッグマッチの生き残りである、悪魔超人軍のバッファローマンと完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)のグリムリパー戦の続きから始まります。
グリムリパーは試合の勝敗よりも、仲間だったターボメンから奪ったアースユニットの機能でバッファローマンの超人強度を引き出すことに邁進します。そのために仲間のことを愚弄(ぐろう)したり、痛めつけたりと散々挑発し、ついにバッファローマンの怒りも頂点に。
バッファローマンの全身にあった1000の傷からの流血が、怒りによって引き始める。悪魔に魂を売った超人の再来...!?
最終的に、バッファローマンの超人強度は、グリムリパーの予想をはるかに超えた8000万パワーに到達するのですが、ここは新シリーズでとてつもなく重要な場面だと言えるでしょう。
というのも、このシリーズが成功している秘訣のひとつが「パワーバランスの巧みさ」にあると常々思っていまして。ここでバッファローマンの超人強度が、前シリーズ「キン肉星王位争奪編」でのクライマックスで見せた、主人公・キン肉マンによる"火事場のクソ力"の推定7000万パワーを超える8000万パワーを示したことで、すべての超人の超人強度を見直すきっかけになっているからです。
テリーマンの超人強度は95万パワーだけど瞬間的にはもっとあるんだろうなとか、それこそ前巻で活躍したペンタゴンなども含め、今の超人は前シリーズ以上の強さを秘めているのではないか、と。
それで言うと、バッファローマンの8000万パワーというのは絶妙な落としどころでして、おそらく他の超人たちもこれに準ずるくらいの強化はされているはずでは、と推測できます。
アースユニットの吸収可能最大値である超人強度8000万パワーを超えた、悪魔に目覚めたバッファローマンの怒りのパワー!
そもそも僕個人としては、"火事場のクソ力"とはピンチの時に逆転できる力、いわゆる主人公の特権のようなものだと思っているんです。あえてメタ的に言うならば、〝主人公補正〟のような奇跡のパワーです。それをキン肉マンに関わったすべての超人が得られるかも、というのはとんでもない話で、そんな状況になったら味方側が強すぎない...!?と、つい敵陣営を同情してしまうような複雑な心境に駆られてしまいます。
...が、そんなことは杞憂に過ぎないのでご安心ください。むしろこのあと「どうやったら、こんなバケモノたち相手に勝てるんだよ!?」と叫びたくなるような強敵たちが待ち構えているのですから。
さて、バッファローマンとグリムリパーの一戦に話を戻しますが、怒りに燃えたバッファローマンは、かつての悪魔超人時代の面影を残した苛烈なファイトでグリムリパーを圧倒します。最後は、代名詞のハリケーン・ミキサーの連発からの超人十字架落としでフィニッシュ。死神の化身を十字架落としで倒すというこの締め方も、非常にオシャレですよね。
難敵グリムリパーを撃破し、タッグマッチが決着! この勝利はスプリングマンたち、散っていった同志に捧ぐ...!
