デモ! 投石! 放火!「テスラ・テイクダウン運動」の衝撃
欧米で広がるイーロン・マスク=テスラへの反感。EV販売台数は史上最大の落ち込み.........
米大統領選でトランプにすり寄り、権力を手にしたイーロン・マスクだが、欧米ではCEOを務めるテスラへの抗議活動が拡大。しかも、株価も急落で大ピンチ。今、マスク=テスラに何が起こっているのか!?
■"ナチス式敬礼"が欧州の火種に......まさにフルボッコ!
米のEV(電気自動車)専売メーカー・テスラの話だ。欧米で"テスラ・テイクダウン"と呼ばれる不買運動が広がっている。その抗議活動が実に物騒なのだ。デモはもちろん、テスラのショールームや充電ステーションなどに投石、放火、落書き、テスラ車への破壊行為まで行なわれている。
さらに信号待ちをするテスラ車に近づき、中指を立てながら罵詈雑言を浴びせ、クルマを蹴るなどの嫌がらせも横行......。欧米の専門家らによると、テスラ車に乗るユーザーは、この手のトラブルを回避するための苦肉の策として、クルマの前後にあるエンブレムを他社のモノに変更する人もいるとか。
また、抗議活動の標的にされるのを避けるため、特に米国ではテスラ車を手放す人が激増し、中古相場の値崩れが始まっているという声も聞こえてくる。
事態を重く見たトランプ政権のパム・ボンディ司法長官は、テスラの施設に対する物理攻撃は"テロ"との公式見解を述べたが、これが火に油を注ぐ形となり、抗議活動は拡大の一途をたどっている。
なぜ今、テスラは欧米でつるし上げられているのか。自動車ジャーナリストの桃田健史氏はこう言う。
「イーロン・マスク氏による一連の政治活動や発言に対するユーザーの反発は、欧米で強いですね。自動車ブランドのイメージが、創業者やCEOに直結するケースは極めてまれですが、"テスラ=マスク氏"がブランドの中心にあるのは確かです」
自動車評論家の国沢光宏氏も大きくうなずく。
「今回の抗議活動を見ていて、自動車メーカーが政治の世界に足を踏み入れる怖さを感じました」
世界一の億万長者であるマスクは、米大統領選にあり余る資金を注ぎ込み、"トランプ2.0"の立役者となった。このマスクのサポートにより、大統領の座を手にしたトランプは露骨な"論功行賞"のカードを切った。
トランプ政権で新設された政府効率化省(DOGE)を率いる権利をマスクに与えたのだ。これにより選挙にも出ていない大富豪のマスクが、連邦政府職員の大リストラという"禁断の手札"を握り、全米に懸念の声が広がったという。国沢氏が続ける。
「大前提として、やはり自動車メーカーは政治に首を突っ込むべきではありません。特に米国は共和党と民主党が拮抗している。片方の政党に肩入れすれば、今回のような抗議活動を呼び起こすのは、火を見るよりも明らかです」
自動車専門誌の元幹部は、テスラが"フルボッコ状態"の理由をこう指摘する。
「テスラの米国市場での大躍進の背景には、環境意識の高いリベラル層からの支持がありました。ところがマスクは"反EV"のトランプにすり寄り、とっぴな言動を繰り返し、この岩盤層を敵に回してしまった。しばらくデモは終わらないのでは」
一方、欧州の火種はなんなのか。現地の自動車関係者が口をそろえて挙げたのが、ワシントンのキャピタル・ワン・アリーナで開かれたトランプ大統領就任のイベントだ。
ご存じの方も多いと思うが、ここでマスクは"ナチス式の敬礼"に似た、実に挑発的なポーズを披露したのだ。結果、欧州各地で怒りを買い、テスラに対するデモや放火が頻発! 現在も鎮火の気配はない。
■テスラのライバルBYDは販売絶好調!マスクの政治活動により、テスラ・テイクダウン運動が勃発し、テスラ車のオーナーたちは苦痛を味わい、株価は大幅に下落した。今年1~3月期の販売台数も前年の同時期と比べると5万台減少、販売不振にあえいでいる。
ちなみにこの数字は、テスラ史上最大の落ち込みだという。トランプ政権のハワード・ラトニック商務長官は、米国のニュース番組でテスラ株を購入するよう視聴者に異例の呼びかけを行ない、大きな波紋を呼んだ。
