見過ごされてきた3本を上映する〈アメリカ黒人映画傑作選〉、識者コメント公開
これまで見過ごされてきたアフリカ系アメリカ人監督の秀作を上映する〈アメリカ黒人映画傑作選〉が、4月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次開催される。ラインナップはキャスリーン・コリンズ監督「ここではないどこかで」(1982)、ビリー・ウッドベリー監督「小さな心に祝福を」(1984)、ジュリー・ダッシュ監督「海から来た娘たち」(1991)の3本。このたび識者のコメントが到着した。

杏レラト(黒人映画歴史家)
LAの反逆者たちとNYブラックインディ。スパイク・リー出現前の70〜80年代の若き黒人映画人のムーブメント。多くがその名前や歴史を知らないのは、公開されることがなかったからだ。大手映画会社では叶わなかった自分たちの映画には、他とは違うアメリカ文化、歴史、民話、生きざま、音楽、芸術、性、女性の社会進出、社会への抵抗が前衛的かつ耽美的にフィルムに収められ、「自分たちの映画を作る」はスパイクらに引き継がれた。時に切なさといった共感を覚えるのは、人種・時を超えた普遍的ゆえ。日本での公開は奇跡であり、最高の喜び。
榎本空(文筆家・翻訳家)
私はあなたが理解できない沈黙。
ブラック・シネマという系譜。人々が奴隷制の余生を生きるために、がんじがらめの生をよりよいものへと変えるために必要としたもう一つのイメージ。
物語は前触れもなく動き、時の流れを錯乱する。唐突にはじまるダンスに、出口のない言葉の応酬と諦めたような瞳に、己の傷を鎧へと変えようと呼びかける女の言葉に、四百年の歴史の隅々までが詰まっている。
ハッピーエンドはない。美しい生は一瞬の鮮明さのうちに捉えられ、刻々と配列を変えていく肉体の躍動のうちに見出される。誰もそんな物語の名前を知らない。
だから刮目せよ。その声に耳をすませ。イメージを肉体に刻め。
押野素子(黒人文学翻訳者)
自立した黒人女性の葛藤がにじみ出る『ここではないどこかで』、不況に苦しむ庶民の生々しい姿を描いた『小さな心に祝福を』、アフロフューチャリズム作品のプロトタイプともいえる『海から来た娘たち』。いずれもタイプはまったく異なりますが、どれも心から「観てよかった」と思える発見に満ちた傑作です。個人的なお薦めは、『小さな心に祝福を』の夫婦喧嘩シーン。映画史上最高にリアルとも言えるやり取りの中で、黒人女性の健気さ、悲しさ、やるせなさ、さらにはユーモアまでもが、ありありと浮かび上がります。
中村隆之(早稲田大学/環大西洋文化研究)
「知られざる傑作」はいつでも存在する。大学で哲学を教える女性の一夏を通じて「愛とは何か」を知的かつエレガントに問い、観る者すら誘惑する『ここではないどこかで』。失業中の中年男性の家族の苦境と悲哀を、モノクロの映像でブルージーに唄い続ける『小さな心に祝福を』。奴隷制の壮絶な過去を生き延びてきた家族の迫り来る生き別れを女性たちの視点から語る、黒人映画の不朽の叙事詩『海から来た娘たち』。ブラック・ディアスポラ文化に関心のある方は、次があるか分からないこの機会を絶対に見逃さないでほしい。
提供:マーメイドフィルム 配給:コピアポア・フィルム
記事提供元:キネマ旬報WEB
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