闘いの後は、負けたグリムリパーに自身の命を奪うかどうかの選択を迫られたバッファローマンでしたが、キン肉マンの静止もあって逡巡(しゅんじゅん)しながらも、最後はとどめを刺してしまいます。今シリーズではヒールターンしたものの、バッファローマンに対して「なんだかんだ言っていいヤツなんだろ?」という淡い期待があった方も多いと思うのですが、正義超人軍への離反がポーズではないことを決定させるような、鮮烈なシーンでした。
今シリーズの闘いは、あくまで正義超人と悪魔超人、完璧超人の三つ巴マッチです。今は勝利のために一時的に共闘しているだけで、基本的には相容れない立場なんですよね。ただ、「強大な敵が現われて力を合わせて倒す」というだけの展開ではないと思わせる、どこか不穏さを残した引きになっています。
●"不沈艦"ロビンマスク、ここにあり!!次なる闘いでは、正義超人軍のロビンマスクと完璧・無量大数軍のネメシスという、両陣営のリーダー格がついに激突します。この闘いで改めて感じたのは、『キン肉マン』は多種多様な能力を持った超人同士のバトル漫画という認識が強いですが、それ以前に本格的な格闘技漫画であるということですね。
詳しくは後述しますが、この試合では7話にわたって激しい殴り合いの打撃あり、複雑な関節技(サブミッション)あり、ド派手な投げ技ありと、ページをめくるたびに多彩な技が乱舞します。まるで自分が観客席にいるかと錯覚するような鬼気迫る格闘描写です。さらにお互いの主義主張のぶつかり合いやロビンの過去、完璧(パーフェクト)超人のルーツも語られるなど、両者の全てが剥(む)き出しにされる試合となっています。
さて、試合の前に思い出していただきたいのが、今でこそ頼れる正義超人軍のリーダー・ロビンマスクですが、登場当初は主人公の前に立ちはだかる〝最初のボス〟だったということです。ギャグ漫画から始まった『キン肉マン』は、超人オリンピック編から本格的に超人プロレス路線に入ったわけですが、その時の世界チャンピオンがロビンマスクでした。
バトル漫画の宿命として、シリーズを追うごとに敵キャラがどんどん強大になっていくため、登場初期のキャラが闘いについていけなくなるという、いわゆる〝インフレ現象〟がありますが...初登場が第3巻という初期の初期なのにも関わらず、第44巻の時点でも現役バリバリなのは、改めて本当にスゴいことですね。その最初のボスであるロビンマスクが、最新のボス格であるネメシスと闘うという展開も熱い!
記念すべきロビンマスクの初登場シーン。40年以上経っても現役で活躍するとは、ゆでたまご先生も思わなかった!?(JC第3巻より)
そんな〝ボス対決〟の行方はどうなるのか? ロビンマスクはリアルタイムで言うと約20年ぶりのファイトで、作中屈指の人気超人ですし、イチ読者としても絶対勝ってほしいところではあるのですが。一方、ネメシスも同志であったピークア・ブーを軽く捻(ひね)るほどの強豪ですし、見た目からして明らかにキン肉族のルーツを感じさせる出で立ちもあって、ここで敗北するビジョンが浮かびません...!
キン肉王家秘伝の技を使いこなす謎の男・ネメシス。今巻ではその正体が明かされることはなかったが...?
実際、試合序盤からネメシスは、ロビンのアイス・ロック・ジャイロを平然と破り、その後もロビンスペシャルなど次々と繰り出される必殺技を完封していきます。
仮面をへし曲げられて流血するロビンマスク、対してネメシスはほぼ無傷と、あまりにも一方的な試合展開に、もはやロビンに勝ち筋はないんじゃないかと不安に駆られます。ですが、不沈艦の異名通り、並の超人なら決着がついたような状態からでも何度だって立ち上がるのが、我らがリーダー・ロビンマスクなのです。
この試合に僕はシリーズベストバウトと名高い、キン肉星王位争奪編のロビンマスク対マンモスマン戦を重ねてしまいます。足が消えても腕が消えても、自身が消滅する寸前まで闘い続けたロビンマスクの勇姿が蘇ります。
キン肉星王位争奪戦におけるマンモスマンとの一戦。マンモスマンにロープワーク・タワーブリッジをかけながら消滅したロビンマスク(JC第34巻より)
今回の闘いでも、この時点でロビンマスクはネメシス相手に十分善戦しました。ネメシスが放った最初のバトルシップ・シンクで試合終了のゴングが鳴っても、誰も彼を責めなかったでしょう。ですが、そこからロビンは驚異の粘りを見せ、正義超人の矜持(きょうじ)と、自身の想いを拳に乗せたパンチの連打でネメシスとの打ち合いに。
キン肉マンが「カッコイイのう」と思わず涙した場面では、自分ももらい泣きをしてしまいました。本当に「カッコイイ」が詰まっている超人なんですよね、ロビンマスクは。エリート中のエリートでありながら、誰よりも努力家で、そのくせ決して全てが報われない、泥くさいエリート...今も昔も、ロビンはずっとカッコイイ!