テスラの販売不振の要因は何か。桃田氏が言う。
「事業戦略として見れば、乗用車の商品ぞろえが一段落しました。また、EVがグローバルで"踊り場"にあることは確かです」
マスクが胸を張って市場投入したサイバートラックの販売台数が当初の予測を大きく下回ったことで、販売不振に拍車をかけたという声もあるが、それについてはどうか。
「米国市場でシェアが大きいのがピックアップトラックです。市場のインパクトはあるものの、既存のピックアップトラックユーザーから見れば、奇をてらった商品として受け止められています。ただ、繰り返しになりますが、テスラに関しては、マスク氏の影響が色濃いと思います」
国沢氏の見方は異なる。
「先月、これまで米国で発売されたほぼすべてのサイバートラックがリコールになりました。実は、サイバートラックのウリでもあるステンレス製の外装パネルの接着が走行中に緩くなり、外れる可能性があるとか。
当然、後続車に迷惑なのでリコールになったようです。余談ですが、米国のユーチューバーはサイバートラックの外板を剥がして遊んでいます(笑)」
マスクがテスラの"アイコン的存在"なのは確かだが、と念を押した上で、国沢氏は販売不振についてこう語る。
「世界最大の自動車市場を持つ中国でもテスラが売れなくなっていますが、これは単純に最新の中国製EVに商品力で負けているからです。価格は安くて性能も装備も格段に上。テスラは真摯に現状を受け止め、EV造りに精を出さないとジリ貧になる」
事実、テスラのライバルとされる中国BYDは、今年1~3月の販売台数が前年同期比60%増となる圧巻の100万804台をマーク! この背景を桃田氏が解説する。
「BYDはテスラと違いEV専業メーカーではなく、多彩なパワートレーンのラインナップがあり、中国市場でシェアを上げています。また、電池技術についても、リーズナブルな材料で新しい設計思想を投入しており、電池専業メーカーでないテスラとの差は大きい。
さらに言えば、中国政府にとってBYDは、自動車海外輸出の旗頭。各国との政府間交渉が、結果的にBYDの強みにもなっています」
昨年、世界新車販売台数で世界6位に立った中国BYD。世界最大の自動車市場である中国での販売好調をバックに今年も大躍進か!?
テスラが苦しい理由はほかにもあると国沢氏は言う。
「世界の自動車メディアは、あまりテスラを取り上げません。私もEV購入者に対してテスラをオススメしていない。それはなぜか。詳細な販売台数や電池の容量などを秘密のベールで包んでいるからです。
事故や故障が起きてもその原因を語らず、情報も出してこなかった。当たり前の話ですが、クルマは人間が命を預ける乗り物です。加えてテスラ車に不具合が出た際の対応や、修理代などの事例を耳にしていると、またテスラを買おうという気になる人がどれだけいるか疑問です」
■政府の役職からマスク退任の噂も欧米でフル加速する"テスラ離れ"。焦ったマスクは先月、ホワイトハウスの前にテスラ車をズラリと並べ、反EVのトランプ大統領を相手に宣伝活動を行なった。だが、現地の専門家からは「抗議活動家に燃料を注いだだけ」という厳しい声も。
反EVを掲げるトランプ大統領(右)。ホワイトハウス前に販売不振のテスラ車を並べ、トランプ大統領にテスラを必死に売り込むマスク(左)
最後に国沢氏が総括する。
「テスラ車を持つことをステータスとしていた富裕層や、アーリーアダプター(早期導入者)の購入はすでに一巡しました。このまま何も手を打たなければ、テスラはさらに苦しくなるでしょうね」
金の力でトランプ大統領の最側近的なポジションを手にし、やりたい放題だったマスクだが、来月には政府の役職から退任の噂も......。マスクとテスラの明日はどっちだ!?
取材・文/週プレ自動車班 写真/共同通信社 時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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