"ムード歌謡漫談"芸人・タブレット純の自伝本が「生きづらさを抱えるすべての人に刺さる」と話題に!
「人間って自分より弱いダメなモノを見ると安心するところがあるというか(笑)。そういう人たちが僕のダメさに安心しつつ『まあ悪いやつじゃないからなあ』って感じで接してくれたのかなとは思います」と話すタブレット純さん
お笑いの世界に「ムード歌謡漫談」という独自のジャンルを確立し、昭和の香り漂う怪しい芸風で一部に熱烈なファンを持つ芸人、タブレット純。
その切なく、波乱に満ちた半生を、家族が子供時代に捨ててしまった犬「ムク」への思いと重ねながら、自らの筆で振り返るのが本書『ムクの祈り タブレット純自伝』だ。
何をやってもダメダメな、世の中に居場所を見つけられないひとりの青年が、さまざまな出会いや子供の頃から抱き続けるムード歌謡への思いを支えに漂い続ける、私小説のような涙と笑いの物語はタブレット純を知らない人にもオススメの一冊だ。
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――なんとなく"謎の芸人"というイメージもあるタブレット純さんが、ネタバレともいえる自伝を書こうと思われた理由はなんだったんですか?
タブレット純(以下、タブ純) 最初のきっかけはリトル・モアさんから「50歳になる機会に自伝を書きませんか?」というお話をいただいたことでした。
最初は、自分に書けるか不安でしたし、そもそも自分の過去や内面を書く意味があるのだろうか......とか考えながら、まずはたわいのない、幼少期の話なんかをエッセーみたいな感じで書いていました。
ただ、そうやって明確なモチーフや着地点もないまま書き進めていたら、「自伝」というコンセプトから離れてしまったような気がしたんです。
なので、一度すべてボツにして、改めて書き始めようと思ったとき、ふと思い出したのが、子供の頃に飼っていたのに捨ててしまった「ムク」という犬のことでした。
家族にあまりかわいがられることもなく、表向きには「引っ越し先に庭がないから」という理由で捨てられてしまったムクに対する罪悪感をずっと家族全員が引きずり続けていて、あの寂しげな目をしたムクの姿が、いつしか「どこにも居場所のない自分」とシンクロするようになっていたんですね。
そんな、少し悲しい記憶の話を書き始めたら、路線がだんだんと"太宰(治)的"になってしまったというか......(笑)。
――本当に太宰治の小説を読んでいるみたいに文学的で、グッと胸に刺さりました。失礼ですが、本当にタブ純さんが書かれたんですよね?
タブ純 あ、はい。あの、ガラケーで書きました。
――ガラケーでですか!?
タブ純 電車での移動中や待ち時間にも書けるので、いつの間にかこういうスタイルに......。
これまでもムード歌謡の解説本を書いたり、連載のお仕事をさせていただいたり、個人的に詩を書いたりと文章を書く習慣というのはあったんですけど、いつもの「ですます調」で書くと、逆におちゃらけちゃうみたいなところもあって。
今回、小説みたいにシリアスな文体で書いてみたら、意外と素直な自分の思いが出てきたというか。
自分もなんだかんだでもう50歳ですし、最近、身の回りで亡くなる方も多いものですから、自分もいつ消えるかわからないし、だったら自分の人生みたいなものを表してもいいのかなあ......と。
――子供の頃からマイノリティで、この本の中にも切なく、悲しく、あるいは情けない出来事がたくさん出てくるのですが、それでも読んでいて「救い」に感じるのは、そんな、どん底状態のときにも、誰か必ず、タブ純さんと一緒にいてくれたり、親しくしてくれる人が現れることでした。
タブ純 昔からイジられやすいというか、まあパシリ的に使われやすいっていうのもあるんでしょうけど。人間って自分より弱いダメなモノを見ると安心するところがあるというか(笑)。
『ドラえもん』にも「多目くん」ていう、のび太よりさらにダメな子が出てきて、のび太が安心して調子に乗る、みたいな話があって(笑)。
そういう人たちが僕のダメさに安心しつつ「こいつはダメだけど、まあ悪いやつじゃないからなあ」って感じで接してくれたのかなとは思います。
――一方で、介護の仕事をしながら、焼酎と混ぜたペットボトルの水を常に手放せないほどお酒に溺れたり、子供の頃から憧れ続けたムード歌謡グループのメンバーになった途端にグループが消滅したりと、何度もどん底を経験。自死を考えたこともあったそうですね。
タブ純 そうですね。ただ、まあ、けっこう打たれ強いというか、そういうところもあるように思いますし、あと、根本には母の存在があって。
なんだかわからないけど、この年になっても母がものすごく、僕のことを気にかけてくれるので、その母がいる限りはどうしても消えるわけにはいかないかな......というのが大前提にあって、それが常にストッパーにはなっていたようには思いますね。
――もうひとつ、子供の頃から好きだったムード歌謡など、周りの人と趣味が違っても、揺るがない自分が好きなものへのこだわりも、人生の支えになっていたように感じました。
タブ純 子供の頃からずっと好きでい続けているものが多くて、しかも思い入れがどんどん強くなるといいますか、そういう好奇心があるから、これまでなんとか生きてこられたというのは、確かにあると思います。
その点では頑固というか、好きなものはどうしても揺らぐことがないし、ひとりでいるときはそういう趣味に没頭していることが本当に生きがいだったので。
――タブ純さんを導いたマヒナスターズの和田弘さんや、渚ようこさんといった、すでに鬼籍に入られてしまった人たちとのエピソードや、あと「かすみちゃん」との淡く切ないラブストーリーも胸を打ちました。
タブ純 今回、自伝を書きながら、そういう人たちとの出会いがあったおかげで、今は少しマシな状態になったんだと、改めて感謝の気持ちを感じました。
そして、これは一種の自己満足ですけど、それが「かすみちゃん」のモデルになった彼女にもなんらかの形で届けばと思っています。
一方で、書き終わってみると、「ああ、絶対またあのダメな時代に戻るんだろうな。今は少しマシでも、これはきっとつかの間......」みたいに思っている自分もいて(笑)。
やっぱり、根っからのマイナス思考が染みついているというか、逆に「わざと壊したい」みたいなところが、ちょっとあるのかもしれません。
■タブレット純(たぶれっと・じゅん)
「ムード歌謡漫談」という唯一無二の芸風で一部に熱烈なファンを持つ芸人でありながら、歌手や歌謡曲研究家としての顔も持つタブレット純。この異端で異能の芸人はどのようにして誕生したのか? 謎に包まれた半生が自らの筆で明かされる初の自伝! 世の中に自分の居場所を見つけられず、ひとりマイノリティ街道をさまよい続ける青年の、ダメダメで、切なくて悲しくて、情けなくて、でも、ちょっとおかしな泣き笑い青春記!
■『ムクの祈り タブレット純自伝』リトル・モア 1980円(税込)
幼少期より古い歌謡曲に目覚め、思春期は中古レコードを収集しながら愛聴、研究に没頭する。古本屋、介護職などの仕事を経て「和田弘とマヒナスターズ」に加入。グループ解散後はライブハウスなどで活躍し、寄席、お笑いライブにも進出。「ムード歌謡漫談」という新たなジャンルを確立する。ライブ、寄席などで活躍し、ラジオのレギュラー番組多数。オリジナル曲に『東京パラダイス』『銀河に抱かれて』『母よ』などがある
『ムクの祈り タブレット純自伝』リトル・モア 1980円(税込)
取材・文/川喜田 研 撮影/渡辺凌介
記事提供元:週プレNEWS
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