超人紳士との異名を持つロビンマスクの、泥臭くも漢気あふれる闘いぶりにキン肉マンも思わず涙...
やがて秘密兵器のタワーブリッジ ネイキッドが炸裂し、勝利を確信するロビンマスクでしたが、ネメシスが柔軟性を高めるために自ら肋骨を折った音を「背骨が砕けた音」と見誤り、逆転KOあと一歩のところで技の脱出を許してしまいます。
ここも本当に熱いシーンで、超人オリンピックでのキン肉マンとの初対決ではキン肉マンの腰骨がなりやすい体質と知らずに、タワーブリッジを緩めてしまい敗北しました。今回の闘いでも背骨を折ったと思ったら肋骨だった、と似たような展開を迎えています。
キン肉マン、そしてネメシス...キン肉王家の血族に関わる者と二度対戦しながら、敗因が同じとは、なんと皮肉な、なんと奇妙な結末でしょう...!
しかも、当時のキン肉マンの勝因が〝ミラクル〟だったのに対し、ネメシスの勝因は計算され尽くした〝実力〟なのも、とことん恐ろしいですね。
ただ、必殺技を外されてもなおロビンマスクは諦めません。新技にして暫定必殺技のブリティッシュ・スティール・エッジを放つものの、不完全な技というのもあって軽く破られてしまい、2度目のバトルシップ・シンクを浴びてしまったところで第44巻は終わります。
この技が『キン肉マンⅡ世』に登場したケビンマスクの必殺技ビッグベン・エッジに発展する...?
正式な試合の結末は、次巻の第45巻に持ち越しとなりますが、改めて振り返るとロビンマスクのスゴさが存分に発揮された超・名試合でしたね。試合中にゴングが鳴ってもおかしくないタイミングは何度もありました。しかし、ロビンは倒れても倒れても何度だって立ち上がる。決着の際ですら、新必殺技をぶち込んでくるのです。ロビンマスクの試合がどれも名勝負足り得る理由は「ここまでやるのか!?」の連続にあるのだな、と思いました。
この世紀の一戦について、最後にあと一つだけ伝えたいことがありますが、試合の決着が描かれる第45巻にとっておきましょう。思い入れが強い試合なこともあり、長文になってしまい申し訳ございませんでした! 今回も最後までお付き合いいただき本当にありがとうございます!
正義・悪魔・完璧による三つ巴(どもえ)の闘いも、次巻でついにクライマックスの第7ステージに入っていきますよ〜!
●こんな見どころにも注目!
地上に降臨中の、慈悲深い〝神〟のお姿がこちら。グロロローが口癖の超人といえば...?
新シリーズの『キン肉マン』は色々と考察の余地がありますよね。それこそ「ストロング・ザ・武道の正体は?」とか「ネメシスって、一体何者なの?」などなど。今巻では、ロビンマスクとの闘いの最中に完璧超人始まりの伝説が明かされました。
それによると、天上界にいた慈悲深い神の一柱が地上に降臨して抹殺予定だった超人の中から優秀な超人を救い出し、救われた超人たちが現在の完璧超人のルーツだそうです。この慈悲深い神の正体、何者なのか気になりますよね? しかし、この神は自身の口癖なのか「グロロロー」という独特かつ聞き覚えのある言葉を口にしています。いや...さ、さすがにこれは考察勢に優しすぎるというか! も、もうちょっとだけ我々読者に考察の余地を残していただいても...。しかし、こういうサービス精神にあふれた部分こそが『キン肉マン』であり、僕はそんな『キン肉マン』が大好きです!
●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中
構成/石綿 寛(樹想社) ©ゆでたまご/集英社
記事提供元:週プレNEWS
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